かぼちゃおばさん 少々若かった おばあちゃんの年齢ではない だからもちろん 旦那さんも若い 旦那さん「老後どうしようかって話していたところだったのに。」 おひとりになってしまう老後 旦那さんの寂しさは 計り知れない かぼちゃおばさんが入院した頃は まだコロナもなかったので 旦那さんは 毎日のように面会に来ては 長い時間付き添っていた こういう時に よく思う 「女の人って強い。」 かぼちゃおばさん本人は 「何言ったって仕方ないのよ。」 と
ぽっちゃり 色白 ふわふわした わたあめが似合いそうな 患者さん 髪の毛も くせっけでクルクルしてる 息が苦しくて 酸素を鼻から装着し いつもベッドは 起こしていた 苦しくて 横になれなかったのだ 入院当初は ベッドサイドにあるトイレへご自身で行き 食事も 持っていくと 「置いといて、そのうち食べるから〜。」 と ご自分のタイミングで 過ごされていた いつもにこにこ 母親のような温かさをもった方 お話好きで たくさんおしゃべりも
彼女は漫画家を目指していた 亡くなる直前 何かの賞を受賞していた ご家族から 「見てやってください。」 と 彼女が描いた絵を見せていただいた とても 綺麗な絵だった 受賞された絵は 額に入って 大切にされていた 漫画家として 賞を獲得し これから という彼女の生 なぜ 生涯を閉じなければならなかったのか なぜ 彼女だったのか 考えてもわからないが 考えずには いられなかった 今 当時の彼女の年齢を超えて 生を全うしている自分が
翌週 モニターに変化が現れた もちろん それを察知したのは先輩 ひよこの私は モニターの波形の変化に 気付く余裕などない 正直 その時分は 見てもわからなかった お部屋からナースコールも鳴った あ… まずい気がする ひよこながらに 察した ドラマで聞いたことがある モニターの 最
次の日も その次の日も 先輩とともに 彼女のお部屋を訪れた 当時の私でもわかる 衰弱 この方に明日はあるのだろうか… 証券会社時代には 考えたこともなかった 自分に置き換えることなど できなかった 現実なのに 非現実だった ご両親の心境 もちろん ご本人のお気持ちも 想像もできなかった 言葉にできるような 絶望 とも違う それより もっと深い もっともっと尊い感情が 渦巻いていた
コンコン 先輩がノックをして 一緒に入室 ひよこの私には 衝撃的だった 終末期の方のお姿を見たのは それが 初めてだった お顔は痩せて 目がギョロッとしてみえる 抗がん剤の治療の影響だろう 髪は抜けて 柔らかい帽子を 被っていた お体も 細々としており 触れたら 折れてしまいそう 体を少し横に向けるのも 苦痛そうに お顔を歪める 私は先輩の後ろに ただ 呆然と立ち尽くした 触れるなんて 私のような 雑な手が 触れるなんて あの時 あの病室に居る
これは私が看護師になりたての 急性期病院にいた時のお話 その病棟で 一番高額のお部屋に その方はいらっしゃった 彼女の年齢は 当時の私と 2〜3個しか変わらなかった 私「随分若い方が高額部屋に入っているんだな。」 そんな程度の認識 入職してまだ3週間とか ほんとに ひよこ中のひよこの時代 カルテ上でしか 彼女を知り得なかった そんなある日 その日ペアになった先輩が 彼女のお部屋の担当だった 初めて お会いできる
夜中に起きては せん妄 イライラしながら ふらふらになりながら 看護師が支えることは許してくださらず それでも トイレへ行くことだけは 最期まで 頑張られた ワンワンおじいちゃん トイレと間違えて 床に おしっこしてしまうことも ザラ それでも 転倒もなく 安全に過ごしていただけて 本当によかった わんちゃんたちが 遊びに来た後は ワンワンおじいちゃんのお部屋が 犬の臭いで充満していたのも 今となっては 良い思い出
その後 スタッフ間で相談 このままでは苦痛が強い状態で 残された大切な時間が 終わってしまう 本人は 何を望んでいるのか ご本人に聞いても はっきりとした返答は得られない ご家族と話し合う 医療者としては まず 苦痛緩和を進めたい ご家族も同意してくださった ご家族の方から ご本人へ説明していただき ご家族がいらっしゃるところで 医療用麻薬の使用が開始された 1時間もす
疲れ果てた ワンワンおじいちゃん 横になって寝かせてみる でも すぐに起き上がる でも すごく眠たそう ん〜… 苦しいのかな 横になれないんだ 先輩と相談し リクライニング機能のついた車椅子へ乗せる 可能なところまで背を倒して ようやく休むことができた ワンワンおじいちゃん 寝ている隙に 注射でも打ってしまいたいところだが… それはできない ただ 苦痛が大きいと そんなに長いこと 寝ていることもできないだろう 夜勤3人
衰弱が進むと ワンワンおじいちゃんのせん妄は ひどくなる一方だった 何でもかんでも 嫌 独りが 嫌 でも 看護師に触られるのも 嫌 飲むのも 食べるのも 嫌 注射なんて もってのほか 夜も眠れず ベッド周りを 歩き回る 15分もすると 息が上がってくる お体が しんどそう 休息を促しても もちろん NO しんどさをとるために 医療用の麻薬が必要な状況だが 飲めない 注射できない つまり 投与不可 苦痛緩和が図れない 私が夜勤で担当した晩は ご本
手を替え 品を替え ワンワンおじいちゃんが 安全に過ごせるよう 格闘の日々 日中はほとんど 車椅子で過ごす 座ってもいられないのだが… 唯一 ご家族の面会の時だけは ベッドで落ち着いて 過ごしていられた ワンワンおじいちゃん 犬を2匹飼っていた そのわんちゃんたちの面会が とにかく嬉しかった わんちゃんたちも それはそれは嬉しそう フガフガ 言いながら ワンワンおじいちゃんの元へ 駆け寄っていく
入院されたその晩から 看護師が1人 ワンワンおじいちゃんから 離れられなくなった 夜は特に豹変してしまう だから 豹変してしまう前に お薬を飲んでいただく お薬が効いてくると どうにか横になって 休んでいたくだことが できるようになった ただ 21時 それまでは寝ないでほしい 21時にやらないといけない 皮下注射がある 毎日 9時と21時 いくら寝ていても さすがに 注射をすると起きてしまう 夕方から21時までが勝負 でもね なか
前医のからの情報で 「夜間は薬を使っても眠れません」 「暴れます」 という情報を目にする あ〜……。 となる我々スタッフ スタッフ同士で苦笑い 一体どんなおじいちゃんが来るのだろう 不安を抱えながら 待っていた 車椅子でいらっしゃる 車椅子には座っていられるんだ そのことに安堵した 昼間は幾分落ち着いて過ごすことができるらしい 担当看護師が ご家族とお話をするために別室へ ワンワンおじいちゃん お部屋で1人になると ごそごそごそごそ 既に
「牛乳ちょうだい、牛乳ちょうだい。 ああ、ありがとう。」 そして 優しい微笑みを見せた 牛乳おばあちゃん それは 私の夢の中のことだった 当時は まだ夜勤も始まっておらず 土日休み 休みの日に見た夢だった 月曜日に出勤すると 牛乳おばあちゃん 旅立たれていた 私なんかに お別れをしに来てくださったのかな こんなことあるのか 驚いたし 寂しかったけど 夢で見せてくださった笑顔が 私を落ち着かせた
これは 私が看護師になって数ヶ月の時のこと まだ自分1人で 患者さんに対してケアできなかった そんな時代 ナースコールが鳴って とりあえず 要件だけ 伺いに行った 私「どうされました?」 牛乳おばあちゃん「ああ、牛乳ちょうだい。」 私「牛乳を飲まれるんですね?冷蔵庫開けてもよろしいですか?」 牛乳おばあちゃん「いや、違う違う。牛乳のあれよ。」 困ってしまった私 先輩になんて報告しよう… まあ 悩んでいても仕方がないから 言ってみよう 私「○