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立 ち 上 が れ 滉 燿 くん ! ~明日を信じた5年間~ 11 最終章(5) 滉耀くんは、今年の運動会のサプライズ!?
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滉耀くんの運動会の参加の仕方が変わりました!
まったく、「森田校長が来ると忙しくなる」は本当だった!!
69 滉燿くんの運動会の参加
5月2日3校時のことです。いつものようにリハビリ訓練をやっていると、森田校長が突然トトロのようにヌーッと教室に入ってきました。授業中の教室に校長が入ってくるなんて普段はありません。きっと私だったので気楽に来たのでしょう。
その時、遅く残って薄暗くなった廊下を通って校長室の横を通った時を思い出しました。森田校長は校長室の電気を消して机の蛍光灯一つをつけて、めがねをかけて暗い顔をして座っていました。その様子は陰々滅々、地獄からはい上がってきた亡者のようです。こんな感じだから怖がられるのです。後で聞いたところ、教育委員会がある市役所では、節電で終業時以降は最低限の電灯を残してあとは消していたそうです。トトロは尋ねました。
「何をしとるんかね」
「滉燿くんの身体のリハビリ訓練です」
床に座って訓練をしていた滉燿くんに靴を履かせると立たせ、いつものように滉燿くんの左側に立ち、左手をとって右手は滉燿くんの腰に手を当てて歩いて見せます。それから、机に座ってジグソーパズルや数字カードを使っての足し算もして見せました。
「こ・れ・は・す・ご・い!」
森田校長の反応は予想以上です。頭を後ろにそらせて、口をぽかんと開けて目を細め顔を緩めて滉燿くんの周囲をうろうろしています。
「俺は辻塚君が受け持つ前からこの子のことを知っているが、こんなに進歩しているとは思わなかった。こんなすごいことは、職員に知らせて学校全体にも知らせなくてはいけない。今日の研修会が終わったら職員に発表する。そして運動会でも滉燿くんが歩く場面を作るから、どんな方法で見せるか考えておいてくれ」
言うとヌーッとトトロは出て行ってしまいました。
研修会は15時半から16時50分までありました。最後の校長のまとめになって立ち上がった森田校長は話し始めました。
「今日、なかよし4組の教室に行きました。辻塚先生が滉燿くんの身体のリハビリ訓練をしていたんですね。これが驚いたことに滉耀くんが歩いていました。私が学校教育課長をしていた頃、滉燿くんと初めて会って、伊岐須小学校の入学許可を出した頃から考えると考えられんレベルの改善と成果です。これは是非、みんなの前で発表しなくてはなりません。運動会を滉燿くんの発表の場として活用してほしい。なかよし学級の先生達と6年生の先生達は、今から話し合ってどのような形で滉燿くんを参加させるかを決めて欲しい。運動会のサプライズにします」
みんなの視線が一斉に私に飛んできました。
「わあっ」
思いがけない展開です。確かに滉燿くんは歩けるようになっています。
しかし、私の頭の中では、滉耀くんの歩き方は、まだ人に見せるレベルのものではありません。人が歩くなんて珍しくも何ともありません。それを滉燿くんがよたよたと歩いて見せても、どれくらいの人が、その凄さをわかってくれるでしょうか?見ている人は素人です。
「なあんだ」
私がイメージしていた滉燿くんが歩く場面は卒業式です。感動の場面を演出するつもりでした。私と滉燿くんにとって時期尚早です。私は渋い顔をしていました。しかし、森田校長は頓着せずに続けます。
「競技の参加の仕方とアナウンスの仕方が決まったら、原案を書面にして提出してください」
研修会終了後、私は会議室へ歩いて行くと疲れた身体で椅子にどさっと座りました。全員の先生が席に着くのを待ちながら、これからすることを頭の中で浮かべてみています。
なかよし学級の先生と6年生の先生達と一緒に滉燿くんの競技への参加の方法について話し合います。
6年生の競技は3つあります。競争遊技の「障害物競走」。リズムの「よさこいソーラン節」。リレーの「ラストラン」です。
障害物競走は、滉燿くんは走らずにハードルの側にマットを敷いて立たせて、ポンポンを持って応援する形。よさこいソーラン節は指揮台の前にマットを敷き、みんなと向かい合って、滉燿くんが一人で踊るというちょっと目立つ形。ラストランでは、6年生がゴールした後、本部テント前のゴール地点に3メートルほどマット敷いて、滉燿くんを歩かせてゴールテープを切るという超目立つものです。いずれも私が体を支えるし、アナウンスもかけて、みんなの注目を集めるという作戦です。
話し合いで決まった内容を私が配置のイラスト入りの文書にまとめると校長に提出しました。帰ろうとすると森田校長が呼び止めました。
「辻塚君は社会教育主事の資格を取りにいかないかね?先日、回覧で夏休みの講習会の案内を回したが、君は申し込んでいなかったね」
社会教育主事?そう言えばそんな回覧板が回ってきていたような気がします。しかし、体の調子の悪い私は深い考えもなく参加希望無しにしていたことを思い出しました。ただ、改めて言われてみると、地元の天体観測会や発明クラブなどの科学教室的な指導員をやっていた私にとって、社会教育主事の資格を取っておくのは悪い話ではありません。
「社会教育主事の講習の申し込みは明日が締め切りだが、集約係に聞いたところ、月曜まで待ってもらえることになったので、まだ間に合う。できるだけ急いで書類を書いてもってきたまえ」
森田校長はたたみかけます。こう言われるとその気になってきたので申込書と履歴書を大急ぎで書いて出すことにしました。今日は木曜日なので、金土日と3日間あれば月曜日には出せるでしょう。なぜこの様に強く勧めてきたのかは、後になってわかりました。
飯塚市教育委員会が、来年、私を福岡県教育委員会への社会教育主事として出向させる計画が進んでいたのです。
翌日、森田校長は滉燿くんの運動会競技への参加についての原案を許可してくれました。
次は、用具配置図と放送のアナウンス原稿の書き直しです。すでに提出してあって、それぞれの係では、用具係は用具の出し入れの手順の確認、放送はアナウンスの練習の段階に入っていましたが、配置図や原稿を私に戻してもらって全部書き直します。
本番一週間前でしたが用具係も放送係も6年生も練習のやり直しでした。まったく
「森田校長が来ると忙しくなる!」
ラストランの放送原稿だけは沢田先生が読むことになりました。滉燿くんのラストランは、運動会の最後の競技で、全校生徒800人と保護者の見守る中で行われるドキドキの大イベントとなる予定です。
その週の金曜日に、最後の全体練習も終わりました。後は本番です!
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