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海外ミステリ『狐には向かない職業』感想
久しぶりにハヤカワミステリ文庫を読みました
『狐には向かない職業』
ジュノー・ブラック・著 田辺千幸・訳
発売されたばかりの新刊です
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森の動物が暮らす平和な村〈シェイディ・ホロウ〉である朝、気難しいヒキガエルの死体が発見される。
彼は毒殺されたうえ、ナイフで刺されていた!
キツネの地元誌記者ヴェラは、ヒグマの警察副署長と対立しつつ、友人のミステリ好きなカラスの書店主と事件を追うことに…
頭脳明晰で行動力にも長けた狐の新聞記者ヴェラが、平和な村ではあまりにも珍しい殺害事件の調査と取材を行う…という、定番のミステリです
動物たちが暮らす村〈シェイディ・ホロウ〉では、長年の平和ゆえに警察も適切な調査を行えず、ヴェラは自分が捜査をしなければ真実が逃げてしまう! と意気込んで、生き生きと村を駆け回ります
ミステリとしてはごくシンプルで、このお話の舞台となっている時代背景はおそらく、人間どもの世界で言う1920年くらいのアメリカの田舎町の雰囲気です
高度な科学調査も、組織だった警察機構による捜査も無いけど、著名なミステリ小説は出版されていて、それを参考に捜査の助言を行う書店員がいるくらいの長閑さです
そんな長閑さに、動物の擬人化されたキャラの定番が合わさっているために、不安もなく読める気安さがありました
明朗かつ行動力のあるキツネの新聞記者
その友人で助手をかって出る書店員のカラス
新聞社の社長で発行部数だけが命のスカンク
ゴシップ記事担当で口数の多すぎるハチドリ
村一番の人気のカフェを営むヘラジカ
製材業と水運で財を成したビーバー
博識だけど話が長いフクロウ
こそ泥のアライグマ
動物のイメージからのキャラクターにも安定感があって、訳文の親しみやすさと共にするすると読めます
率直なところ、事件の規模は大きくないし、犯人像も意外だったり尖ってたりはしなくて、何と言うかキャラ紹介に振りすぎてて事件はあっさりめのドラマ第1話みたいな印象の作品でした
続編ではもっと様々な登場キャラに踏み込んだり、大がかりな事件に挑む作品だといいなあと思います
この作品タイトルの『狐には向かない職業』は
P・D・ジェイムズの傑作『女には向かない職業』をオマージュした邦訳タイトルになっているので、そのイメージで期待して読んでしまうと、若干物足りなかった…というのが、ここだけの感想です
でも、キツネ女子の新聞記者とカラス女子の本屋さんのバディ感はすごい好きなので、次作に期待してお待ちしてます