あの日の出来事。

彼氏と別れた。
わりと寒い日だった。「もうすぐ着く」と彼にLINEを送る手が寒かったような気がする。
その日の前日の夜、私は違う人の腕に抱かれていた。いつもの、何も変わらない安心するあの人の腕の中。抱きしめてキスをして、タバコの匂いのする好きと愛してるをもらった。
そのあと私は別の友達に会い、その友達の手に触れた。その友達の手はわたしより全然大きくて、指が綺麗で、わたしはいつも友達の手を撫でながら、たくさん話して笑った。
友達と別れて彼氏の元に向かった。
別れを切り出された。
彼氏とは元々別れるつもりだった。でもこうなるはずじゃなかった。別れはもっと計画的に、そして綺麗に準備できるはずだった。そうじゃなければいけなかった。いけないとまで思っていたし、信じて疑わなかった。
なのに、別れを切り出された。向こうから。仕方のない理由で。その理由には太刀打ちできなかった。もちろん、太刀打ちなんてできなくていい。別れたいんだから。でも、完璧な別れを用意したかったのに。
少し話をしたあと、「ありがとうね」とお互い礼を言って別れた。
私は、彼はわたしのことを何も知らずに幸せな人だ、と思った。
でもふと、彼もそう思っているかもしれないと思った。
全部知っているとは知らずに幸せな人だ、と。
そう考えると、彼のことをよく知らない自分を幸せだと思った。
彼も幸せであるといいと願う。

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