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村上春樹『ダンス・ダンス・ダンス』拝読

村上春樹『ダンス・ダンス・ダンス』を拝読しましたのでご紹介します。(ネタバレ含みます注意!)

【僕の人生について】

いるかホテルの夢を見る。 夢の中で僕はそこに含まれている。夢の中ではいるかホテルの形は歪められている。とても細長いのだ。あまりに細長いので、それはホテルというよりは屋根のついた長い橋みたいにみえる。その橋は太古から宇宙の終局まで細長く延びている。そして僕はそこに含まれている。そこでは誰かが涙を流している。

1. いるかホテルとユキとの出会い

物語の語り手である「僕」は、かつて愛した女性「キキ」が忽然と姿を消したことが忘れられず、彼女との思い出の場所である「ドルフィン・ホテル」を再訪する。ところが、ホテルは改装され、高級ホテル「いるかホテル」として生まれ変わっていた。

そこで僕は、13歳の少女・ユキと出会う。彼女は写真家の母親とともに滞在していたが、母親は仕事に忙しく、ユキは孤独を感じていた。ユキは天才的な直感力を持ち、僕に興味を抱く。初対面の際、彼女はジェネシスのTシャツを着ていた。この出会いが、僕の運命を大きく変えることになる。

2. 羊男の登場とその背景

僕は「いるかホテル」の宿泊中、異様な夢を見る。そこには「羊男」と呼ばれる不思議な存在が現れる。羊男は、僕に「ダンスを続けろ」と告げる。これは本作の重要なテーマの一つであり、「踊り続けること」、すなわち人生を止めるな、というメッセージを示している。

羊男は、村上春樹の前作『羊をめぐる冒険』にも登場した存在であり、物語世界の深層に潜む象徴的なキャラクターだ。彼はこの世界と異界の狭間に存在し、時に「僕」に重要な示唆を与える。キキの失踪の謎も、羊男を通じて解き明かされていく。

3. 六つの頭蓋骨の伏線

物語の中盤、僕はホテルの部屋で異様な体験をする。暗闇の中、何者かの気配を感じ、六つの頭蓋骨が浮かび上がる幻覚を見る。この場面は、本作における伏線の一つであり、後に発覚する殺人事件とつながっている。

この六つの頭蓋骨は、過去の出来事と現在の僕の運命を結びつける象徴だ。後に、ある殺人事件の真相が明らかになるが、それに至るまでのミステリアスな雰囲気を形作る重要な伏線となっている。

4. 五反田くんとのやりとりとユキとの関係

僕は高校時代の友人であり、今や人気俳優となった五反田くんと再会する。彼は一見成功しているように見えるが、内面では苦悩を抱えていた。彼の人生は華やかだが、どこか虚無的であり、彼自身が何かに追い詰められていることが次第に明らかになる。

五反田くんは、僕にキキの情報を伝え、彼女が裏社会のビジネスに関与していた可能性を示唆する。さらに、彼はある衝撃的な事件に巻き込まれることになる。

一方、ユキとの関係も物語の中で深まる。彼女は思春期特有の鋭敏な感受性を持ち、大人の欺瞞に対して鋭い洞察を示す。僕は彼女の成長を見守りつつ、父親的な役割を担うようになっていく。

5. ユミヨシさんとの恋愛の行方

僕は「いるかホテル」のフロント係であるユミヨシさんと親しくなる。彼女は知的でユーモラスな女性であり、僕は次第に彼女に惹かれていく。二人は親密な関係になるが、ユミヨシさんは僕に対してどこか一線を引いている。

僕は彼女との関係に安らぎを感じるが、それは決して熱烈な恋愛ではなく、大人同士の落ち着いた関係として描かれる。最終的に二人の関係は進展するが、決して理想的なハッピーエンドではなく、どこか不確かで曖昧なまま物語は幕を閉じる。

結末とテーマ

物語の終盤、僕は様々な出来事を経て、ある種の「再生」を果たす。キキの失踪の謎、五反田くんの事件、六つの頭蓋骨の真相、ユキの成長——それらを通じて、僕は「踊り続けること」の意味を理解する。人生は思い通りにならず、時に混乱し、不条理に満ちている。それでも、立ち止まることなく、踊り続けることが大切なのだ。

『ダンス・ダンス・ダンス』は、村上春樹特有の幻想と現実が交錯する物語であり、喪失と再生、孤独とつながりをテーマにした作品である。

個人的には、村上春樹流の比喩がユニークで斬新で切なくてゆったり流れる、いるかホテルの時間がとても好きだ。忙しい今と対局にあり憧れる。


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