ストリートなマジシャン
ストリートマジシャンがいた。
13時ごろ公園の池の前でストリートマジシャンが音楽を鳴らしてマジックを披露していた。土曜日ということもあり、結構人がいる。家族連れ、ガッツリ見てる感は出さないものの結構釘付けになって見ている人、など総勢30名ほどがいた。かくいう私も「ガッツリ見てる感は出さないものの結構釘付けになっている人」の一員としてマジックを見ていた。
ストリートマジシャンは165センチぐらいでおそらく20代後半、さっぱりとした髪型の好青年といった感じ。マジシャンといえば、「漆黒のサングラスに漆黒のスーツでハンドパワー」程度のイメージしかなかった俺からすると、なんだか随分と新鮮なタイプ。ただ、音楽やマイクその他諸々のマジックの機材はしっかりとセッティングしているにも関わらずなぜか、服装が黒いパーカーに黒いスキニーパンツというヤングな大学生スタイル。さすがにそこまでラフなスタイルだと、どんなにすごいマジックをしたとしても雰囲気が出ないというか、プロ感が半減しちゃうんじゃないのと思ってみているとやっぱりそう。マジックはすごいんだけど、お客さんが「おぉ〜ん」ぐらいの反応。「まあそうだよな、やっぱりMrマリックのセルフプロデュースはすごいよなぁ」と知っているマジシャン2名の俺が心の中で専門家ヅラをする。
すると、マジシャンが「ここで『おぉ〜〜!』っていう反応がほしいんですけどねっ!!」というサムいMCを得意げな顔で言った。するとお客さん(俺以外)が気を使って「おぉ〜〜」と歓声らしきものをあげる。なんなんだこれは、どうやらマジックの腕前で勝負すればいいのに、小笑いおねだりMCを挟むことで、マジックの腕前も霞ませるタイプのようだ。この辺りから何を見せられてるんだ俺は状態に突入し始める。
お客さんが歓声を上げてくれたことをいいことに、マジシャンのサムいMCは饒舌になり始める。「ヒヤッとして寿命縮むかと思いましたぁ!イヤイヤもうちょっと生きたいっ!もうちょっと生きたいっ!年齢は言わないけどっっ」なんなんだお前は。勝手に何を盛り上がっているんだ。きっと彼の脳内では「波乗りジョニー」あたりが再生されていて、歓声という波を颯爽と乗りこなしているつもりなんだろう。さらにマジシャンは「これアジア大会でやってるよりすごい技っ!上、下だけじゃなくて私は横、斜めもやっちゃいますっ!」といって両手をかめはめ波のように前に出し、両手の手の平中で水晶を浮いているように見せるマジックを披露した。観客からは「おぉ〜!」とそれなりの歓声が上がり、マジシャンも満足そうではあったが、明らかに広げた風呂敷分の歓声は回収できていない。それとは対照的にマジシャンはかなり気持ち良くなっていらっしゃった。彼はきっと、「寒いっしょ」といって得意げにコートを女の子にかけるタイプだ。そしてそのコートにネットで調べた女子に人気の香水を振りかけておくタイプだ。マジシャンは暑くなってきたのか、パーカーの袖をまくり「後ろの方!自転車が通るのでもう少し前で見てもらったほうがいいですよっ!」と言い意気揚々と交通整備まで始めてしまった。どうやら、「そっち、、危ないよっ」と囁き微笑みながら肩に手をまわし、歩道の内側にに女の子を導くタイプでもあるらしい。
心の中で自然と「もうこれぐらいでいいか」呟いてしまったため、その場を立ち去ろうとすると、マジシャンは「ディアボロ」という道具を取り出して「次はコレやっちゃいますっ!!」と言った。ディアボロは中国の駒で、大道芸の定番らしい。先端が紐で繋がっている棒を両手に持ち、間の糸に駒を乗せジャグリングのような手つきでその駒を空中に飛ばし、それをキャッチする。マジシャンも腕前は確からしく、器用に空中に駒を放っては難なくキャッチしていた。「次!、、、背面!、背面やっちゃいますっ!」と言った次の瞬間駒を背面でキャッチ。これには俺も心の中で「おー!ナイスキャッチ」とマジシャンに拍手を送る。背面でキャッチした後に「板橋のイチローーっ!まあ笑いの打率は2割2分ぐらいなんですけども」とか言うのかと思ったら何も言わずにそそくさと次のパフォーマンスへ。面白い人が好きという常套句に乗せられて、デートをどれだけ笑いが稼げるかという競技だと思っているタイプではないらしい。マジシャンが「次が1番すごいですよ!見ててくださいね!」とお客さんを煽る。「えいっ!」と声をあげて駒を上空に放った。駒は15メートルぐらいまで上がり、マジシャンは見事その駒をキャッチ。これには「おぉーー!」とおおきな歓声が上がる。俺も心の中で「ほぉー!やっぱり腕は確かなんだな」と呟きその場を立ち去ろうとした次の瞬間、その駒を上げたあたりの空を一羽のしらさぎが羽ばたいた。「はっ!!?!!?」と俺は思わずそのしらさぎを目で追う。しらさぎは優雅に羽ばたいたと思えばマジシャンの後ろにある池に着地した。辺りを見渡してもしらさぎはその1羽だけ。その池にしらさぎがいるところを俺は今まで見たことがない。
これだ。これだったんだ。ヤングマジシャンが言った「次が1番すごいですよ」というのは。彼は長年の鍛錬経て、「ディアボロを駆使してしらさぎを呼ぶ」技術を身につけていたのだ。さすがにMrマリックのハンドパワーでもそらにしらさぎを羽ばたかせることはできないだろう。俺はとてつもないマジシャンを見つけてしまったのかもしれない。
もしかするとディアボロを上空に放ちキャッチするまでの間に、ヤングマジシャンが着ているパーカーのフードあたりから、飼っているしらさぎを放ったのではないかという疑惑も出てきた。次彼を目撃したら、その謎を解明したい。
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