小説:剣・弓・本019「黄色と赤色」
前話
019
【ライ】
「ナスノさん、あの黄色い岩、見えます?」
首をそちらに向け、髪をかき上げ目を凝らします。
「あれに当てられますか」と僕は伝えました。
「???……理由はあとで伺いますよっと!」
いつもの如く長い脚を踏み出し身体を弓のようにしならせて投擲しました。
戦場では一瞬の遅れが命取り。セドさん同様、ナスノさんも熟知している様子です。
矢はその黄色い岩に命中。粉々に砕け散るや否やその周囲だけが、ドゴゴゴゴォォーーーという轟音とともに陥没していきます。
地面は裂け、周辺の兵士を次々に飲み込んでいきます。
「うぁー、お、落ちるぅーー」
「助けて〜」
「ゲルステル様に栄光あれーーー」
「天命は帝国にありーーー」
……
命を散らす。兵士達。
あれは炸裂岩のコア。
ピンチはまだ続いています。爆発を免れた側の軍勢が押し寄せてきています。点在する樹木の間を、樹木の脇を通り抜けつつあります。
「セドさん、あの樹々の赤い実に石を投げて下さい!」僕は素早く伝えます。
「なるほどな。あれなら俺も知ってるぜっ!」
その『ぜっ』とともに周囲の石を拾っては投げ、拾っては投げ、を繰り返します。
それを真似してネネさんも投げてみるのですが、肩が弱いのか赤い実には届きません。
セドさんの投げた石だけは、スタン、スタン、スタン……とリンゴ大の赤い実にヒットしていきます。
すると、ヒットした樹のツルがうごめき、鋭く伸び出し、周囲の兵士に絡み付きます。
「うっ、うぉぁーーー」
ふいに足を取られ転倒する兵士。
「うあーーー」
胴体に絡みつかれ、身動きが取れない者。
自然の摂理を上手く使えば戦える。僕も少しは役に立てる!
私達のもとに辿り着いた兵士はおらず、ひとまず難局を乗り越えたようです。
しかし、これは単なる前哨戦に過ぎませんでした。
(つづく)
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