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性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律の改正についての意見書

当会は2024年9月30日に自由民主党へ「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律」の改正についての意見書を出しました。送付した意見書の内容は下記の通りです。

2024年(令和6年)9月30日

自  由  民  主  党   御中
 総裁   石  破  茂   殿
 政務調査会長 小野寺五典   殿

性同一性障害特例法を守る会
代表  美山 みどり

 当会は、性同一性障害当事者の団体であり、特例法によって戸籍上の性別変えた者・未変更の者、男性から女性・女性から男性などさまざまな立場の性同一性障害を抱える市井の当事者が集まった団体です。
 当会は、女性スペースを守る諸団体と有志の連絡会の一員として、昨年6月のLGBT理解増進法の制定論議の頃から、貴党の性的マイノリティに関する特命委員会を初めてとする多くの先生方に情報と考えを提供してきました。連絡会では、貴党の全ての国会議員あてに、できたばかりの書籍「LGBT異論」を献本申し上げたところです。
 今回は、表題のことにつき、意見申し上げる次第です。

要 請 の 趣 旨

 外観要件は合憲であり、そのまま維持されたい。

 新たな医学上の概念である「性別不合」ではなく、従前どおりの「性同一性障害」を法的な概念として維持できないかを追求し、ジェンダー医療専門医の意見を聴取しつつも社会的な合意を得るようすすめられたい。

 性別適合手術をした者についての性別取り扱いの変更が、従前同様にできる道を維持されたい。

 「性同一性障害」を診断する医師2名につき、精神保健指定医と同様の国家資格制度を作られたい。

 性犯罪を起こした場合などは、性別変更の取扱いの審判を、検察官が取消し請求できる制度を作られたい。

 法改正の議論のために、法務省から特例法に基づいて性別取り扱いの変更があった全数について、年代別、変更の性別及び世代別の数を明らかにされたい。

 法改正の議論のために、厚生労働省から、特例法にもとづいて性別取り扱いの変更があった全数についてその後の満足度の程度、生存の成否、死亡者の人数、死因の別などを調査して報告させること。少なくともカルテが残存するはずの過去5年間分について、実施されたい。

 現在、ジェンダー医療専門医以外の医師が利益追求の手段として「一日診断」と呼ばれる簡易な性同一性障害診断の提供をしきりに宣伝している。性別適合手術を必須としないこととなったために、診断はより厳密さを要求され同時に重要な位置を占めることとなったのだから、このような脱法的な行為は許されるべきではない。厚生労働省にこの点の実態を調査されたい。

 「脱医療化」ではなくエビデンスに即したジェンダー医療の充実を、人権モデルではなく医療モデルを目指されたい。

10 女性スペース及び女子スポーツに関しては、「女性スペースを守る諸団体と有志の連絡会」が提案の第3案を真摯に検討されたい。  最低でも9月4日「全ての女性の安心・安全と女子スポーツの公平性を守る議員連盟」が策定した「男女別で利用が区別される施設における女性の安全・安心の確保の促進に関する法律案要綱」を基とした法律案を自民党の案とし、他党の理解を得つつ急ぎこの法案を提出・成立されたい。

11 現在の混乱を収めるため、貴党として当面、次のとおりの考えであることし、またこれらを政府にあってすすめるようにされたいと。

11-1 未手術のMtF(男→女)については、広島高裁で性別適合手術をしていないが外観要件を備えているとした判断の具体的な内容を調査して、裁判所に情報を提供し、また国民に周知されたい。

11-2 未手術のFtM(女→男)の性別取り扱いの変更をする場合の診断書2通については、その学会で認められた専門医であることが推奨されると医師らに周知し、あわせて治療内容について客観的で明確な証拠を付した診断書とするよう指導されたい。

11-3 性別取り扱いの変更申立にあたっては、診断書があろうとも裁判官がこれに拘束されることはなく合理的な自由心証によるものであることを、関係諸団体を初め、国民各位に伝えられたい。

11-4 その判断にあたっては、MtF(男→女)につき、性犯罪歴・暴力犯罪歴のある申立人の性別変更の取扱い変更、特に性別適合手術をしないが外観要件が備えられているとする申立てについては、裁判官の合理的な自由心証により、却下されこともあることを、関係諸団体を初め、国民各位に伝えられたい。

11-5 いわゆる「一日診断」によって得られた性同一性障害の診断書は、国として、特例法の診断書としては不適切であると広く宣明されたい。

11-6 「一日診断」を下した医師については、国として、医事法違反・虚偽公文書作成罪による告発も辞さないと広く宣明されたい。

11-7 専門医団体、大学関係者及び日本医師会などに対し、性同一性障害について精神保健指定医と同様の国家資格制度を作ることの意義を説明し、その意見を聴取されたい。

11-8 女性スペースについては、当面、性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する法律(令和五年法律第六十八号)その他の法令によるも、管理者が定める利用方法によるのであって、決して女性と認識する生得的な男性の利用が公認されたものではないことを、改めて関係省庁が通達するよう求められたい。

要 請 の 理 由

 当会は、性同一性障害当事者の団体である。特例法によって戸籍性別を変えた者、未変更の者・男性から女性・女性から男性などさまざまな立場の性同一性障害を抱える当事者が集まった当事者団体である。
したがって当会は、この度の2023年10月25日の最高裁大法廷決定及び2024年7月10日の広島高裁決定につき、これに基づく特例法の改正内容などにつき、まさに当事者として多大な関心を持つ立場にある。
 手術要件が必須のものではないとなってしまえば、MtF(男→女)につき法的性別が変更したとしても、陰茎などがあることがあり得るということとなってしまう。そのようなことでは従来「法的性別が女性となった以上は、『陰茎は付いていない』という保証が失われる。女性らからは女性スペースの利用につき、この制度的保障があったからこそ得られていた信頼がなくなってしまい、今まで手術して戸籍変更した人さえも警戒される事態に陥りつつある。
 以下、要請の内容ごとに理由を説明する。

 最高裁決定により生殖能力喪失要件が無効化し、広島高裁においてMtF(男→女)につき性別適合手術を必須としないと決定され、それが判例となった。しかし重要なのは外観要件自体は合憲とされたことである。
 それは、性別適合手術に匹敵するような外観である場合でなければ、認めないという趣旨であり、外観要件は特例法が例外的なものであること、MtF(男→女)が陰茎あるままに法的女性となれば、女性スペースの利用などにつき女性の不安が生じるから存在するという合理性が認められたのである。外観要件は、決して違憲と判断されたのではない。
 よって、外観要件を維持するべきなのは当然であり、これを削除しないように要請の趣旨1記載のとおり求める。

 新たな医学上の概念として「性別不合」があるが、日本国国民になじんだ「性同一性障害」の概念はそれ相応の合理性があり、かつ2003年の制定後の20年間、安定的に運用され、国民に受容されてきたものだった。それは、実際上は法的な概念として設定されたものとも言え、医学上は別の概念が登場したとしても、法的概念として維持することになんら障害はないはずである。
 よって、要請の趣旨2記載の通り求める。

 性別適合手術をした者についての性別取り扱いの変更については、手術しないままに申し立てる者と異なって、これまでの判断基準を廃止する必要はない。
 よって、要請の趣旨3記載の通り求める。

 広島高裁決定を判例とする限り、性別適合手術を必須としないこととなったことから、「性同一性障害」を診断する医師2名の診断はより重要な位置づけとなり、しかしより困難になったものである。しかし、診断する医師は関係学会が認定する医師であると言ってみても法的拘束力はない。
 実際、これまでは「性器手術をしたという事実」の重みによって、診断のウエイトは高くはなかった。日本GI(性別不合)学会(旧名:GID(性同一性障害)学会)でも、しっかりとした意見の統一がなされているわけでもない。ジェンダー医療専門医の意見統一と診断・医療の体制づくりをまず進めるべきであり、合わせてこの際、精神保健指定医と同様の国家資格制度をつくるべきである。
 よって、要請の趣旨4記載の通り求める。

 法的女性に性別を変更した後に性犯罪(条例違反・盗撮などを含む)を起こした場合は、そもそも特例法の定める基準を満たしていたか合理的な疑いが生じる。
 よって、公益の立場からこれを取り消す制度も必要であって、要請の趣旨5記載の通り求める。

 法改正の議論のためには、これまで13,000人を超える性別取り扱いの変更があったとされるが、その詳細が知られなければならない。
 よって、その全数について、年代別、変更の性別及び世代別の数を明らかにされるべきは必須であり、要請の趣旨6記載の通り求める。

 法改正の議論のために、厚生労働省から、性別取り扱いの変更があった者について、その後の満足度や生活の状況などが示されなければ実のある議論とならない。
 よって、要請の趣旨7記載の通り求める。

 性同一性障害の診断について、ジェンダー医療専門医以外の医師が積極的な宣伝行為をしている事実さえも認められ、異常である。このようなクリニックでは、表面的で簡易な診察だけでその日のうちに簡単に診断書を発行する医師がいる実態が、数多い証言によって明らかになっている。正当な医療行為であるというよりも利益本位の営業活動であるという疑念が当事者の間でも共有されている。
 しかし、性別適合手術が必須ではなくなった以上、診断はより困難となると同時に社会的に重要な意義を持つこととなった。一日診断は明らかに脱法的である。これは一見「当事者のために」を装いつつも、逆に真摯なジェンダー医療を破壊する行為であり、当事者として許すことはできない。管轄省庁による実態調査をもとに、刑事罰・行政罰を含めた断固とした対応がなされるべきである。
 よって、要請の趣旨8記載の通り求める。

 今日の混乱は、トランスジェンダーの定義も不明なままに(政府答弁2024年2月9日)、「トランス女性は女性だ、女子スペースの利用公認を」という考えを背景に、「脱医療化」した「人権モデル」を旨とする思想運動がある。しかし、真に救済されるべきは、身体違和を強く訴える者すなわち医学的に厳格に性同一性障害だと診断された者である。医療、特に性別適合手術を求めることが死活的な利害であり、それは「脱医療」では決して達成されないのである。このようなエビデンスに基づいたジェンダー医療の充実こそが必要である。
 よって、要請の趣旨9記載の通り求める。

10 特例法により「女性とみなされる」となれば、特例法所定とおり別段の法律がなければ、女性スペースを利用できると主張して実行に移し、女子スポーツの参加資格を求めて強引に押し入ろうとする風潮を助長しかねない。しかしそれは、女性の安心安全、公平性といった権利法益を脅かすものである。
 この9月4日、貴党内の議連が女性スペースについて各省庁とも協議のうえ、法案要綱を確定されました。
 よって、要請の趣旨10記載のとおり求める。

11 今、マスメディアなどが、定義をはっきりと明確化していない「トランスジェンダー」の問題として報道する影響からか、多くの人が2003年特例法成立時のままの、性同一性障害で手術を求める者と「トランスジェンダー」を混同して語っている。
 しかし「トランスジェンダー」には、性別違和はあるが手術まで求めない人やホルモン治療もしたくない人、逆の性別に馴染む努力を放棄した人、そもそもそのような意思もない人もいる。ジェンダー医療を求める者と求めない者、また女性スペースの利用を求める者と求めない者、女性の安心安全、公平性の維持という権利法益にも心を砕く人とそうでない人など、さまざまな「トランスジェンダー」が存在する。
 その混乱は、特例法の改正やその他の法律の制定を待つことができないほどであって、当面の措置が必要である。
 よって、当面、要請の趣旨11記載の8項目につき、党として姿勢を示し、また政府にこれを要請されたい。

12 最後に、女性として生活するMtF(男→女)のかなりが、女性が男性器を怖がるのは当然であると、まさに当事者の実体験として理解していることを付言します。これは法的女性となって女性スペースを利用している者も、そこまで至っておらず他の場面では女性として生活する者も含みます。いわゆる性自認主義に立つ論者・活動家は、そのような女性の訴えを「ペニスフォビア」などと批判していますが、その品位のない姿勢は、我々当事者にとって有害無益であり、著しく迷惑なことです。
 外観要件はMtF(男→女)にとって「男性器がない」ということを保証する条件です。これを失うことにより特例法や当事者が女性からの信頼を失ってしまうことの重大さをどうぞご理解ください。また、社会からの信頼という点ではFtM(女→男)にとっても他人事ではありません。
 よって、医療、手術を求めてきた当事者としてこそ、外観要件を外すことは絶対にされないよう、ここに繰り返して要請します。
身体に対する性別違和を解決しようと、外科的手段を辞さずに切実に医療を求める私たち当事者の声を、ないものとされないようお願い申し上げます。

以 上

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