父の資格 5

 高校受験の失敗に動揺する銀次郎を尻目にりんは「歌手になる。」と言って東京に出て行った。
 銀次郎が大学時代のコネを頼りに事務所や仕事を世話をしても、トラブルばかり起こした。
 16歳になるとアルバイトをすると言い出した。
―あんな馬鹿がどこで働けるものか。
 銀次郎は仕送りを増やした。
都会の恐ろしさも、男の怖さもあいつは知らない。
 りんが自分とつながる細い糸を切り、一人現実という世界を漂う姿を想像しただけで銀次郎は苦しかった。
 亜季の方はといえば
「お祈りしましょ。神様がいるかどうか知らないけど、お祈りしてればいつか真実に辿りつけるはずよ。」
「お、ま、え、は、馬鹿かっ!
死んだらどうするんだ。犯罪に巻き込まれたらどうするんだ!」

 亜季はりんが出て行っても寂しがらなかった。
その代わりにパニック障害になった。
 銀次郎は亜季の念願だった、アトリエ付きの家を建ててやつた。
りんへの仕送りも、そのうちに家が一軒建てられる金額に昇るだろう。
 ―どうだ、お前ら俺がいなければ生きていけないだろう。

そうして二十年。銀次郎は自分の存在の証を買う為に、金を稼ぎ続けた。

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