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おしゃべり(ショートショート お題:寒い日に)

(522文字)

 寒い日にミニスカートで、女が公園のベンチにいる。
 北風で長い髪がびっと流れた。
 ほう。私は歩を止めた。髪が踊り始める。

 ありゃ。絡まらんかね。

「いつも、饒舌しゃべり過ぎちゃうの。きっと嫌われたわ。」
 背を向けたまま、唐突に女が言った。

 私の他に誰もいないようだ。
 烏が一羽、彼女の前にしだれた枝で遊んでいる。
 「だ、大丈夫じゃない?」私は言ってみた。
 「本当は、さ。
 元気出してって言いたかっただけなの。」
 また暴風。
 彼女がくるりとこちらを向いた。
 目が真っ赤だ。
 「でも上からみたいだし。遠回しに昔話なんか話しちゃったら、ドツボよ」
 「あー、そうですか?」
 「生まれてからずっとこうよ。
 誰にも頼まれないのに手伝ったり、落ち込んでないのに慰めたり。
 自分に疲れて自家中毒よ。変よね。
自家中毒で終了。」
 「あはは」
 「笑わないでよ。
 でもスッキリしたわ。ありがとう!」

 彼女はベンチから転がり落ちた。
 駆け寄ると赤い眼窩は空洞だ。
 枝垂れ桜の細い枝から烏が飛び立った。

 死因が脳内自家中毒なら、今度は烏がぐるぐる悩んでいるかもな。
 ま、実際は低体温症だろうけど。

               

 


参加させて頂きます。
よろしくお願いいたします。
          
#シロクマ文芸部










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