『まことに小さな国が開化期を迎えようとしている』 明治維新を敢行し近代国家となった日本が、世界の大国であるロシアを相手に戦争をくり広げた日露戦争を題材に描かれた小説。 全8巻、2,000ページを超える長大な小説を2カ月ほどかけて読了した。読み終えた後にはふつふつと湧き上がる熱い感情と、なんとも言えないさびしさに包まれた。 私がこの作品に出会ったのは10年ほど前になる。 当時、この小説はNHKによってテレビドラマ化され、数年かけて放送されていた。私も祖父に勧められ、テレ
衝撃的なタイトルをSNSで見かけ、思わずAmazonで購入。 「男はなぜ孤独死するのか」は、現代において(成人した)男性がいかにして孤独になっていくか、その原因は何か、そしてそこから脱するにはどうすべきかということについて書かれた本である。 本書は「男性」について焦点を当てて書かれている本だが、筆者も述べているように、男女問わず、特に成人した人間に広く通じる普遍的な孤独についての洞察がまとめられている。 また、本書はアメリカの多人種・多文化を背景に書かれている主張も多い
ふとした時に思い出す、頭の隅にこびりついた忘れられない記憶がある。 高一の時のホームステイ先で聞いた、家族の歴史に関する話はその一つだ。 同級生がホームステイをしている家庭でのホームパーティーの帰りだった。 その家は湖のほとりにあって、庭から湖に向かって桟橋が伸びており、 大きなクルーザーが停泊していた。 いかにも「アメリカ!」というふうで、美しいブロンドの髪の家族だった。 「あの家族は本当にえらい。家族の歴史の呪いに打ち勝ったのよ」 家に帰る途中、高速道路を運転しな
アジア人初のノーベル文学賞受賞。 普段はもっぱら日本の文学を読むことが多いが、ミーハー心からその著作を読もうと思った。 ただ、受賞の影響により書店はおろかネットでも扱いが少なく、なかなか手元に届くまでに時間がかかってしまった。 仕事も立て込んでおりなかなか読書の時間が取れない中、 やっとのことで読み始めた小説には、 これまではあまり経験したことのない、ゆっくりとその世界が染み込んでいくような不思議な読書体験が待っていた。 「すべての、白いものたちの」は、目録に並べられた
高い。 なんでもない週末に、地方にいる旧友にふらっと会いにいく時。 あるいは、好きなアーティストのライブを目的に地方への遠征に出かける時。 ネットで検索して出てくるホテルはどれも、高い。 とにかく宿泊費が高いのはいつからなんだろう。 宿やホテル自体が旅行の主要な要素では無い時に、一泊一万円以上の宿に(それも1人で)泊まるのはなかなか抵抗感がある。 そんな時に重宝するのはカプセルホテル「ナインアワーズ」。 今よりも金銭的な余裕がなかった学生時代から大変お世話になっている
寒い。 と思ったら暑い。 そんなふうに不規則な気温にやられて体調を崩す時期がやってきた。 「あなたの風邪はどこから?」 というCMを見ても、 「場合によるだろ...」 と昔は思っていたけれど、 今は確実に「喉から」と言える。 朝起きた瞬間の不自然な渇き、喉にからまる痰、それが初期症状で、数時間後に頭痛を伴った発熱がある。 翌日に体温は急上昇し、数日は寝込むことになる。 熱が下がった後も鼻のズルズルは続き、副鼻腔炎につながることもありうる。 体調不良で失う時間も、費
テレビプロデューサー佐久間さんのラジオイベントに参加してきた。 トークの細かな内容はレポ禁とのことだったので、イベント全体の雰囲気を中心に書きたいと思う。 (横浜アリーナらしくなく?)会場にはおじさんが多く「こういった人たちが、いつもこのラジオを聴いているんだなぁ」という不思議な気持ちになる。 昨日のオードリーANNをradikoで聴きながら開演を待つ。 オープニングからブレアウィッチ、ドクターコトーのパロディが続き、ラジオネタや佐久間さんならではのエンタメの小ネタが
「生殖記」 聞き慣れない単語をタイトルに冠するこの小説は、 主人公である尚成の生殖本能の視点から「ヒト」という種族の生殖に関して記述されていくという物語である。 自分で書いていても不思議な表現だと思うが、まあそういう小説である。 タイトルも印象的だが、その装丁も目を引くものがある。 (前作「正欲」の装丁も印象的で「単行本を持ち歩くことが意思表示になる」みたいに言われていたのが懐かしい) 白地に三文字だけのシンプルなデザイン。 文字は銀色だが、見る角度によって虹のように色
人間をいくつかの類型に分ける診断や占いがある。 最近だとMBTIとか、古くは血液型占いとか。 そういった、設問に対する回答や出自といった事実から導き出される類型とは異なる、極めて曖昧だが、この上なく確実な人間の区分を感じる時がある。 「何もかも憂鬱な夜に」は、刑務官として働く主人公が、ある夫婦を殺害し、その判決を待つ二十歳の男を担当するという話。 男とのやり取りを通じて、自殺したかつての友人や、自分を救ってくれた恩人との過去が呼び起こされていく。 冒頭の話に戻ると、 「
「今日の晩御飯は外食にしようか、自炊にしようか」 「最近は外食続きだから久しぶりに自炊か・・・?」 「でも今週は飲み会もあるから残り物ができると処理が面倒だよなぁ」 普段生きている中で、決めなければいけないことはとんでもなく多い。 今日の晩御飯から、仕事で任された資料、人生における大きな決断まで、 大小はともかく、とにかく選ぶことは多い。 そんな時に、どうしても複数の選択肢が0点と100点に見えてしまう。 「選ばなかった方」を隣の芝生として植えて、その青々とした生育を見
子どもの頃、お気に入りのおもちゃ達を入れておく大きな箱があった。 レゴや仮面ライダーのベルト、戦隊もののフィギュアなど、様々なものが混ざり合っている箱。 子どもの頃から片付けることが苦手だった。遊び終わったおもちゃをほったらかしにしていていると母に叱られて、片っ端からその箱におもちゃを詰め込んでいった。 ジャンルがばらばらだから、傍目から見るとカオスなんだろうが、自分にとっての明確な「スキ」が集まった大切なボックスだった。 引越しをするので、自分の持ち物を断捨離している時。
めっきり秋めいて、あっという間に冬がやってきそうなこの頃。 空気が澄んで、星や月がくっきり浮かぶ季節に変わっていく。 そんな時期にピッタリの一冊に出会った。 「月」をテーマに、百人が一首ずつ歌を読んだ詩集。 同じシリーズの「海のうた」もこの夏に読んだけど、素敵な装丁と、丁寧に編み込まれた文章からなるこの本は季節を鮮やかに彩ってくれる。 普段、短歌や詩といったものを読まないので、 正直わからない作品も少なくない。 その中で、ふと目に止まる歌がある。 思い出されるのは、
さくらももこさんのエッセイ。 とってもユーモラスで、エッジが立っていて、暖かい、そんな物語たちが大好きだ。 今回読んだのは、さくらさんの幼年期から小学校に上がるまでのエピソードを描いた「おんぶにだっこ」。 驚いたのは、子どもの頃の記憶や、その記憶に紐づく感覚をこんなにも鮮明に覚えているということ。 読み進めるうちに、自分自身も成長する過程で感じた不安や悩みをひさしぶりに思い出すことができた。 思えば、子どもの頃は不安だらけだった。 目の前で起こることに過剰に反応し、慌て
「カバーお願いします」 書店で文庫を買う時には、基本的に必ずブックカバーを付けてもらうようにしている。 オンラインで本を買う時は、当然だけどカバーが付いていない状態で本が届くので、なんだかむず痒い。 最近はセルフレジの書店も増えてきているけど、その場合は自分でカバーをつける必要があり、書店員さんの手際の良さに脱帽する。 単行本は裸のまま持ち歩き、文庫本にだけブックカバーをつけるのは、なんとなくのこだわりだ。 たぶん、単行本の場合は無意識に装丁に価値を見出しているんだと思う。
東京に住み始めてもうすぐ1年半になる。 これまでの人生の中でいくつかの街に住んできたが、街に住み続けていると、なんとなくのその街が持つ雰囲気、あるいは概形のようなものが掴めてくることがある。 自分の中でのその街の象徴のようなものを見つけることがある。 「東京は、個性のない都市だ」 そんな言葉を聞くことがある。 個性がない、というよりも多くの都市や街の個性や文化が集積してきているので、東京固有の特性のようなものがないということなんだと思う。 東京の東側、千葉寄りに住んでいる
長い間たのしみにして、待ち望んでいたエッセイが自宅に届くや否や、一気に読み切ってしまった。 「あーあ、もったいない・・・」という気持ちと、 「何このエッセイ素晴らし過ぎた。こんなに魅力的なんだからしょうがない」という気持ちと、 「また改めて、ひとつずつ大切に読み返していけばいいんじゃない」という気持ちがごちゃ混ぜな読後感。 でも確実に、もっともっと星野源さんが好きになるエッセイだった。 「いのちの車窓から 2」は「ダ・ヴィンチ」にて2017年から2023年にかけて連載された