CIAの情報分析官による日本分析

CIAの情報分析官による日本分析
“シーチン”修一 2.0

【雀庵の「大戦序章」163/通算594 2023/4/10/月】図書館には「戦争、軍事」のジャンルの新刊があれば「メールして」とお願いしてあるのだが、新刊は3、4人待ちは普通で、借りるまでに3か月ほどかかることがある。年末に貸出を依頼しておいた「陸軍中野学校の光と影 インテリジェンス・スクール全史」のことはすっかり忘れていたのだが、「取りに来るべし」のメール。早速入手して数ページ読んだら「ガツン!」とオツムを刺激された。一目惚れ・・・と言っても「米じゃない 恋に似たもの 夏彦流」。

振り返ると人生には「一目惚れ」の時期、繁殖期があり、上手くいったり振られたり。ガックリして「もう二度と惚れるのは止める」とヘンリー D.ソローは「森の生活」に隠棲したが、そのお陰で作家の地位を得たのだから「人生あざなえる縄の如し」。

一方で、上手くGetして喜んでいたものの、やがては冷たくされて「おれがGetされたのだ、餌を運ぶアリのように働き、今は用なしか・・・」となったりして。生涯通じてオシドリ夫婦というのはレアだろう。

ところがナント「オシドリの夫婦は1年ごとにパートナーを代えて繁殖しています」(鳥類学者の藤巻裕蔵・帯広畜産大学名誉教授)。生涯一緒に暮らすのはシマフクロウくらいだとか。オシドリ・・・何となくヨサゲだ。

人間も5~10年毎に「結婚更新」するようにしたらどうなのだろう。一夫一婦制ではなく、一夫多妻や一妻多夫、いずれにしても「生活費は男が負担する」と義務付ければ女も喜ぶのではないか。

男系男子の系統を維持するため明治15/1882年までお妾さんとか第2夫人、認知した子供は法律で保護されていたが、キリスト教の西洋列強に「一夫多妻は蛮風だ」と非難されるのを恐れたのだろう、正妻以外の妾、側室などは「法的にはない存在」になってしまった。随分乱暴な話だ。

大昔から人間は一族の安全保障のために、有事に役立つ男児を多く生み育てるのが大事だった。文武に優れたデキル男は一夫多妻で、デキル女と結ばれて多くの子を成した。乳幼児の死亡率がとても高かったこともある。

同時にデキル女を他の一族に嫁さんとして送り込み、姻戚関係を強化することで「集団安保体制」を築いてきた。一族の内部だけの繁殖では近親結婚により健康な子供が生まれないリスクが高いから、という理由もある。

歴史を振り返れば「弱肉強食の時代」は気が遠くなるほど長かった。戦争で勝ち、領土、縄張りを拡大しないと部族、民族は駆逐、淘汰された。世界中が有事、戦時で、戦争と戦争の間に短い平和があったという感じ。基本的には今も変わらない。

小生が師と仰ぐマキャベリ(1469~1527年)とモンテーニュ(1533~1592年)もそういう厳しい時代に生きた。当時は大航海時代が始まり、ポルトガルとスペインを筆頭に西洋人によるアフリカ、アジア、そして“新大陸発見”による南北アメリカ大陸への大規模な入植=植民地化が行われていった。先住民は蛮族として情け容赦なく「駆除」されていった。

“新大陸”は当時はアジアの東側と思われていたためか、マキャベリはまったく触れていないが、モンテーニュの時代には情報が随分増えたのだろう、彼は白人の乱暴狼藉に怒り、先住民に随分同情的だった。

モンテーニュは結構裕福な貴族だったが、マキャベリはフィレンツェ(イタリア)政権の要職を幾人か輩出した学術系の名家とはいえ、貧乏貴族で随分苦労したようだ。「私は貧しく生まれた。だから、楽しむより先に苦労することを覚えた」と後年記しているとか。「君主論」訳者である黒田正利氏の以下の解説(要点のみ)によると、マキャベリは高官になってもカネには縁がない学者だった。

<1500年前後(日本も戦国時代)、アルプスの彼方にようやく近代国家が形成されているにもかかわらず、メディチ家の衰退を機にイタリアはローマ、フィレンツェ、ミラノ、ナポリ、ベネチアなど大都市は勢力拡大で戦を事としていた。

小都市の併合や合従連衡、さらにフランスなど外国勢力とも結び、それは同時に外国勢力に侵攻の機会を提供することにもなり、以来、イタリアは外国の野心の的になった。

マキャベリは激動期の1498年、安全保障を担当する「自由と平和のための十人委員会」秘書官、さらに行政長官の秘書官に任命される>

マキャベリは外交・安保で忙しい日々を送るが、君主や上司、同僚などへのレポートとしてだろう、実に多くの著作や言葉を残している。著作では「ヴァルデキアナ叛徒の処置」「資金準備に関する献策」「フィレンツェ十年記」「フィレンツェ国軍制論策」「ドイツ事情」「フランス事情」などなど。

味方につけたい隣国の大国フランスとの交渉にウンザリして「フランス人には政治は判らない」という言葉を残しているが、これは今なお本質を突いているよう。マクロン仏大統領の外交を見ていると、フランス人はドイツ人と同様に本質的にロシアや中共など共産主義体制が好きなのではないか、と懸念する人が増えているよう。

しかし、マキャベリの奮闘虚しく1512年、フィレンツェは軍を掌握したメディチ家の独裁に戻ってしまい、マキャベリは職を失うとともに「反メディチ陰謀事件」の容疑者として拘束されてしまった。

<釈放されたものの、彼は小さな別邸に退き、風雲をよそに、寂しく余生を文筆に託した。「君主論」は1512年から13年にかけて、マキャベリが心血を吐露して書いた代表作である。しかし、政界へ復帰して貧困から脱却したいという動機からだろう、この作品をツテを頼って有力者やメディチ家の権力者に贈ったものの、相手にされなかったり、ナシのつぶてであった・・・

イタリアはマキャベリの憂慮のかいもなくフランスとイスパニアの支配権争いの場となり、やがてイスパニアが勝利してローマを占領、フィレンツェでは1527年6月21日、メディチ家は反対党によって国を追われた。その2日後、マキャベリは病死、享年58だった。遺子のピエロは言う、「父が我らに遺してくれたもは貧窮だけであった」>(黒田氏)
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マキャベリは頑張ったがついてなかった。家族は散々だったろうが、500年後でも読んで感動している読者が大勢いるのだから勲章をあげたいくらいだ。フィレンツェのサンタクローチェ教会にミケランジェロやガリレオと共に眠っているという。

生涯、清貧の孤高の学者だったマキャベリ・・・一方で我が国を見るに日本学術会議の学者は村八分やイジメが怖いからお偉いさんに従う人が多いよう。「是は是、非は非、私は学者としての良心に従うまで。補助金欲しさに学術会議幹部の言いなりになる気はありません!」なんていう人は見聞きしたことがない。

まともな学者は学問の自由まで脅かされているのではないか。「学者は研究費を稼いでくるのが仕事、研究費を集められる派手な最先端の研究が大事で、地味な基礎研究なんぞではスポンサーが付かんだろうが・・・ウッタク、役に立たんヂイサンや」なんて罵倒されたりして・・・いじめられて精神がおかしくなった学者は結構いそうだ。

それはさて置き冒頭の「陸軍中野学校の光と影 インテリジェンス・スクール全史」。スティーブン・C・マルカード著、秋塲涼太訳、版元は芙蓉書房出版。同社のサイトから。

<帝国陸軍の情報機関、特務機関「陸軍中野学校」の誕生から戦後における“戦い”までをまとめた書 The Shadow Warriors of Nakano: A History of The Imperial Japanese Army's Elite Intelligence School の日本語訳版。

1938年~1945年までの7年間、秘密戦の研究開発、整備、運用を行っていた陸軍中野学校の巧みなプロパガンダや「謀略工作」の実像を客観的、総合的な視点で描くとともに、OBたちの戦後の動静にも注目。とくに「最後の中野学校戦士」末次一郎氏の活躍を詳細に描いている。

*戦時中の日本のインテリジェンス史を日米双方の視点から再検証 *世界各地に散っていった中野出身者の工作行動とはどんなものだったのか *高度で洗練された情報機関を擁しながら、それを生かせなかったのはなぜか *中野学校の遺産(レガシー)とは何か>

これだけだと「フーン」という感じだが、読み始めると刺激的でぐいぐい魅かれる。この著者のマルカードって何なのだと経歴を見たらこれまた凄い。世界最大の米国のスパイ組織、暗殺からテロ、情報工作まで何でもする中央情報局(Central Intelligence Agency, 略称:CIA)の情報分析官だった! 彼は日本語も達者で、恐ろしく頭が切れ、言語性IQが180ほどはありそう。

マルカードは「日本語版刊行にあたって」でこう記している。「陸軍中野学校の創設とその後の要員達の活動を、戦時、平時という国際情勢の文脈の中で描いた私の試みは、インテリジェンスを単なる異常、冒険、悪などとして描いた他の書籍を読んだ日本人読者にとっても興味深いものとなるだろう」。詳細は次号で紹介したい。

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