『Four Seasons』
「なんですか」
職場の同僚に怪訝な眼差しを投げかけられながら尋ねられる。その理由が普段とは違う鋭い目つきだと分かると、納得する。
冬のある朝、出勤前にフリスクを一つ口に放り込もうとすると、五つほどがバラバラと床にこぼれてしまった。床に落ちた分をそのままケースに戻すのも少し抵抗があったので、これくらいならと掌に拾い上げた分を全て口に放り込んだ。
マスクをし、出発したのだが、さすがに多過ぎたと後悔する。自分にはこの辛さは刺激が強過ぎる。そしてなにより、鼻に抜ける空気のあまりの冷たさに呼吸の度にツンと痛くなってくる。マスクの下で、その難儀に本能的に口呼吸に切り替える。
が、今度は口呼吸によってマスクの中の空気の流れが変わり、吐息が鼻筋に沿って上へと抜けてくる。そして刺激的な冷気はそのまま鼻梁を駆け上がり、眼球が吹きさらしになる。眼がスースーするが鼻がツーンよりは耐えられる。仕方がない。
眼球に直接届けられる避けようのない風にシパシパしながら目を細めてやり過ごす。南で発生した湿った冷たい空気は鼻筋山脈に沿って北上し、眼球に激しい寒気をもたらします。そういえば「ヤマセ」って何だったっけ、などと気を紛らせる。正直に言うと、マスクなのを幸いとひょっとこの口で吐息を横に逃したりもしていた。けれど、もし斜め後方辺りの隙間から見えていたらという恐怖と、何よりその顔でしれっと吊り革に掴まって皆と同化している自分に自分で耐えられなくなり、やめた。
おそらくその状態が続き、体が覚えてしまったのだろう。険しい目つきのまま硬直し、固定された。不運にも、そんな自分に出くわしてしまったのが冒頭の同僚である。
、、、、と、ここまでが走馬灯の様に駆け巡り、口が開きかける。が、その全てをちゃぶ台をひっくり返す勢いで「説明してどうする」が横合いから覆い被さり、咄嗟には解決できず、結果、曖昧にへらへらと笑ってお茶を濁してしまう。変な人間にも三分の理。変な人にも変な人なりの真っ当な理由がある。前日にゴルゴ13を読み過ぎた訳ではないんだよ。
分かって欲しいとは思うけれど言葉も時間も、勇気も足りない。