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希望までの距離 (掌握小説)
甘いものを食べた。
やっちゃんに手紙で書こう、と道子は思った。
夢のなかでもいいや。お饅頭が食べたかったんだ。
リハビリパンツの中が尿で蒸れて痛痒かった。
八重子は道子から届いた手紙を読み返した。
「やっちゃん。入院していました。
お前は価値がないとか、死ねとか言われて
声が本当じゃないと分かっていても落ち込んでしまいます。
やっちゃんは死後の世界のことを考えますか?
魂だけは、自分が死んでも新しい世界に行くんだとしたらそれはどんな世界だろう。
病院で4人の大きな男性看護師さんに囲まれ、ベッドに拘束されました。
男の人に囲まれると怖いです。
暴れなかったんだけどな。
夢で饅頭が出てきたんだよ。
あんこがみっしりですごく美味しかった。
やっちゃんなんか、毎日そんな夢見ると思いますよ。
無職、無所属ってじわじわ、しんどいです。
やっちゃんは無理していませんか。
人の悩みはそれぞれだから、興味深いです。教えてね。
まだ薬が強くて、字がうまく書けません。
読み辛くてごめんね。
道子」
八重子は手紙を綺麗に折り直した。