ラーメンの丼

好きな漫画家さんがいる。
漫画も勿論好きなのだけど、その方の発信が好きなのだ。
SNSでは衣食住、旅、美容、少し前に家族に迎えられた素敵な猫ちゃんのことなど多岐に渡り、月並みな表現だけと、センスが素晴らしく、イラストや写真が添えられたすっと馴染んでくる文章が大好きで、更新されていると見に行っては、自分が知らなかったキラキラしたことをインプットしてほくほくとして現実に帰ってきた。

季節が変わる前から休職しているわたしは、なるべくSNSから離れていたけど、その方のブログやインスタはそっと見せていただいていた。
一時期ラジオで以前住んでいた街について紹介してくださったことがあり、それを聞いて某スコーンが美味しいパン屋さんに並んだりもした。

最近合羽橋に行かれていたブログがアップされていて、お店や店員さんの雰囲気についても細かく書いてあり、わたしはラーメンの丼の紹介ではっと思った。

夫と「ザ・ラーメンという丼がほしいね」と数ヶ月前に話したのを思い出したからだった。

「あの!暑くて今は無理だけど!もう少ししたら、一緒にラーメンのどんぶりを…」

リモートワークの休憩中の夫に伝えに言った。
涙が出てきた。
近頃の希死念慮といえば、それは衝動的なもので、カウンセリングに通い、病院に通い、それでもどうしていいかわからずに、ベッドでじっとしてやり過ごすしかないときも本当に多く、何かに取り残された気持ちは、渦を巻いて、意味もなく泣いていることも多かった。

「ラーメンのどんぶりを…一緒に…」
言葉にならなかった。
今は電車すらひとりで乗れるかはわからないけれど、暑い中どれくらい外にいれるかわからないけど、涼しくなったねと話せるまでわたしがここにいる約束なんて無責任なことをいうことをしてはいけないこともわかっていたけど

それでも言いたかった。

「涼しくなったら、一緒に合羽橋にラーメンのどんぶりを買いに行こうね」と。

夫は「ラーメンのどんぶり…」と言いながら号泣するわたしをびっくりした目で見て「え?何?ラーメン?」と掴めないままハグをしてくれたけど
わたしは言葉にならずにその漫画家さんのブログを見せて嗚咽し続けた。

夫は「去年から話してたものね、もう少し活動できる暑さになったらラーメンのどんぶりを買いに行こうね」とびっくりするほど早く飲み込み、理解をしてくれた。

適応障害になってからわたしから、夫と明日以降の約束をしたのははじめてだった。

ほこほこと湧いてきた、ラーメンの丼がキッチンの戸棚に並ぶ景色や、一緒に選びに行くこと、もしかして他の器も見たりするのかもしれない。

はじめにその器で何のラーメンを食べようか、とスーパーのインスタントラーメンやチルドコーナーを見て思うのだ。

その作家さんに伝えることもお名前を出すこともおこがましくてできないのだけど、いつも本当に発信はもちろん、その気遣いの細やかさや感性の美しさに励まされています。

わたしに未来を想像させてくれたあなたへ
何も返すことはできないけれど、あなたとあなたの素敵なご家族な猫ちゃんが今日も健やかであることを祈っています。

本当にありがとう。

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