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出会いは未来だ|いのちの車窓から 2(星野源)
長い間たのしみにして、待ち望んでいたエッセイが自宅に届くや否や、一気に読み切ってしまった。
「あーあ、もったいない・・・」という気持ちと、
「何このエッセイ素晴らし過ぎた。こんなに魅力的なんだからしょうがない」という気持ちと、
「また改めて、ひとつずつ大切に読み返していけばいいんじゃない」という気持ちがごちゃ混ぜな読後感。
でも確実に、もっともっと星野源さんが好きになるエッセイだった。
「いのちの車窓から 2」は「ダ・ヴィンチ」にて2017年から2023年にかけて連載されたエッセイ「いのちの車窓から」に加筆・修正をしたものに、さらに4編の書き下ろしを加えた書籍である。
音楽家・俳優として大大大ブレイクしていた2017年から、コロナ禍に突入する2020年、結婚を発表した2021年、そしてその先の生活と、移ろっていく星野さんの「車窓」からみる景色を描いたエッセイ集。
個人的に、コロナ禍から「星野源のオールナイトニッポン」を聴き始めたということもあり、2020年以降のエピソードはどれも当時を思い出させてくれる要素が散りばめられていてなつかしい気持ちになる。
喜怒哀楽だけでは表現できないさまざまな感情が詰まったエッセイ集だと思う。
どれも素敵で、心を揺らすものだったけど、ここではいくつかのエッセイにフォーカスして書いていきたいと思う。
「喜劇」
SPY FAMILYの主題歌「喜劇」の作詞秘話について描かれた、書き下ろしの一編。
星野さんの妻である新垣結衣さんとの、何気ない日常のエピソードがきっかけで喜劇の歌詞が完成したという話だが、なんとも言い難い暖かさがある….!
同書の「食卓」にも新垣さんとのエピソードは含まれており、その中で描かれる星野さんの「こんなことを話していいのだろうか?」という無限の葛藤と、おそるおそる差し出されたものに対する新垣さんの「なんでもなさ」がとても素敵。差し出した後の星野さんの「なんでもなかった」という感情、少しずつ内面が変化していく描写がとても暖かい。本当によい。
自分の中でぐるぐるぐるぐると考え込んでしまって、外に出す時にはあらかた考えが整理されている、ということがたまに私にもある。
一方で、もやもやした感情のまま自分の心の中にそっとしまい続ける感情もある。
そんな、まだ形になっていない感情を曝け出せる相手がいること。面倒くさい自分に向き合ってくれて、一緒に悩んでくれて、新しい自分に出会う手助けをしてくれる人がそばにいることは、この上なく嬉しいことなんだと思わされる一説だった。
とんでもないどんでん返しや、激アツ展開の物語に触れるとゾクゾクが止まらずに鳥肌が立つことがある。星野さんと新垣さんの話はそのゾクゾクの上から暖かい衣をそっとかけられるような安心感とポカポカ感がある。
なお、同書の「贈り物」では、そんな読者の気持ちを弄ぶような?文筆家星野源による一説があり、読み切った後に思わず声が出た。
「言葉の排泄」
一つ目で書きすぎた・・・。ここからはコンパクトに。
常に暴力的な情報に溢れかえる日々の中で、どうやって気持ちよく生きていくのか?
そのためにはネガティブな自分の思考や感情を「排泄」することが重要であるということ。
私は昔から正直に自分の感情を言葉にすることが苦手だ。ネガティブに思ってしまうことがあると、すぐに「そんなこと、思ってはいけない!」と判断して「思ってはいけない感情ボックス」に感情を入れて蓋をする癖がある。
(こう書いていると「インサイド・ヘッド」みたいだと思う)
昔に比べるとその頻度は減ってきたが、「ありたい自分」に近づきたい時はどうしてもそんな処理をしてしまう。
負の感情を見ないようにすることで、感じなかったことにする(フリをする)というのもいいけど、排泄する習慣をつける努力をするのもいいかなと思った。
星野さんは思ったことをコピー用紙にひたすら書き殴り、それを眺めた後にシュレッダーにかけるそう。
以前「書く瞑想」と呼ばれる「ジャーナリング」をやったことがあるが、この星野さんの方法はこのジャーナリングに近い部分があるんじゃないかと思う。
無理に向き合うのではなく、思うがまま吐き出して、捨て去ること。
中座ー逆ギャグ漫画
次に行く前に、このエッセイ全体を通じて思った、クスッとしてしまったことを書きたいと思う。
星野さんは、いつも沈んでいる。
(もちろんひとつひとつのエッセイの間に数ヶ月も空いているのだからしょうがないのだろうけど)
それぞれのエッセイの最後には「こんな奇跡があった」というドキドキや、再生に向けた素晴らしい一説で締めくくられるが、ページをめくると「何もする気が起きない」というような書き出しから次の話が始まるのである。
これはもう、ほぼギャグ漫画の世界観じゃないか。
ギャグ漫画では、前の話で包帯ぐるぐる巻きになっていても、次の話では何事もなかったようにピンピンしていることがある。
星野さんのエッセイはその逆で、常にその時その時の悩みに駆られている。なんて面白い人なんだろう。そして、やはり悩みから逃げおおせることなんて、永遠にできないんだろうなってことを受け入れることができる。
「『出会い』は『未来』である」
このタイトルを目にした時、思い出したのは星野さんの楽曲「光の跡」の一説。
笑い合うのはなぜ ただ朽ちるしかないこの時を
僕ら燃える 命の跡
消えてゆくのになぜ ただ忘れたくない思い出を 増やすのだろう
ほら 出会いは未来だ
このエッセイは、2019年に星野さんが開催したツアー「POP VIRUS」が終了した時の「ひとりぼっちさ」やそこまで連れて行ってくれた多くの縁について描かれている。
同書の中では、故人である方々と星野さんとのつながりを描いたエッセイも収録されており、要所要所で人との不思議な縁について描かれている。
たった独り。
やはり、周りに人がいようがいまいが、人間はずっと独りだという想いは変わらなかった。
誰にも預けることができない、かけがえのない個を私は持っている。
だからこそ、同じく孤独である誰かと手を繋ぎ、時を分かち合う。
家族や仲間と過ごす。
私たちは一つにはなれないし、分かりあうことはできない。
それをわかっているからこそ、私たちは手を取り合うのだ。
(上記は同書「いのちの車窓から」より引用)
人と人は最終的には分かり合えない。
それでも手を取り合い、そこからかけがえのない一瞬が生まれることがあること。そんな刹那の感動、思い出を胸にどうしようもない世界を生きていくということ。
全編を通して、さまざまな感情が繊細な文章で綴られている素敵な書籍だった。
また改めてひとつずつ読み返して、丁寧に想いを馳せてみたいと思った。
星野源のオールナイトニッポンも先週400回記念という節目を迎えた放送だった。
これからの星野さんが何を想い、どんな形にしていくのか。
私自身の変化とともに、これからも思いきり味わっていきたいと思った。
本当にいつもありがとうございます。