《阪神梅田地下街立ち呑み屋「山奥鹿」》嵯峨野小倉山荘色紙和歌異聞~八十三の歌~
《阪神梅田地下街立ち呑み屋「山奥鹿」》原作:皇太后宮大夫俊成
「同期の桜は満開やのになぁ~」
「あんさん、出世だけが男の生きる道やあらへんで」
「せやせや、沈まぬ太陽って事もある!」
「そうやなぁ、哀しいもんを見過ぎたお人は出世せんほうがエエねん」
「まぁ、いろいろ意見もあるやろけど、プワぁーっと一杯、いこや!」
「ほんなら、まっ、乾杯!」
(注)「沈まぬ太陽」=人気作家の山崎豊子の同名ベストセラー小説。
<承前八十二の歌>
女房の差し出す小袿を式子に纏わせると、自らは薄青の狩衣を素早く身に着けた。
「皆の者、大儀であった。下がりおれ」
定家は目を丸くして突っ立っていた多くの女房に言い渡す。
式子がクスクスと笑った。そして、定家に手を引かれて母屋に戻る道すがらに言う。
「皆、驚いたでしょうね」
笑い声を抑えるの苦しいようだった。
「世の中よ 道こそなけれ 思ひ入る 山の奥にも 鹿ぞ鳴くなる」
「人の世からの逃げ場はないのでございますね。他人の眼と口を閉じる事はできませぬ」
式子は嬉しそうに言う。
「式子様は定家との中を噂されたいのですか?」
「もちろんでございます」
ふふふ、と式子は笑みを含んだ。
<後続八十四の歌>