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なにげに文士劇2024旗揚げ記念連載#2【一穂ミチ】

作家たち、舞台に立つ
筆一本で世にはばかる文士(作家)とその仲間が集まって、芝居をします。
文士劇は130年以上の歴史を持ちますが、大阪では実に66年ぶりの旗揚げ公演。素人芝居だからこそ懸命、アタフタと慌てふためいてしまうかも?
……そんな素敵な企画「なにげに文士劇」。
舞台に立たれる作家さんのエッセイを順番に公開します!!
第二弾は一穂ミチさん。
是非お楽しみください!!

私信

文:一穂ミチ

 文士劇、というものにお誘いいただき、「文士」の部分にも「劇」の部分にもまったく自信がないのだけれど、おもしろそうなので「やります!」と軽率に答えた。去年九月の決起集会では「なるべく台詞せりふのすくない役を……」「木の役を……」と志願するメンバー続出で親近感しかなかった。演目って『与作よさく』でしたっけ。

 そのすぐ後、旅先でトレッキング中に足をくじいてしまった。不幸中の幸いというべきか最終日だったので翌日は亀の歩みでよちよち帰宅し、しばらくサポーターと湿布と杖が手放せない生活を送った。激痛というほどではなかったため病院には行かずにすませたが、その後も違和感が続き、下り階段は手すりにつかまらないとどうにも心細い。違和感というより恐怖心なのかもしれない。

 今年の二月、朝井まかてさんにお会いした時「去年の捻挫ねんざが治んないんですよね〜」と考えなしにこぼしたら「舞台はどないすんのっ!」と思いのほかガチトーンで心配されてしまった。自分、木ッスから……。

 そして七月現在も完治には至っていない。そういう歳なんだとしみじみ思った。やらかす前の肉体には戻れない。

 かれこれ十五年ほど前に、腰の骨を折って入院したことがある。人生初の入院、しかもうち一カ月はほとんど寝たきりでベッドから動けない日々だった。搬送(というか搬入)されて間もなく、ピアスを外した。何をするにも看護師さん頼りの生活でちゃらちゃらピアスなどぶら下げているのは悪印象かもしれないと危ぶんだ。その時点で穴を開けてから半年くらい経っていて、すっかり馴染なじんだものだと思っていた。

 しかし、二カ月後に退院し、晴れてピアスを再装着しようとすると、耳の裏側の皮膚がふさがってしまっていた。半分がっかりして、半分嬉しかった。ひしゃげた骨を固め、針穴を埋める。ベッドの上で悶々としている間、肉体が愚直に頑張ってくれていた証拠だから。

 今ならきっと、ふさがらないんだろうな。ぷつっと窪んだピアス穴の名残に触れながら思う。まあ仕方がない。その時ある武器で挑むしかない。お芝居にせよ、小説にせよ。

 できるだけいたわりながらやってみるから、一緒に頑張っておくれ。
 楽しもうね。身体へ。

■■■出演者■■■
黒川博行・朝井まかて・東山彰良・澤田瞳子・一穂ミチ・上田秀人・門井慶喜・木下昌輝・黒川雅子(画家)・小林龍之(講談社)・蝉谷めぐ実・高樹のぶ子・玉岡かおる・百々典孝(紀伊國屋書店)・湊かなえ・矢野隆
今夏、配役決定!


☆お知らせ☆

一穂ミチさんの最新刊『砂嵐に星屑』が幻冬舎文庫より発売中です!是非お近くの書店にて!!


日時:2024年11月16日(土曜日)16時開演
開演:サンケイホールブリーゼ
全席指定 8,000円
[主催・製作]なにげに文士劇2024実行委員会

なにげに文士劇の詳細は上記HPまで!是非チェックしてください♪


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光文社 文芸編集部|kobunsha
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