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定員 (お題:星が降る)

(ショートショート 635文字)
 「星が降るかもなぁ。」考ちゃんは窓を開けて顔を出した。

 ひと月前、考ちゃんは言った。
 「僕の計算では僅かに軌道がずれている衛星がある。だから、あの秘密の防空壕に物資を備えておこう。」
 定員2名だ。

 私達はそっと玄関を出て、懐中電灯を点けた。
 目の前にお隣の菊池さんのご主人が立っていた。
「どこへ行くんです?」
 背後で奥さんが生後2ヶ月のカツオくんを抱いて泣いている。
 「この所様子が変だと思って家内に監視させていたんですよ。自分達だけ助かろうなんて!」声が高まり、人だかりが出来てしまった。
 私は奥さんにタックルされ倒れた。
 「うちの子供は生まれたばかりなんです。どうか助けて!」集まった人達が我も我もとのしかかった。

 なんとか逃げ切り防空壕にたどり着く。扉を閉めた直接に地響きがした。
 街が燃えているのが伝わってくる。

 数日後、恐る恐る扉を開けた。街は変わりなく、何事も無かったような静けさだ。
 菊池さんのご夫婦が赤ちゃんを抱いて楽しそうに歩いている。
 「あら、菊池さん、だ、大丈夫だったんですね。あの時はすみません。」
 菊池さんは驚いて引き攣った顔で笑う。
 「うちに寄って下さい。パイを焼いたんですよ。」
 私は気になって我が家を振り返った。すると、慌てて出ていく家族がある。

 私達だ。

 私はびっくりして吉田さんをみた。
 菊池さんの額がぐっとせりだしてパカリと開き、大きな目玉が覗いた。
 目玉は言った。「まさか、生き残りがいるとはね。」



 


参加させて頂きます。
小牧幸助さま
いつも楽しい企画をありがとうございます!

よろしくお願いいたします。


#シロクマ文芸部 #星が降る


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