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「月が綺麗」なんて|月のうた

めっきり秋めいて、あっという間に冬がやってきそうなこの頃。
空気が澄んで、星や月がくっきり浮かぶ季節に変わっていく。

そんな時期にピッタリの一冊に出会った。

「月」をテーマに、百人が一首ずつ歌を読んだ詩集。
同じシリーズの「海のうた」もこの夏に読んだけど、素敵な装丁と、丁寧に編み込まれた文章からなるこの本は季節を鮮やかに彩ってくれる。

普段、短歌や詩といったものを読まないので、
正直わからない作品も少なくない。

その中で、ふと目に止まる歌がある。

まだふたり名残惜しさを口にする距離にはなくて月の話を

月のうた|吉岡太朗

思い出されるのは、夏目漱石が「I love you」を「月が綺麗ですね」と訳したエピソード。
とっくに議論され尽くしてるんだろうと思いつつ、このフレーズが発される場面や気持ちについて考えてみたい。

この歌を読んでいるとこんな情景が浮かんでくる。

2人でご飯に出かけて、並んで歩く帰り道。
分かれ道に着いてもだらだら話し込んでしまう。

この上なくビミョーな関係。
特別な存在ではあるけど、そのことを言葉にするにはまだ勇気が足りない。
後ろ髪を引かれて、「じゃあ」なんて言い出したくない。

自分の話をして、同じように相手の話を聞く。
通じ合えることが嬉しくて、不思議と安心感が湧いてくる。
少しずつ踏み込む深さを変えていって、少しずつ心を広く開いていく。

TOMOOの「17」の歌詞にこんな一節がある。

互い違いの昔話 君にアンコール
はにかんだ影法師 見えそうで

17|TOMOO

そんなふうに繰り返すお互いの話も少しずつ尽きてくる。
それでも、このままこの場を終わらせるのはもったいない。

すがるようにして、そこに浮かぶ「月」の話をする。
「今日の月は綺麗だね」とか「さっきはあの辺にあったのにね」とか。
少しでもあなたと一緒にいる時間を引き延ばしたいという想いが、染み出した言葉なのではないだろうか。

「月が綺麗」なんて、言わない。なんでもない人に。

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