タークの“アリとキリギリス"
安心して働いて…
今日は穴を掘り、明日は砂糖を探しに行く、おいら達の生きる毎日は繰り返される。
おいらは、アリのターク。
仲間と一緒に一生懸命働いて、ほんの少しのご褒美をアン女王様からわけてもらう。
そんなわずかなご褒美から少しずつアン女王に預けている。
アン女王が「みんな毎日働いてくれてありがとう。 預かったものはみんなおじいさんやおばあさん歳になった時に暮らせる様に貯めているんだよ!」
アン女王の話す言葉に、おいら達は疑う事もなく安心している。
オイラのおじいちゃんは楽しく過ごしていたものね…、きっとオイラはおじいちゃんの様に…。
毎日
一緒に働く仲間達には子供や妻がいたりいなかったり、それぞれの事情の中で暮らす。
こんなおいらに妻がいて、やっと子宝に恵まれて一生懸命に働く。
子供が育てながらたまにサリーとケンカしながらも、そんなこんなして子供のスラは成長した。
スラが大きくなると、おいらと妻のサリーの触覚は少しずつ白くなりじめて、ちよっぴり年齢を重ねた自分達の姿が見え始めたりして…。
60回目の春には仕事が終わり、後はゆっくりできると“ゴール"がきまっている。
あ〜、そういえば65回目の春までにこの間ルールが変わったんだ…。
仲間たち
いつもの様に仲間達と働く中で、噂話を仲間のケリーが話し始めた。ケリーは「アン女王が仲間たちが預けたものを食べてるらしいよ。」
そんな話をしながら仲間のタンは「でも、今すぐは困らないよ」すると、「でも歳を取って働けなくなったら…。」とナラが呟く。
「大丈夫だよ、子供達も働いてるしさ、子供達に面倒を見てもらえばいいのさ」と話す。
子供には縁が無かったカンが、「それとこの話は…、少し違う話じゃないかな?」
と疑問顔で話した。
すると、少し先輩のマハが「今日働けて、食べられたらいいんじゃない!」と、もうすぐ最後の仕事が近くなっているマハが目前にしたゴールラインを見据えて、その後の事を考えているらしい…。
おいら達はアリ…、仲間内の噂話に、それぞれの置かれてる状況がまるで違い、同じ仕事をしている小さなアリの仲間達の生き方の背景がこんなにも違っている。
同じ出来事にこんなにも違う未来を描いているけれど…、預けたご褒美が貰えなければ…、不安がよぎる。
ルール変更
少し年上のマハと一緒に働くのが最後の春のある日、おいら達のアリの巣にアン女王の放送が流れ耳を傾けると「この巣の皆さん、これからは70回目の春を迎えたら仕事をしなくてよくなりました…!!」
アン女王の声は、はつらつと明るく呆気なくてルールを変える。
マハは「えっ、65回からまた5回分も伸びた…、」この春を迎えても仕事が終わる事が出来ない、終わられない…。
マハが項垂れながら呟いた「走り続けるマラソンのゴールが伸びた、もう少し働ける」
仲間たちは口を揃えて「“ゴールが伸びた"なんて、うまい事言うね。」と、マハを慰めながら引きつり笑い、マハに自分を重ね複雑な思いがつのる…。
「ターク、オイラ達のゴールラインはもっと延びるね〜。」と同じ歳のカンが話す。
おいらは苦笑いしながら「85回目の春とか言いだしたりしたら、少しも貰えないままに終わったりしね〜」
ゴールラインが呆気なく延びて、見えないゴールラインのマラソンみたいに仲間と働く。
いや違うな、このままだと働かないといけなくなったのか…。
少しずつ、預けたものは無いらしいから…。
巣の中の放送にはアン女王の声が爽やかに流れ、「みなさん、ご苦労さまです。新ルールの発表をします。」
「今度はなんだろう?」とおいらは仲間たちと一緒に耳を澄まし聴いてみる。
「みなさんが少しずつ預けてくれていた砂糖は無くなりました。しっかりと最後まで働く事にルール変更です。」
新しいルールは短時間で決り発表されて、おいら達アリの働く日々は続きゴールが見えない。
カンが呟く「無さそうで、有るんだよねルールの変更!」
おいらは「そうだねー、次は何のルール変更だろう…。」
お知らせ
「いい事を紹介しますね!」
ある日の昼にアン女王が放送し、話を続けた。
「皆さんの手持ちの褒美の中から少しずつお隣の巣や別の巣に預けると、ほんの少しおじいさんやおばあさんになった時に楽に暮らせます」と、優しい声で凍りつく事をさらりと話す…。
「預けるだけの余裕がない」私は下を向いて呟く…、カンも下を向いた。
童話
“アリとキリギリス"のお話は、確かコツコツと働き寒い冬を越し、キリギリスは遊んでばかりで冬を越せなかった、そんな内容の童話だったはず。
いつの間にか、童話の内容ががらりと変わり、働いても冬を越せない…!!
おいらはアリのターク、触覚が白くなってきたけれど“キリギリス"じゃなく、アリなのに…。
でも、冬を越せない…。
…………………… おしまい ……………………
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