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「自立型学習塾」の意義とは?

はじめに

 大学院生の私は、とある小・中・高生対象の塾で講師のアルバイトをしていた。その塾では約2年半勤務しリーダー講師も務めていたが、今は別の塾に移っている。
 以前勤務していた塾は、10校弱を展開する小規模な塾であった。そして、校舎によって「個別指導」と「自立指導」という異なる指導形態が採られていた。 
 私含めバイト講師は、火・木・金は「個別指導のA教室」、月曜は「自立指導のB教室」というように、個別指導と自立指導の両方を行っていた。     
 しかし私は、両者における指導法の差別化に悩んでいた。正直言って、「所詮自立指導は、個別指導の劣化版なのではないか」とすら思うようになった。この思い悩みは、私がバイト先を変えた理由のひとつにもなっている。
 そこで本記事は、自立型学習塾のメリットや意義を明確化することを目的とする。

自立型学習塾とは

 個別指導は「講師1人:生徒2〜3人」で行われ、基本的に講師の説明中心の授業形態である。


 対して自立指導は生徒主導で勉強を行う。与えられた課題を生徒各人が取り組み、講師は教室を巡回して質問対応や、助言や課題の指示等を行う。講師1人あたりの生徒数によって「自立型個別指導」、「自立型集団授業」という分類もある。私の勤務先は、1つの教室に生徒20人と講師3人(+教室長1人)がいた。

自立型学習塾のメリット


 上述のような、私の「自立指導」に対する懐疑的な見方は、私の前の勤務先が小規模塾であり、また、自立指導専門の塾ではないという事情によって増幅されている。
 以下では、大手塾のサイト等に掲載されている「自立指導」のメリットについてまとめ、それらを私の前の勤務先と比較することにする。

①自分で勉強する習慣や管理能力を身に付けられる

自立学習塾の中には、具体的な学習プランを生徒自身で作っていくことが求められます。もちろん講師や塾スタッフのサポートはあるものの、最終的には子ども自らが学習計画を作ることを目標としているところも少なくないでしょう。

自立学習塾とは?メリットやデメリットを徹底解説,
塾選,
https://bestjuku.com/article/3766/

 具体的な学習プランは生徒自身が作成することで、学習習慣や管理能力を身に付けられるとある。



 私の勤務先では、学習プランは全て講師が作成していた。その日のノルマを事前に講師が決めておき、生徒が来たらそのノルマを伝える。したがって、生徒自身が目標や学習内容を設定することは一切無かった。

 講師側がノルマを課すこと自体が悪いとは思わない。小学生はまだ幼いし、中学生でも勉強が苦手・甘えがちな生徒に対しては、講師側が指示を出した方が良い。また、私の勤務先の講師は全員個別指導も行っているから、生徒それぞれの学力や学習状況を把握することに長けているとも思われる。


 しかし、「とにかくノルマを早く終わらせて、一刻も早く帰る」ことに囚われるあまり、ろくに理解していないのにページを進めたり、講師の目を掻い潜ってページを飛ばしたり、間違えた問題を放置したりする生徒が多く見られた。

 張り切って30分前に出勤し、その日進める内容を検討している熱心な同僚講師もいた。それ自体が悪いとは言わないが、事前に決めてしまうと、講師側も事前に決めたノルマに固執してしまう。つまり、生徒のその日の理解度や学校の進捗などへの柔軟な対応ができなくなってしまう場合がある。したがって私は、生徒と一緒に「その日の目標決め」をするようにしていた。生徒側も了承したうえで、「ちょっとキツい」くらいの分量になるよう調整していた。

②それぞれのペースに合わせて勉強ができる

やる気が高いときや得意な科目が課題となったときは積極的に学習を進め、反対に分からないところや苦手科目が出てきたときは、じっくりと腰をすえて勉強に取り組めるでしょう。周囲の環境によってプレッシャーを感じることがないので、自分だけのペースで学習を進めていけます。

https://bestjuku.com/article/3766/

 こちらのメリットも、生徒が自分で学習プランを考えている場合に享受できる。

 前述のとおり、私の勤務先は講師側が学習内容を決めていた。例えやる気がない日でも、講師側が強制的にノルマを課すことには意味があるだろう。
 しかし事前にノルマを課していると、分からない箇所や苦手な箇所を無視して、取り敢えずノルマを終わらせることが目的になってしまう。講師側が生徒の取り組み具合を見て、その子の苦手を把握・対応できるのであれば良いが、生徒一人ひとりの様子をしっかりと観察できる「個別指導」に比べると劣ってしまう

 また、はっきり言って「バイトはバイト」である。バイト講師側からすると、こちらが主体で説明しなければならない個別指導より「楽」だとも言える。特に、生徒の数が少なくなってきたら講師も退勤できる場合が多いため、講師の熱意も下がりがちになるという側面も決して無視できない。
 また、「自立指導」という名目の下、講師がどこまで口出し、介入するべきなのかが判然としない。そのため、やる気はあっても結局ほとんど指導せずに終わるバイト講師もいる。ノルマを決めることに情熱を向けていた同僚講師もいたが、穿った見方をすれば、手持ち無沙汰感を紛らわせたかったのだとも思われる。中には、今勉強している最中の生徒を横目に、次週のノルマ決めに没頭している講師もいた。一応リーダー講師だった私は、生徒の指導を蔑ろにしては本末転倒であると、当該講師に注意をさせてもらったことがある。

 私自身、自立型学習塾の最大のメリットは、問題演習量が増えることだと考えている。個別指導の場合は、時間を掛けて説明することにより、まずは勉強が苦手な生徒にも「理解」をさせることができる。しかし、理解しただけでは高得点は取れない。演習量をこなし、確実に習得することが大切である。その点、自立型の場合は演習時間が大量にとれる。
 つまり自立型学習塾は、自分で「理解」することができ、あとは問題演習で高得点を目指す段階にある生徒に適していると考える。
 私が勤務していた、個別指導のA教室と自立指導のB教室は、お互い徒歩圏内に位置していた。入塾する生徒は、自身の適性に応じてA教室かB教室を選ぶのではなく、自宅から近い方の教室に通塾していた。つまり、「理解」すらできない段階の生徒も自立指導の塾に在籍していたのである。理解していない状態で「自立」して学習することは不可能だろう。そもそも、勤務先の塾には境界知能に近い子も多くいた。そのような生徒は自立型学習塾には適していないだろう。また、コミュニケーションに難があるタイプの子に関しては、講師に自分から質問や相談もできない。そのような子は、はじめから個別指導でじっくり見てもらった方が良い気がする。 

 繰り返すが、自立型のメリットは演習量が増えることだと考えている。しかし、私の塾では、自立指導の教室も、個別指導の教室と同じテキストを採用していた。

 勉強が苦手な生徒を想定した個別指導用のテキストであるため、ページの半分が精緻な説明と例題に費やされている。講師がテキストの記載をそのまま読めば授業が成立するように構成されており、理解を目的とした勉強には本書はうってつけである。しかし、演習用教材としては、量、難易度ともに不十分だと思われる。

③授業料をセーブできる

具体的な授業料は学習塾やコースなどによって異なるものの、自立学習塾では全体的に授業料が安い傾向にあります。

生徒1人に対する講師数が少ないため、人件費を大きくセーブできるのが主な理由の一つです。嬉しいポイントです。

https://bestjuku.com/article/3766/

 私の勤務先は、個別指導よりも自立指導の教室の方が値段が高かった
 その理由は、自立指導だと来塾時間も帰宅時間も自由であり、最長4時間塾に滞在できるからである。保護者も、とにかく勉強時間を増やすことを期待して、値段が高いのにも関わらず自立型の教室を選んでいるのだろう。しかし、ノルマを設けてしまっているから、そのノルマが終わりさえすれば早々と帰宅してしまう。早く終わり過ぎたからといって、「早すぎるから残って」と言うのも、一応こちらが指示したノルマを達成した生徒に対して気が引ける。
 だからと言ってノルマを科さなければ、ひたすら時間が過ぎるのを待つこととなる。勤務先では折衷策として、小学生は1時間、中学生は2時間のコアタイムを設定した。コアタイムが経過した時点でノルマが終了していれば帰宅してもよい。ノルマが早く終わったときは、学校の宿題やワークなどに取り組む。しかし、コアタイム導入後も「前まではノルマが終われば帰れたのに」と不満を漏らす生徒もいた。
 中には、「うちの子は、ノルマが終われば帰らせても大丈夫です。」と言う保護者もいたため、生徒一人ひとりの終了時間を管理するのも大変であった。ある程度、塾として滞在時間の指針を示しておかなければ、「あいつは1時間で帰ったのに」という文句が生徒から出る。

 また、時間をかけさえすれば点が上がるというほど単純ではない。全く自学自習していない状態から入塾すれば、はじめの頃は単純に勉強時間が増えるだけで点数が上がるかもしれない。しかし基礎的な素養がない状態では、その後の点数アップは望めない。講師等、第三者による適切な指導を仰ぐ必要がある。「蛙の子は蛙」とはよく言ったものだが、言い換えると「蛙の親は蛙」である。辛辣な言い方をすれば、勉強が苦手な子の親もまた、適切な勉強法があることを知らず、時間さえ増やせば成績が上がると思っているきらいがある。

まとめ

 自立指導には自立指導の利点がある。しかし、

・学習内容やノルマの作成には、生徒自身も関与すること
・生徒の学習状況をしっかり観察・把握し、適切な指導および指示ができる講師がいること
・時には厳しく指導できる講師がいるなど、子供がだれない環境であること
・アルバイト任せの塾でないこと
・ある程度自分で学習を進めることができ、また、基礎的な学習内容は自身で理解できる生徒であること
・問題演習に重きを置いたテキストを採用していること

これらの項目を満たしていなければ、自立指導のメリットを享受することはできないと考える。

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