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7.債権差押命令(その8)

※本件の法的紛争の概要
 金山は友人の西川に事業資金として200万円を貸したものの、返済してくれない。西川がスポーツくじで400万円の賞金が当たったと聞いて、民事執行手続を取り西川の自宅アパートに踏み込むも全く回収できなかった。
 相談を受けた俺は債権差押命令の申立てを提案する。

藤原「ところで、銀行から陳述催告の回答が届きました」

金山「チンジュツサイコク…なんですかそいつは?」

藤原「ええとですね…」

 陳述催告の申立てとは、債権差押命令の申立てと同時になすもので、第三債務者である銀行に預金の有無、支払いの意思の確認をするものである。

 金融機関は裁判所の命令には従順なので、事実預金があれば、正直に回答し、支払ってくれるのが普通だ。

藤原「回答書によると、預金302万8500円。ですので、ここから元本の200万円、利息、所定の費用の範囲内で銀行から直接取り立てることができます」

金山「やれやれです。迷惑料として300万円全部取りたいところですけど」

藤原「お気持ちはわかりますけど、それには別途債務名義が必要です」

 債務名義とは、繰り返しになるが、強制執行することできる根拠となる公的な文書のことである。確定判決、和解調書、公正証書などのことをいう。

藤原「判決を取るか、合意書を取り交わして新たな公正証書を作成するかが必要になります。手間も費用もかかりますね」


金山「やめておきます」金山は苦笑した。

金山「裁判や交渉している間に、あいつがすっからかんになったらとんだ無駄骨ですからね」

藤原「そうですね。あと、これは余計なお世話かもですが、そういう悪縁は断ち切る方が無難ですよ」

金山「お言葉骨身に沁みます。既に西川には絶交を宣言しときました。泣いて詫びてましたけれど、金があるのに自発的に借金を返さない人間を信用するわけにはいきません」

藤原「ええ、その通りです」
 何でも許すことが優しさではない。許してはならぬことを許さぬ、それを示すことは人間社会で生きる上で不可欠な矜持といえよう。程よい緊張の中にあるから、寛容という言葉が意味をなす。

金山「でも、いつかは許すことになる気がしています。あいつ、根は良いやつだと思うんで。藤原さんには甘いと言われそうですけど」
藤原「いや。矛盾してませんよ。永遠の罰というものありませんし。金山さんが納得するのであれば結構なことと思います」
 時の経過や事情の変化と共に、過ちを赦す、これも人間社会を平穏に保つための真実だと思う。

藤原「ともあれ金山さん、これもご縁です。今後も何かあれば何なりとご相談ください」

金山「もちろん。藤原さんや藤堂先生には今回とても貴重なご意見ご助力をいただきました。ほんとうに助かりました」

藤原(よし。報酬ばかりか、良い顧客を手に入れたぞ)

 というのも、影山から聞いたところによると、金山は地場の酒蔵を経営する会社の御曹司であるとのことだった。将来、顧問先になってくれるかも知れぬ。

 法律事務所・弁護士としての器量はまさに良い顧客をいかに多く抱えるかにかかっている。

 金山が帰ると、影山がニヤリとして近づいてきた。

影山「うまくいったようですね」

藤原「ええ。良いお客を紹介してくれてありがとうございます。影山さんのおかげです」

影山「はは。これも持ちつ持たれつ。またちょいちょい来てくださいよ」

藤原「先日言ってたジム増設はどうなりました?結構期待してるんですよ」

影山「それそれ。知人に見積もりを取って貰ってましてね。近々工事に入る予定です」

藤原「そうですか。楽しみですね」


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