鑑賞の思い出その6 『小市民シリーズ』
基本情報
原作:米澤穂信『春期限定いちごタルト事件』『夏期限定トロピカルパフェ事件』
主演:梅田修一朗 (羊宮妃那)
シリーズ構成:大野敏哉
監督:神戸守
OP主題歌:Eve「スイートメモリー」
ED主題歌:ammo「意解けない」
あらすじ:高校生の小鳩常悟朗は高い推理力の持ち主だが、事件に首を突っ込みたがる性格のせいで中学時代にとある苦い経験をして以降自分を隠し、何事も無く穏やかな「小市民」としての生活を送ろうとしている。一方彼と同じ中学から同じ高校に進学した小山内ゆきもまたとある理由から小市民を目指しており、二人は互いの平穏な生活を守るための互恵関係を築く。ところが、そんな2人の周りには常に大小の事件が転がっていた。
2024年夏アニメ、テレ朝系「NUMAnimation」枠。原作は20年近く前に刊行が始まった米澤穂信の代表作の1つである小説。各所で「あの名作がついに映像化!」的な大々的な宣伝を受けていたし、連作短編も日常の謎も青春ミステリーも非常に好きなジャンルなのでそれらの金字塔とあらば見るしかない、と個人的にも大きな期待を寄せて視聴に臨んだ……訳なんだけど……。
結論から先に言うと何とも言えない、どころかそれを数ミリ下回る感じの出来栄えだったように思う。理由はいくつかあるので順を追って解説するんだけど、一番はやっぱり小説原作アニメ(一般・ラノベ問わず)あるあるの「1章を1話に無理矢理詰め込もうとして訳分からなくなる」現象だと思う。漫画だったら原作の第1話がほぼそのままアニメ1話に、というパターンがよくあるんだけど、本作は一般小説の文庫でアニメ化なんて想定してなさそうだし、その上ミステリーなので余白なく話を描かれると何分ついて行きにくい。
1話からして事前情報を頭に入れてないと分かりづらく無いか?って感じの小市民についてのざっくりした説明が入った後に窃盗事件が起きるんだけど、犯人が携帯のメッセージを送りながら移動して云々のトリックの解明が何とも性急で置いて行かれそうになった。文字でしっかり読めばもう少し納得出来たのだろうけど、どの回の謎もこんな感じで基本超駆け足で解いていくので説明不足とミステリーとしての弱さが著しい。
こんな風に各エピソードごとに明らかな尺不足を感じる癖に理解に苦しむ尺の使い方をしてるのもポイントが低い。まず何か全体的にオシャンティーでミステリアスな雰囲気だけは一丁前に出そうとする意味深な演出効果が多いせいでただでさえ尺不足で見えにくい話がますます曖昧になって青春ミステリーなのに雰囲気が凄く純文学的だった。あの推理中の再現VTRでは何故か犯人役が常悟朗だったり、重要な会話シーンで急に背景だけ別の場所に移動する謎演出は何の意味があったのだろうか?2冊ある原作のうち春期パートを(わざわざ「For your eyes only」という1章のアニメ化を諦めてまで)4話しか使わずに足早に終わらせたと思いきや、その後すぐ夏期パートへ以降せず本来原作2冊の範囲外であるスピンオフ作品『巴里マカロンの謎』から尺稼ぎのようにエピソードを借りて来るという謎采配もあった。そんなことをする余裕があるなら春期の見所であろう自転車盗難事件についてもっとちゃんと掘り下げれば良かったものを。結局総話数も10話しかなかったし、いっそ最初から春期だけのアニメ化にしておけば面白くなったかも知れない。
唯一の例外として8話だけは面白かった。小山内ゆき誘拐事件の発生から救出までを描く話で、地図の暗号も基礎的な謎解きながらちゃんとミステリーしてたし、何よりよく分からない空気感だったそれまでと違って常に緊迫感が漂っていたのは良かった。ワンチャンこの勢いがラスト2話でも続いたりしないかなーと思っていたんだけど、誘拐事件の真相編にあたるこの2話は場面的には常悟朗とゆきがカフェで話してるだけで全く動きが無く、尺不足感こそ無くなれど相変わらず分かりにくい説明の末に2人の同盟解消が描かれてそのまま2025年春クールの2期へ続くという……。
そもそもこれはアニメ化じゃ無くて原作の時点で指摘出来る事なんだけど、純文学的っていう話だと青春ミステリーの金字塔な割に登場人物のキャラ造形からして凄く純文学的なんだよな。2人とも小市民小市民連呼しまくるので何か学生運動でもしてるみたいと言うか哲学臭いと言うか会話がとても高校生の日常には見えてこないと言うか。学校生活の描写が少ないのもあって「日常の謎」作品なのに隔世の感が強かった。常悟朗はどうも主人公らしさに欠けるというか特に反感のある描写なんか無いのにその分魅力も見えてこないし、ゆきの方は主に夏期パートで縦軸として明かされていく本性があまりに悪女過ぎて、ブラックボックスキャラとはいえ感情移入出来なさ過ぎる。
話の続き自体は気になるから2期も見るつもりだけど、それより先に原作小説を読んであげた方がいいのかも知れない。流石に小説の尺ならミステリーパートもこんなに分かりにくく無いよね?信じてるよ?
そして主題歌は……どちらも青春感に溢れた一発で耳に残る作品となっていて結構良かったと思います。というか自分が本作に期待していたのはこの主題歌みたいな雰囲気だったんだけど、思うようにはいかなかったな。ブルアカみたいな興味本位で覗いた作品はどうなろうと外野からはネタ的に面白いんだけど、期待作にコケられるとやはり印象の下落幅も大きくなるってものですね。というか、やらおんが感想まとめで追ってるということは一応本作は世間的にも注目作だったはずなんだけど、そもそもあまり世間的な評判を耳にしないような。
そういえばこのアニメ、中盤でキャストが主人公2人しかいない話があったよな?全10話しかないのも含めて予算事情が気になる。羊宮妃那が主演張ってるということはキャスティングは最近なされたものだと思うんだけど、プリキュア声優の加隈亜衣がモブ店員だった回もあってアニメ製作事情というのは不可思議だなぁ。