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祝 連載300回「真潮の河」

房州日日新聞購読の方が案外とnoteやX(旧Twitter)に多くおられ、地域ニュースの隙間で「真潮の河」を流し読みされていることと思います。
おかげさまで連載は300回を迎えました。
残念ながらまだ終わりませんが、折り返しは過ぎています。
史実事が多くなってくるのが後半の出来事。
江戸の絵師として次第に有名を刻んでいく菱川師宣と、勝山藩の経済になくてはならぬ醍醐新兵衛。
ここまで根気よくおつきあい頂けましたすべての読者に、心より御礼申し上げます。

あらためまして、「真潮の河」という物語を振り返ってみたいと思います。

① 里見の終わったあとの安房

大坂冬の陣の年、里見忠義は伯耆国倉吉へ転封が沙汰された。
大名家としてではなく減封という厳しい現実。お暇を出される家臣団が大多数であり、彼らは住み慣れた土地を離れて新しい主君に仕えるか、武士をやめて土着するかの二択に迫られた。そして、多くが後者を選んだ。
北条水軍を圧倒した里見水軍も同様である。
勝山で漁業を生業とする人々の中で抜きん出た醍醐家は、生計の活路に捕鯨を見出していく。元々水軍調練だった鯨捕りは単独では困難なこと。組織を作っていくことこそ、これから勝山で生きていく道。
新兵衛の父・四郎兵衛は組織の重要性を説いていく。官民を超えて次第に仲間は増えていく。
そして。
四郎兵衛夫婦にとって因縁深い悪魔の鯨・黒龍。これを討ち取ることが醍醐の家の宿命となっていく。その黒龍が敵と見定めた者こそ、四郎兵衛の長男・新兵衛だった。

② 少年の季節は通り過ぎていく

醍醐新兵衛は子供の世界を持たず無頼で孤高。不器用な少年を見込んだ同年代の浪井源治。ふたりの父は捕鯨の組織作りに邁進する無二の親友。勝山の少年と、保田の少年はいつも張り合っていた。新兵衛が少年社会の頭に担がれると及び腰になる保田の連中。不甲斐ないと新兵衛に挑んだのが、菱川吉兵衛。喧嘩では一度も新兵衛に勝てない。
吉兵衛にも夢がある。新兵衛にのされた仲間が拾った一枚の絵を譲られ、絵の世界に抱く興味。しかし菱川家は縫絵師である。稼業よりも夢を選ぶ少年吉兵衛の心。まさかその絵が、新兵衛の失敗絵を捨てたものとも知らず…。

③ 思春期のふたり

大人社会に仲間入りした新兵衛は父とともに組織作りを成す。黒龍を討つという目的を掲げて。
菱川吉兵衛も親に反発し独学で絵を学び、世を拗ねていっぱしの女たらしになっていくが、心はいつも乾いていた。
大人の世界で迷う二人。主張も真逆で対立ばかり。しかし、どこかで気になる不思議な関係。
黒龍を倒したのは新兵衛だった。それと引き換えに、四郎兵衛は片足を失い棟梁の座を譲ることとなった。捕鯨の組織を背負う新兵衛は、まだ、迷いのなかにあった。

④ 忌まわしき呪いの鎖

黒龍は呪いのなかで生み出された忌むべき存在。倒した者が次の黒龍に転生する呪いにある。信州祢津の歩き巫女が勝山に来た。黒龍の呪いがやがて徳川に仇なすという組織の長・宰相の指図である。その巫女に一目惚れした新兵衛、やがて二人は結婚する。祢津の秘術で黒龍の呪いを薄めていく、その根底にあるのは紀州徳川家の野望。宰相が仰ぐ柳生十兵衛も死した。紀州で蠢く由比正雪の乱を鎮め、ようやく黒龍の呪いを封じた筈だが、ひょんなことで四郎兵衛夫妻は海の藻屑と消える。
両親を失った新兵衛は、こののちの生計のため全てを背負う男となっていく。

⑤ 旅立ち

父と唯一の合作「釈迦涅槃図」を仕上げた菱川吉兵衛は、父や新兵衛たちに背を押され、江戸へと絵師になるため旅立つ。そして、黒龍の呪いを説き終えた新兵衛の妻もこの世を去る。
新しい仲間、源治の妹を後添えとした新兵衛の心機一転。それは、鯨から得られる莫大な収益を公が認めたということ。里見家改易後、暫く存在した勝山藩はながく廃止されていた。この経済基盤は勝山復藩へとつながっていく。

⑥ 絵師・師宣の誕生

長く下積みを重ねた吉兵衛。様々な流派の技を身につけた画力は磨かれていく。そして、版木絵師というあらたなジャンルを開拓。吉兵衛は雅号・師宣を称して、やがて江戸の絵師として大成する第一歩を踏んでいく。

⑦ これからの展望

300回以降の物語は、日本史に登場する様々な天災や事件が二人に関わっていく。それでも新兵衛と吉兵衛は互いの友情を信じて、前を向いて歩いていく。次世代の息吹も聞こえてくる。
江戸では五代将軍の時代が訪れようとしていた。
やがてきたるバブルとその崩壊。
日本震災史上類を観ない元禄大地震に宝永富士噴火。
後半へ向けて、物語の一回ごとの密度も増していく。目を離すな。

房州日日新聞連載作品「真潮の河」。
渾身の一作です!

追伸 現在の連載話で第2部がおわります。
   ラスト第3部、ハンカチを用意して紙面に立ち向かって下さい。