3.空前の過払い請求の時代

 2000年代の前半、サラ金や街金といった金融業者は我が世の春を謳歌していた。年利29%も利息として搾り取ることができるのだから。

 そもそも利息制限法が定める、20%(元金10万円未満)18%(10万以上100万未満)15%(100万以上)という上限金利ですら大変な高利である。

 事業や投資を経験すれば容易に解ることだが、資本(元手)に対して年15%の利益を上げることは並大抵ではない。

 つまり、消費者金融や街金に駆け込んだ時点で経済的に破綻する運命にあるといえるほどだ。そして、そんな過剰な金利収入が流れ込む金融業が巨大化するのは必然だった。

 そういう訳だから、彼らが任意整理において我々の要求に大らかに振る舞うのは当然。対決して訴訟に持ち込むまでもない。さしたる損失でもないのだから。そういうことで任意整理は我が法曹界にとっても楽勝の案件であった。

 だが、誰かが疑問に思うものだ。

「民事の金利は利息制限法で20%以下と制限されている。なのに、なぜ彼ら消費者金融・街金はそれを超えた利息を取り立てることができるのか?」

 消費者金融から借り入れた債務者の家庭崩壊など、既に深刻な問題が生じていた。支援団体も生まれていた。国会でも議論されていた。

 とはいえ法秩序はなかなか変わらない。可能な限り法の運用は安定していなければならないという大原則がある。近隣国のように独裁者の気紛れでころころ法の運用が変われば、予測可能性が失われ経済社会に打撃となるからだ。

 およそ先進文明国で法秩序が変わる契機は二つ。

 国会で新法が制定されたり法改正があった時、そして、最高裁判所(最高裁)で新たな判断が下された時だ。

 歴史を振り返ると、永遠に栄えた王朝や権力機構は存在しない。絶対的な威厳をもって聳えた独裁権力も突如として瓦解する。『驕れるもの久しからず』である。

 それは巨大企業にも当てはまる。かつて栄華を誇ったアメリカや日本の企業の多くが消え去った。

 日本の金融業界の繁栄も2006年(平成18年)突如として終わりを告げた。

 この年、最高裁判所の判断が相次いで下された。

 最高裁の論理は明快だ。

「グレーゾーン金利は認めることはできない。利息制限法による金利が最高金利であり、それを超えた金銭の受領は不当利得になる」というものだ。

 この判決が下されると、金融界に衝撃を与えると共に、法曹界は大いに湧き立った。

「不当利得返還請求訴訟だ!」「過払金返還訴訟だ!」

 消費者金融・街金の顧客が大挙して法律事務所の門を叩いた。

 間もなく我が事務所も、過払い金返還請求の案件で溢れかえり、てんやわんやの忙しさとなった。

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