美術作品を保存し未来に伝えるために
タイトルの写真は神奈川県立近代美術館・鎌倉別館の前庭だ。
ここで、評判を呼んでいる展示が7月28日まで催されていた。
美術館では、所有しているコレクションを、いかに良い状態で
保存し、未来に残して行けるかに心を砕いている。
普段私たちが美術館に行って作品を鑑賞するときに、その作品がどのように守られ保存されているかまでは、意識が巡らない。
しかし、美術館では気候変動や自然災害など、また経年による変化に
対応すべく、最善の方法で未来に残そうと日々手を尽くしている。
その作品修復過程や、その道具、展示のための工夫などの取り組みを
紹介している展覧会だ。
神奈川県立近代美術館では、全国でも数少ない修復担当の研究員が
配属されている。
鎌倉八幡宮の境内にあった県立美術館が、葉山の新しい館に移転した
ことをきっかけに、修復のための部屋が用意でき、修復研究員の配置が可能になり、さらには今回の展示会にも繋がったのだ。
会場には神奈川県立近代美術館所蔵で、修復された作品の何点かが修復前の様子とともに展示されていた。
古賀春江のこの作品は背景の青空が印象的だが、1992年に
修復されるまでは画面全体が黄ばんでいたという。
修復を終えた当時の学芸員たちは、そのあまりの印象に違いに戸惑ったと
言われ、実際、修復前の写真があったが全く違う作品かと思うほどだった。
額縁一つでもオリジナルをいかに保存し修復していくか、研鑽が重ねられている。
管理に細心の注意が払われている一つとしてジャコメッティーの塑像が
あった。写真でもわかるように人の人差し指ほどの大きさ、しかも石膏で
出来ているので、非常に脆くて壊れやすいのだという。
美術館の収蔵庫が湿度管理や気温管理がなされていることは、想像されることだが、空気中のあらゆるガスを管理するのも作品を守る上で必要と
される。
作品の展示方法や運ぶときに、美術館が心掛けていること、パッケージの
方法などの展示もされていた。
撮影禁止のものだったので、写真はないが興味を惹かれたものに、
イサムノグチが作ったという広島平和記念碑の小さな試作品があった。
(神奈川県立近代美術館には、鎌倉八幡様の境内にあった時から、
イサムノグチの作品の彫像が飾られており、現在は葉山に飾られている)
平和記念碑を作るにあたって、初めはイサム・ノグチに依頼したものの、
一般にはイサム・ノグチはアメリカ人の血が入っているからということで、
キャンセルになったとされてる。しかし、広島市では「デザインが抽象的
すぎて難解だ」というのが理由だった。
それで「広島平和記念公園」の建設に初めから関わっていた丹下健三の
作となった経緯があるらしい。
その小さな試作品が、県立美術館に残されていたという。
それを見ると、今ある丹下健三の記念碑と非常によく似ていた。
元々記念碑を作るにあたって、イサムノグチを推薦したのは丹下健三だったそうで、丹下健三はイサムノグチの意思(古代の埴輪を意識したり、地下の慰霊室については遺族の慰めの場所であり、来るべき生命を暗示させる場所なのだという言葉を残している)を尊重したのではないかということだ。
そうした歴史的経緯を知ることができるのも、美術館の努力に拠るところが大きいと知る。
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