立 ち 上 が れ 滉 燿 くん !~明日を信じた5年間~2(1) リハビリの効果が出た! 爆走バギー! 近所で大事件発生
「ダメだ!ダメだ!言うな!」と周囲の反対を押し切って始めたリハビリ訓練。2学期になって急展開!効果が出てきました!!
運動会の爆走バギー!なかよし祭り。そして、近所で大事件発生!
2年生2学期(2004年 H16年)
前編 立ち上がれ滉燿くん!2年生1学期 1(6)へは、こちらから
12 先生、滉燿が起き上がりました!
2学期の始業式の日、滉燿くんを送ってきたお母さんが私の顔を見るなり言いました。
「先生、滉燿が自分で起きあがって座っていたとお父さんが言っていました。お父さんがテレビを見ていたら、いつの間にか横で座っていたのだそうです。私はまだ見ていないのですが・・・」
「えっ、夏休み前に練習はしていたけど・・・、まだ学校じゃ成功していないし、夏休みで訓練をしていないのに・・・」
しばらくの間ポカンとしていました。
翌日、
「先生、私も滉燿が起きあがって座るところを見ました」
お母さんが携帯電話に撮った動画を見せてくれました。夏休み前に練習した通りに滉燿くんが起きあがっているではありませんか!
その日の訓練で、私もようやく滉燿くんが起き上がるのを見ました。それはゆっくりとしたゼンマイ仕掛けの人形のような動きでしたが、
「効果があった!!」
ようやく現れたリハビリ効果にガッツポーズ!
やったぞ!
私達が進んでいる道は正しい!!
勇気百倍とはこの事!!
ここから、滉燿くんの身体機能の改善が急速に進み始めます。次に出来るようになったのは、体操座りの様な膝を抱え込む座り方でした。一学期では膝が曲がらず、背中が丸くならないで、バランスが取れずに、後ろにコロンと転んでいました。
今は、他の子と同じように、膝を抱えて座っていることが出来るようになりました。加えて、座ったまま、トンビ座りから右足・左足と組み換えて、あぐら座りをすることも出来るようになりました。逆に、座っている状態から、ゆっくりと床に寝そべることも出来るようになりました。
立つのはどうでしょうか?試しに腰の所を持ってやって立たせてみると、膝が曲がり腰は引けていますが、壊れた操り人形の様なグニャグニャ曲がりは無くなっていました。自分で上体のバランスをある程度取ることが出来ようになっていたのです。これにはH療育園の新谷さんもビックリでした。電話で、療育園でも効果が認められていることを知らせてきてくれましたが、
「何で小脳がないのにバランス取れるんでしょうね?」
聞かれても私が分かるはずもありませんでした。
13 爆走バギー
九月の半ばを過ぎると学校内は運動会一色です。伊岐須小学校では、全校が青、桃、黄、緑の4チームに別れて得点を競い合います。滉燿くんは緑チームでした。ダンスは各学年の見せ場で運動会の花ですが、何と言ってもみんなが興奮するのは得点のつく競技です。
得点競技の中にかけっこがあって2年生は直線50メートルです。バギーの滉燿くんは、1年生の時には出場しませんでした。この時は、彼はテントの中で見ていたそうです。『担任がついた今年は出場しよう』と考えました。私が滉燿くんを乗せたバギーを押して走れば良いのですから何てことありません。が、一応お母さんの意見を聞いてみました。
「良いんじゃないでしょうか、でもバギーがスピードに耐えられますかね」
ごもっとも、この点は気になっていますのでH療育園に聞いてみました。
「押して走るくらいのスピードなら大丈夫でしょう」
よし、出場です。どうせ出るなら一着を取りたいです。得点競技ですから、チームのためにも一点でも多く取った方が良いのです。それに、ちょっと大げさですが、競争ごとで滉燿くんが一着を取るなんて、ひょっとすると最初で最後かも知れません。周りの子の身体も小さい今が、最後?のチャンスかも知れません。
一緒に走る子は滉燿くんを入れて8人です。背の低い順で、一番前の組なので割と小さい子が多い組です。練習の時はワザとゆっくり走りました。
これはバギーがスピードに耐えられるかのテストでもあります。いきなりスピードを上げて、バギーがひっくり返ったり止まれなかったりしたら大変です。ゆっくりしたスピードでスタートして他の子ども達に引き離され、後ろになったところで、全力を出して走り、バギーの具合を見ました。
滉燿くんは15㎏程の体重がありました。バギーはスピードが上がると真っ直ぐ走りたがり、右に左にと細かくコースを修正するのが難しくなります。何かの弾みで急に曲がったりすると、バギーが転覆してしまうかも知れません。重い物を一旦スピードに乗せると、止めることが難しくなります。
どこまで全速を出して、どこから止まり始めると良いか?そんなことを考えながら走りました。一緒に走る子は、遅れてゴールする私達を見ながら、バギーだからそんなもんだと考えていたようです。(思うつぼ!)
いよいよ本番です。滉燿くんのいる緑チームは、その時総合二位でした。チームのためにも私達は順位を一つでも上げなくてはなりません。ピストルが鳴ると同時に、二人は猛ダッシュしました。地面の凸凹からの凄いガタガタの振動が伝わってきますが、バギーが壊れそうな異常な振動は有りません。バギーは大丈夫なようです。滉燿くんは絶叫系のマシーンが好きなので手を打って大喜びです。私達は他の子ども達を引き離し、そのまま一着でゴールに飛び込みました。
バギーが重いので全速でゴールすると今度は止まる方が大変です。無理に急に止まらないで、トラックの端の方まで長い距離を使い、スピードを徐々に落としてから、無事にみんなが並んでいる所へ帰ってきました。
「くやしー、来年絶対負けないからね」
一緒に走った子達が口々に言っていました。
「バギー(車いす)が、あんなスピードで走るのを初めて見た。走ろうと思えば走れるもんですねー、みんなビックリしてたよ」
見ていた先生たちから口々に言われました。こうして、私と滉燿くんの冒険は無事に終わりましたが、作戦に気がついている人がいました。
「先生、ずるいっすよ」
別のチームにいた梶田先生がニヤニヤ笑いです。バレたか(笑)。
14 進む身体運動の改善
運動会少し前から、下校時に迎えに来たお母さんに、滉燿くんの訓練をちょっとだけ手伝ってもらうことにしました。立位(立つ姿勢)をとらせた時に、滉燿くんの膝が前へ飛び出してします。これを私一人では、真っ直ぐに押し込むことが出来ませんでした。それでお母さんに協力してもらうことにしたのです。
「よいしょ」
私が滉燿くんを立たせると
「よいしょ」
お母さんも膝を押し込みます。しかし、これが固くて、お母さんがビヨンと後ろへ押し返される事がよくありました。でも、毎日やっていると、わずかずつですが膝が入りやすくなっていきました。
気がつくと10月の半ばになっていました。訓練が始まる前に、滉燿くんの靴を脱がせます。5月の頃は、滉燿くんをバギーから抱えて降ろし、床に座らせて、私が靴紐の代わりのマジックテープを外して靴を脱がしていました。この動きを9月の終わり頃からは少し工夫しました。滉燿くんをバギーに乗せたまま足(靴)を持ち上げてやります。そうして、滉燿くんが少しかがんで自分の手でマジックテープを外すようにしていました。出来ることはなるべく自分でする。という考えでそうしていました。ある日、バギーに乗っている滉燿くんに何気なく声をかけてみました。
「靴ぬいでごらん」
言ったものの、出来るはずはないと思っていました。
ところが、滉燿くんは突然ガバッと右足を上げました。そして、手でマジックテープをつかむと、ビリビリッとはずし始めたのです!私はビックリ仰天!あの時の瞬間を今でも覚えています。滉燿くんはマジックテープをビリビリと外すと、いつもの「ギャハハ笑い」をしながら、手で靴をつかんで脱ぎ捨てました。続けて、左足の靴を同じように、
「ギャハハ」
笑いながら外してしまいました。そして「これで良いか」というように指でO Kサインを作りました。
私は驚いてしばらく動けませんでした。靴を脱ぐ練習などしていないのに、滉燿くんは毎日の靴を脱がせてもらうという行動の中で、必要な動きを覚えてしまっていたようです。
子どもの成長の凄さと可能性
を見せられた気がしました。
さらに事件は続きます。給食からなかよし4組の教室に戻る時は、滉燿くんを抱えてきて畳の上に置いていくことは前に話しました。ある日、いつものようにバギーを取りに行って教室に戻ってきてみると、その間に、滉燿くんは自分で靴を脱いでいたのです!
ビックリ仰天!です。人から言われること無しに、全然練習もしていなかったこと事が出来るようになっていたのです。簡単な事かも知れませんが、滉燿くんが自分で考えて出来るようになっていたのです。
色々な動きを滉燿くんが覚え始めたので、床から起き上がるもう一つの方法を教え始めました。今やっている起き上がり方法は、うつ伏せの状態から両手を床について、体の方にずらしながら起き上がる方法です。これでも悪くはありませんが、私達が普通に起き上がる方法は、仰向けの状態から一旦横向きになり、片手を使って段々と起き上がっていく方法です。普段は意識していないけれど、皆さんもそうしているでしょう?でも、滉燿くんにとって、かなり高度な動きなので覚えるのが難しいと思っていました。
訓練の中で、この動きのパターンを滉燿くんの手を取り、身体を動かして繰り返しやっていました。『今日は出来るかなー?』と思いながら・・・。
「滉燿くん起きて」
声をかけると、滉燿くんは片手をついて起き上がろうとしますが、途中で止まってしまい、それ以上出来ないので起き上がるのを諦めていました。まだ、身体を支える手や腰などの筋肉の力が弱いようです。そんなことを1・2週間ほどやっていたでしょうか、ある日、寝そべっている滉燿くんに向かって何気なく声をかけてみました。
「滉燿くん、起きて」
出来はしないんだけど、声だけはかけてみたわけです。
滉燿くんは、いきなり横を向いたかと思うと、サッサッと片手で体を支えながら起き上がって、あぐら座りになり、『ギャハハ笑い』でO Kサインを出しました。
「ハッ!で・き・た!」
私はフィギュアスケートの四回転ジャンプが決まったのを、目の前で見たような気がしました。
「もう一回やってみて」
もう一度寝かせてみると「何度でも出来ますよ」と起き上がって見せてくれました。これからの滉燿くんの起きあがりは全てこの方法となりました。
後日、H療育園でも、寝かせていた滉燿くんが、いきなりこの方法で起き上がったので、新谷さんもビックリ仰天したそうです。
立ち上がれ滉燿くん ! ~明日を信じた5年間~ 2(2)
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