富野由悠季の世界 ‐Zガンダムの場合-
井荻麟で末尾に触れた「機動戦士Zガンダム」。
80年代初頭のアニメでは異色な存在であった。というよりも、革新的なことだらけだった。そのひとつが、前作「機動戦士ガンダム」で終わった物語をわざわざ続編にしたこと。まあ、スポンサーで著作権利を購入したバンダイがおもちゃメーカーとして「売れる」コンテンツを要求したためだと思うが、ただの続編ではなかった。
舞台は7年後。
地球連邦軍はかつてのジオン残党を意図したエリート組織ティターンズを創設。きっかけは、後付けアニメの「機動戦士ガンダム0083」を参照。これにより正規軍の上に特権階級を持つ軍隊が設立されたことで、地球連邦軍のなかに対立構造が誕生する。
ティターンズへの反発は宇宙にこそ大きい。反地球連邦組織(Anti Earth Union Group)通称A.E.U.G.(エゥーゴ)が設立され、企業出資者による軍隊が誕生した。「反地球連邦」を含むものの実際は連邦軍内の一派閥であり、メンバーの多くは連邦軍に籍を持つ。地球連邦軍のブレックス・フォーラ准将が中核となった。政財界に通じる強力なコネクションを駆使して、ティターンズに対抗するために連邦軍の内外から協力者を募ったブレックスは、独自の戦力を整えていく。
丁度アステロイドに逃れていたザビ家残党の拠点アクシズから地球圏の偵察に来ていたシャア・アズナブルは、戦時下で生死不明となっている地球連邦軍将兵になりすまし、クワトロ・バジーナを名乗ってブレックスとともに行動する。
もともとティターンズに反感を持っていたことや因縁が、不幸にもカミーユをパイロットとして成長させニュータイプへと進化させていく。
この戦争の行方は、ティターンズ艦隊をコロニーレーザー「グリプス2」で殲滅することで、壊滅寸前のエウーゴ、漁夫の利で戦力を温存したジオン残党アクシズという構図で終結する。希望のない終わり方。
このアニメの画期的だったところ。
主人公カミーユ・ビダンは精神的負荷でキャパオーバーをしたこと。
敵であるパプティマス・シロッコが心を連れて行くと宣言し死したことで、
精神崩壊(発狂)になるという結末を迎えてしまったのである。
主人公発狂。こんなラストを予測できようか。
よくも悪くも、この作品がその後のガンダムアニメで異色だったのは、その希望が全くないラストのせいと云える。
最終回の翌週から、直後の時間で始まる続編「機動戦士ガンダムZZ」は陽性な新主人公により救いを見出すことにはなる。が、作品は賛否両論だ。
このラストをまったく変えたのが、のちに作られた新訳劇場映画。
ただしこの筋書きだと、「機動戦士ガンダムZZ」にはつながらず、よって「逆襲のシャア」にもつながらなくなる。新訳ZZの待望論もあるのだが……個人的にはTV版のつらいラストもありなのかな。
富野由悠季が描きたかったのは、こんなに苦しんでいるシャアの姿なのか。
前作で希望を見出した世界を覆すことだったのか。
新旧登場人物で得した者などいたのだろうか。スポンサーの掌で踊るしかなかったのだろうか。
少なくとも、この作品の成否は別として、ビジネスコンテンツとして、ガンダムは終われない作品にされてしまったということだ。