【ショートショート】呪い屋(463字)
いらっしゃい。今日は何をお探しで?
……そうだよ。うちは呪い屋。ここにあるのは呪いだけさ。
……それは『自販機の下に小銭を落とす呪い』だよ。
しょうもないだろう。金で買える呪いには限度があるのさ。
人を呪わば穴二つ。強い呪いを望むなら、もっと大事なものを差し出さなきゃならん。
大事なものは目に見えない。目に見えないもので飯は食えない。だから金で買える呪いしかうちには置いちゃいないよ。
……もっと強い呪いかい? そこに『公共交通機関にギリギリ間に合わない呪い』があるよ。
……じゃあこんなのはどうだい? 『コンビニのトイレが空かない呪い』。
1200円だよ。毎度あり。
ざまあみろ。
私はあいつが絶望し苦しむ姿を想像して高揚した。これで少しは気が晴れる。
でも、お釣りを待っている間にふと思った。
「わざわざ呪いを買わなくても、これって誰にでも起こりうることじゃないですか?」
おばあさんはにやりと笑った。まるで悪い魔女のようだった。
「あんた、その原因が呪いじゃないってどうして言い切れるんだい?」
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