【ショートショート】君に届かない(761字) #青ブラ文学部
仕事帰り、スーパーに寄った。買い物を済ませて外に出ると日が傾き始めていた。買い物袋を片手に坂道を下りながら、空はどんどん色を変えていく。
向こうから女の子が歩いてきた。黒のボブヘア。膝丈のスカート。グレーのブレザーで近所の高校の子だとわかる。
俯きがちにとぼとぼと歩くその子。やれやれとゆっくり歩く私。やがて私たちはすれ違った。
その時、私はふとあの心もとなさを思い出したのだった。
あのくらいの年齢のとき、私は尖っていて、愚かで、そしてぼろぼろだった。そんな風でいるのは自分だけだと思っていた。自分の上だけスポットライトが切れているようで、みじめで孤独だった。
その頃から私は自分のことが嫌いで、自分を脱ぎ捨てて別の誰かになりたいと本気で思っていた。
――私ってずっとこのままなのかな。
その問いはずっと私の中にあった。
今ではわかっている。私は私のまま生きるしかない。そのことに気づいた時はひどく失望した。けれど、年を重ねた今は私でいるのもそんなに悪くないと、そう思えている。
立ち止まって後ろを振り向いた。うっすら暗くなり始めた景色の中に、ゆっくりと遠ざかっていく女の子の後ろ姿が見える。
大丈夫だよ。
その背中に心の中で声をかける。
ちゃんと大丈夫になるから。
大人になっても傷は絶えないし、自分が嫌になることだって何度もある。それでも、今よりはよくなるから。
根拠はないけど、そうなるって私にはわかるから。だから大丈夫だよ。
私は前を向いてまた歩き始めた。紫やピンク、オレンジのグラデーションを成す遠くの雲がきれいだ。
あの頃の私にも伝えられたらよかった。あの時の孤独は今の私の一部なのかもしれない。それでも、一人ぼっちでもがいていた自分のことを思うと胸がきゅっとなった。
大丈夫だよ。その言葉が君に届かない。
大遅刻で恐縮ですが参加させていただきました。