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派遣さんは、名前じゃない!
派遣社員さん
「今日から一緒に仕事をする、え〜と、名前は…」と人事部の原口が名前を忘れていたら、紹介されるはずの女性が小声で「髙橋栞里です。」と原口へ紹介した。
仕切り直して「高橋さんです、解らない事は教えて下さい、それじゃ、一言と。」
髙橋さんが「派遣の高橋栞里です。宜しくお願いします。」と短めに挨拶する。
人事の原口が「席はあの角のを使って、詳しい事は水戸さんから聞いて下さい。じゃ、宜しく。」
朝の朝礼での派遣社員さんのあるあるな場面だ。
頼まれた水戸は38歳で仕事は“そこそこに”というタイプの正社員。
「水戸さん、宜しくお願いします。」と
高橋が言うと、水戸が「あすこが休憩室、トイレはあれで………………。」と説明を一通りした。
席に着くと間もなく営業部の奥の方から、「派遣さん!」と呼ぶ声がしたが髙橋は気が付かないフリしていたら、水戸さんが「は〜い。」と代返した。
「高橋さん!」と水戸が促した。
栞里は心の中で“早速だよ、派遣さんって!!!”
水戸が「その言い方はアウトですよ、課長。」と言ってくれた。
栞里は“アウトですっと、水戸さんも同じ様に見ているんだけどね〜!”と…、内心思った。
“名前は高橋栞里”ですと心が話す。
3ヶ月過ぎて仕事に慣れ四半期決算の書類を一人で処理した栞里だけども、相変わらず“高橋栞里”の名前は下の欄に記入され“水戸”の名前が上の欄に記入される。
水戸は次から次と書類を運んで来ては、「仕事速いね、頼りになるわ。」と。
“お褒めの言葉”かよ!と心で叫ぶ。
正社員
四半期決算書は“右肩下がり”の結果が判ると営業部が叱責されて若手営業社員に「そんな時も有るって、ガンバレ。」と話しかけ、“正社員同志”の同じ釜の飯を食うと言う感覚。
水戸が栞里に何気なく放った言葉は、「高橋さんはこれまで通りに仕事して大丈夫だから!」と。
栞里はこの時程“部外者”と感じる時はなく、まるで“透明人間”の様な、仕事をするAIロボットの様な感覚に陥る。
格差
仕事の出来る栞里と、同じ会社で契約社員として働く雷太は働く環境が似ていて気が合って結婚した。
新居を探して、「あのマンションいいね。」と不動産屋に入り、不動産屋が何気に「お仕事は?」とサラリと言った。 雷太が「OO会社で働いてます。」
不動産屋が「優秀なんですね、正社員とは…」と言われ、「いいぇ、契約です。」と答えたら、不動産屋が声のトーンを下げて「“契約社員さん”ですか!」と……。
同じ会社の中で働く人の中に、目に見えない“カースト制度”がある様に、世の中にも……………………。
1985年の派遣法は誰の為に、作られたのだろう…?
もちろん、経営サイドの御都合法律なので、会社の利益至上主義が丸見えで。
派遣社員や契約社員と名前を付けて、あっさりと切り捨てる。
トカゲのシッポみたいに……!!
あらゆる事に格差を産み出した。
貴方はこの先失われた30年の続きを望むのか?
不安定な、まるで実体のないものだらけの様な時代に見える。
香山栞里(旧姓 高橋)は、お母さんなり小さな赤ちゃんに話しかける。
「大きくなったら正社員になって、名前を呼ばれる様になるのよ!」と、
栞里の優しく話しかけている話しは寂しいが、現実。
正社員になら、こんな透明を社会の中を生きろと余りに寂しい。
……………………終わり……………………