「やりがいの搾取」の本来の意味
以下は、「短歌 やりがいの搾取」の記事を書いた際に溢れた分をまとめ直した文章です。
「やりがいの搾取」という言葉は、教育社会学者の本田由紀さんが作った言葉で、例えば、
本田由紀、『軋む社会 教育・仕事・若者の現在』、河出書房新社、2011年
の86ページから、「〈やりがい〉の搾取―拡大する新たな『働きすぎ』」として論じられております。この箇所を読むと、企業が被雇用者を安い賃金でたくさん働かせる方法が分析されており、悪意とずる賢さに満ちた経営手法を糾弾するのが、この言葉の本来の姿だったことが分かります。
海野つなみ先生の同タイトルの漫画を原作にしたドラマ「逃げるが恥だが役に立つ」を切っ掛けにして広まったこともあり、「やりがい搾取」という言い方に馴染みがある方も多いと思います。
ただ、原作漫画を読むと「やりがい搾取」ではなくて「やりがいの搾取」と、本田由紀さんが作ったままの表現が用いられています。ドラマ化する際に、なぜ「やりがい搾取」になったのかモヤモヤします。
しかも、原作漫画は「『やりがいの搾取』的な」と元々の意味からのズレを、ちゃんと意識した表現になっています。
5年くらい、本田由紀さんのTwitterを毎日のように見続けてきた私としては、「やりがいの搾取」が「やりがい搾取」に変わってしまったことに不満を感じずにはいられませんが、本田さんご本人が全く気にしていないで、私もあまり言及しないことにしましょう。
何はともあれ、漫画「逃げるは恥だが役に立つ」を切っ掛けにして、「やりがいの搾取」という言葉の意味は、非常に幅広くなったことは確かでしょう。