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立 ち 上 が れ 滉 燿 くん ! ~明日を信じた5年間~ 10(5) 運動会の花の応援団!


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応援団は運動会の花形ですが、小学生にとっては皆の前で歌って踊るのは恥ずかしいです。昼休みの練習もキツい!指導の先生も大変なんです!(笑)
5年生2学期(2007年 平成19年)


64  応援団は格好いいんだ!

 私の心配をよそに運動会の練習が始まりました。運動会の得点競技として、応援合戦があります。応援の出来映えを、担任をもっていない先生や校長先生、PTA会長さんなどの審査員が審査して得点を決めます。各ブロックの応援団が、みんなをリードし応援を盛り上げなければなりません。高学年になると、応援団の子ども達の中でもリーダー的存在になってきます。
 滉燿くんは青ブロックに入っていました。滉燿くんも高学年です。今年は滉燿くんをつれて応援団の指導に行ってみようと考えました。
応援団の練習は昼休みの体育館で始まります。給食の後片付けが終わって体育館へ行きました。
 9月の体育館の中は蒸し暑く、風通しを良くするために、両方の壁にある大きな出入り口は一杯に開いていましたが、風はほとんどありません。その中で、他のブロックの大声が響いていて、蒸し暑さをいっそう大きくしていました。左側の出入り口の近くに、青ブロックの応援団の子ども達がバラバラの方向を向いて座っていました。ため息つきそうな顔で天井を見上げている子、指で床に何か書いている子、外をぼんやり眺めている子、皆一様に暗い顔をしています。団長らしい子が中腰で片手を床についてそんな下級生の団員を困った顔で見ていました。外からは、昼休みで中庭で遊んでいる子ども達の明るい声が聞こえてきます。ブランコの音もします。応援団は各学年から二人ずつ選ばれてくるので12人です。12人の子達が押し黙ったまま、先生が来るのを待っていました。
 私はバギーを押して近づくと滉燿くんの頭越しに声をかけます。
「みんな、どうした?暗い顔して」
 だるそうな目がこっちを見ます。
「応援団いやか?」
 何人かの子ども達が、視線をそらして下を向きます。
「どうして?」
 3年生くらいでしょうか、下を向いた子どもの子どもの顔をのぞき込むように聞きました。
「かっこ悪い」
 その子はこっちを向くと小さな声で、ブスッと言いました。
「練習もいやなんじゃない?」
 たたみかけると何人かの子が小さくうなずいています。
「応援団はかっこ悪くない。いや、かっこいいんだ!」
 私は強く言いました。子ども達が「エッ」て顔を向けてきます。
「先生は、この前、高校の運動会を見てきた。その中で、やっぱり応援合戦があってな、各クラスから応援団が選ばれて出てくるんだ。黒い制服着て、長いはちまきまいて、白い手袋をして、みんなの前で、こうやって号令をかけながら振り付けをするんだ」
 バギーの横に出て、手を握りしめて、げんこつを作ると、腕を振り回したり手を開いたりしてリズムに合わせて応援の形をしました。
「するとね、みんながそれに合わせて一斉に手拍子したり、声を出したりするんだ。かっこ良かったぞー!」
 子ども達の背筋が少し伸びてきます。
「みんなは、クラス全員が自分の指揮に合わせて動くなんて経験あるかい?おもしろいぞー!」
「それに本番ではねー。おっと、家にビデオカメラある人いるかい?」
 何人の手が上がります。
「もし、先生がみんなの親だったら、みんなの姿をがっちりビデオに撮るぞ。それくらい応援団っていいんだ。ひょっとしたら、そんな経験、これで最後かもしれんぞ。来年は、応援団になるかどうかわからない。だったらしっかりやろうよ。練習がいやかもしれないけど、たった二週間じゃないか。他の競技の練習もあるから、たぶん練習は八回はないぞ。だったら、ここ一番頑張ろうじゃないか。特に6年生は最後だし、みんなで盛り上げようよ」
 子ども達のおへそがこっちを向いてきました。
 そこへ、突然中村友紀先生が来ました。先生は、立っている私には頓着無しに、大きな声をかけました。
「さあ、始めるよ。全員立って」
「最初の体形はね・・・」
 立ち上がった子ども達に、どんどん指導を始めました。
 中村先生はダンスが好きで振り付けは得意なので張り切っている様です。他の先生もやってきたので、私は滉燿くんのバギーを壁ぎわまでさげて、練習の様子を見ることにしました。応援練習は進み始めました。


 9月30日、本番の運動会です。9時開始なのに朝から小雨です。体育主任の先生と校長先生が天気予報を聞きながら相談し、雨は上がると言うことなので、少し遅れて10時にスタートしました。まだ、雨は霧雨状態でしたが、開会式、準備体操と進んでいく内に雨はやみました。
 午後の最初のプログラムは応援合戦です。思った通り、12人の応援団は、けんめいに声をからし、全力で形を振って先頭に立っています。みんなも必死で手拍子しています。あの暑い体育館での暗い顔はありません。
『ほら言ったじゃないか、みんな頑張っているな』
 私はほくそ笑みました。
 5年生の最後の競技はリレーです。昨年の作戦と同じです。バギーを押してスタートの5人の子ども達の一番外側に着きました。5年生の先生との話し合いで、スタートの子は一番足が遅い子が並んでいます。
「用意、パン!」
 ピストルが鳴りました。私は懸命にバギーを押します。滉燿くんは、大きな口を開けて手を打って大喜びです。5年生になると、足の遅いという子でも速く、私が懸命に走っているにもかかわらず、先頭の子はグングン引き離していきます。子ども達が、先頭から最後まで一列に伸びているので内側につけません。最後から2・3番目の子の外側を走るしかありませんでした。かなり不利な状態でしたが、何とか4番くらいで、次の走者にバトンを渡すことが出来ました。見ていると全員リレーなので、引き離したと思っていると次の走者が速くて、みるみる追いつかれたり、逆に引き離したと喜んでいたのが追い越されたりの展開です。このため滉燿くんが遅かったと文句を言う子ども達はいませんでした。

 最後に、この運動会でのエピソードを一つ。
 6年生のリレーの時、先生チームがつくられて私も参加しました。勝負事は全力でやります。バトンをもらった後、力いっぱい走りました。子ども用のトラックなので大人にはカーブがきついです。全速力で走っていると遠心力で外に体が引っ張られそうになるので、体を思いっきり傾けて走っていました。
 ところが、スポーツシューズがその力に負けたのでしょう。カーブの出口でズルッと滑ったのです。
「シマッタ!」
 瞬間的に体を右にひねって回転させ背中から落ちます。
 観客席から「ワアッ」という声が上がるのが聞こえました。背中から落ちた瞬間、中学生のクラブでやっていたバレーボールの回転レシーブの要領で、素早く一回転して起き上がると、猛ダッシュをかけてバトンゾーンに走り、次の走者の先生にバトンを渡しました。先生チームも必死に走ったのですが、6年生のスピードは速くてリレーは先生チームの惨敗に終わりました。トシだ(笑)。
 閉会式が終わると、6年生の子ども達と後片付けです。私はテント係だったので、子ども達を指揮してテントを倒して天幕を取り外してたたみました。支柱をバラバラにして種類ごとに揃えてひもでしばります。係の子ども達と一緒に、それらをもって体育倉庫まで運びます。テントをしまい終わってカギをかけ、私は滉燿くんのバギーを押しながら人混みの中をぶらぶらと教室へ帰っていました。
 その時です。人混みの中から一人の6年生の男の子が近寄って来ました。ニヤニヤ目が笑っています。なんか企んでいるな。
「先生、あれ、受けを狙ってわざとこけたでしょう?」
 わかっているぜー。
「そんなことない、本当にこけたさ」
「うそうー、一回転して起き上がって全然スピードも落ちてないし、だいいちバトンも落とさず、ケガもしていないでしょう」
 よく見ています。言われてみればその通りです。私はおどけて、
「ばれたか」
「ハッハッハッ」
 二人は顔を見合わせて大笑い。


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