《気弱な坊主》嵯峨野小倉山荘色紙和歌異聞~八十二の歌~
《気弱な坊主》原作:道因法師
わし、坊主やけど、女人が恋しい。
いつもは袈裟衣やけど、ジーンズにTシャツ着たら
けっこう、ロックやで……スキンヘッドやし。
可愛い娘から、『かっこいい、素敵、大好きや!』
なんて言われたいなぁ……。
サングラスの裏でそっと涙を拭く、今日この頃。
<承前八十一の歌>
水柱が上がり、邸中に破裂音が響く。たちまち、警護の武士や宿直の女房などが駆けつけてきた。
水面に顔を出した定家は大音声にて命令を発する。
「ここにおわすは内親王様なるぞ。武士共は退がれ。お目見えあいならぬ。女房共は内親王様のお着物をすぐさまにお持ちせよ」
定家はしっかりと式子を抱いていた。
「裸のまま池の外に出てもよろしいのに……」
式子はクスクスと笑う。
「武士共に見られますぞ」
「かまいませぬ」
「定家はかまいまする」
「嫉妬?」
「思ひわび さても命は あるものを憂きにたへぬは 涙なりけり」
「式子はつれない?」
「涙もでませぬ」
定家は苦く笑った。
<後続八十三の歌>