星月渉『私の死体を探してください。』刊行&ドラマ化記念インタビュー
「WEB小説の世界で15年、応援し続けてくれた読者は家族以上の存在でした」
―まずは小説を書き始めたきっかけを教えてください。
「子どものころから本は好きでしたが、自分で書こうという発想は全くなかったです。結婚して子どもができて、姫路に引っ越して数年後、上の子がこども園に行くようになって、それまで慌ただしかったのにふと時間ができました。当時、ハーレクインロマンスが多く配信されていて、それを携帯で読むようになって気がついたらいっぱい課金をしていたんです。『やばい、ロマンス中毒みたいになっているな』って。それでほかになにかないかな、と探しているうちに、『モバゲータウン(現・エブリスタ)』の小説コーナーにたどり着きました。そこでは普通の人が小説を書いていて、みんな思い思いに自分を表現しているのが面白いと思ったんです。じゃあ、私が小説を書いてもいいのかな、と思ったのがきっかけです」
―最初はどういうものを書かれたんですか?
「ラブコメです。当時ハマっていたハーレクインロマンスをベースにコメディを強めにした、女子3人の恋愛事情みたいな作品でした。私は卒論100枚書くのもいっぱいいっぱいだったので、小説なんて書けるはずないと思っていたんですけど、いきなり原稿用紙換算で350枚くらい書けたんです。それをモバゲータウンにアップしたら、コメントやレビューをいただけるようになりました。反応が返ってくるのが面白くなると同時に義務感も生まれてきたんです」
―その作品は、今もWEB上で読めるんですか?
「『STAGE』というタイトルで、今もエブリスタにあります。これ3部作なんですけど、運営さんのピックアップとか特集に選ばれるようになって一気に読者さんがどっと来たりとか、わりととんとん拍子に進んでいった印象があります。当時は、投稿している著者さんや読者さんと交流するサークル機能というのがあって、その中で『星月さんはミステリーとか向いていると思うから書いてみたら?』と言ってくれた方がいて」
―それでラブコメ以外のものを書こうと……。
「ミステリーもいろいろなものを読んではきましたけど、ミステリーに特化した読者ではなかったので迷いました。ミステリーって特別な知識が必要な気がしましたし、ミステリーファンの目も厳しそうだったので。でも違うものは書いてみたかったので、ホラーでランキング1番を目指してみようと思って『ロンギング』という作品を書き始めました。でも、途中で家庭の事情でバタバタして連載を続けられなくなってしまったんです。1年近く止まっていたかもしれません。でも、その間、毎日誰かしら読者さんがスターを押してくれてたんです。エブリスタではスターという機能があって、1日1回その作品にnoteでいうところの『スキ』みたいなのを押せるんです。これだけしてもらってるんだから、なんとか完結はさせようと思って、事情が落ち着いたころに連載を再開したら、スターを押してくれていた方の一人から長文の好意的なレビューをいただいて、『あ、私書かなきゃダメなんだな』って思えたんです」
―待ってくれている読者がいるっていうのが原動力になった。
「そうですね。その存在がなければ断念してしまっていたかもしれません。で、なんとか完結できて、また書ける環境が整ったので、今度は書籍化を目指してみたいと考えるようになりました。作家仲間の噂話では『今ご当地ミステリーとか、ご当地もののキャラクター小説が求められている』という説があって、姫路を舞台に和風ファンタジーを姫路城も絡めて書いてみました。そうしたら1章を書いたところでスカイハイ文庫の編集者さんからお声がけいただいて、『三毛猫カフェ トリコロール』は初めて本になったんです。先ほど、書籍化を狙うみたいな話をしましたが、具体的な策があったわけではなくて、書き続けているうちにランキングが上がって誰かに見つけてもらえればいいなという安易な発想で。新作セレクションという枠に入ればトップページにバナーを打ってもらえる。そこに入ろうと思ったら、月のこのあたりにたぶん選考があるだろうから、ここまでに結構な量を書いて掲載しておけば選ばれる確率は上がるんじゃないか、とかそういう予想を立てるのが好きなんです。もちろん、本当のところはわからないんですが、『三毛猫カフェ トリコロール』は最初の50ページくらいで新作セレクションに入れたので、読者さんも増えましたし、編集さんにも見つけてもらえたと思います」
―WEB連載のときは、書いたところからどんどんアップしていくのでしょうか?
「当時は、1ページあたり原稿用紙1枚分くらいのボリュームが画面上で見やすくて、私は1日あたり2枚書くようにしていました。でも、仲のいいランカーの方に『1日3枚書かなきゃダメ』って言われて、1位を取りたかった作品は3枚書いて実際に1位になれました。みんないろいろ攻略法を考えたり、協力したりしてやっていましたね」
新人賞への挑戦とリサイクル
―星月さんにとってはWEB投稿が主戦場だったと思いますが、出版社の新人賞などには応募されなかったんですか?
「R―18文学賞の歴代の選考委員の先生方の作品や受賞作が好きで、原稿用紙50枚までという気軽さもあって、R―18文学賞にはなるべく応募していましたが、1次選考を2回通過したくらいでした。長編はまったく応募していなかったんです。でも、あるときにダメ元で横溝正史賞に出してみました。すると、長編を応募するのはそれが初めてだったのに、いきなり一次選考を通過したんです。それで思ってたよりも長編小説の新人賞の壁は厚くないのかな? と思って、それからは新作を書いたら公募の新人賞に1回出してみて、ダメだったらWEBにアップしたりもするようになりました。じつは『私の死体を探してください。』も某賞の落選作です」
―そうだったんですね!
「そうです。見事に1次で落ちてて。でも、読み返して『面白いんだけどなぁ』と迷ってるときに、noteの創作大賞というものがあることを知って。それまでほとんど使っていなかったnoteのアカウントを育てる意味で1作小説をアップするのもいいかなとXで迷っていることをつぶやいたら、noteの運営さんが長編小説の投稿方法を直接リプライでくださって、『じゃあやってみます』と翌週くらいに連載を始めて」
―noteとの付き合いもそこからスタートだったんですね。それでいきなり創作大賞、しかもW受賞となるわけですが。
「最初にnoteから受賞の連絡がメールで来たんです。グーグルフォームから必要情報を記入してほしいと書いてあるんですが、個人情報だし、これって出版詐欺じゃないよね? というのがまず……。他の受賞者の方々と話したときに、みなさんも同じようなことをおっしゃっていました(笑)。でも、光文社さんから選んでいただいたと聞いたときは驚きました。光文社さんはすごい名探偵を求めている感じだったので、絶対にないなと思っていたので」
―その後、テレビ東京映像化賞も受賞します。
「今すごい大きいの持ってるけど、もう1個載せられたみたいな感じでした。ほんとうに、いいのかな? って」
―どちらのほうが驚きました?
「どっちも驚いたんですが、やはりテレビ東京さんの方ですかね。映像化向きの作品ではないだろうと思っていたので」
―展開が早くて、次が気になる感じが連ドラとして向いていると思われたんじゃないですか。シーンとして足りない部分は後から足すことを考えればいいという判断で。
「そうですね。実際に後に脚本を見せていただいて打ち合わせにも参加させてもらえたんですが、やはり映像のプロの方たちはすごいと感動しました。特に脚本家の入江(信吾)さんが原作のキモはきっちり踏まえたうえで、映像的に映えるシーンをあらたに作ってくださって。脚本を読んでるだけでワクワクしました」
最初は登場人物の設定から
―『私の死体を探してください。』はどういうところから始まった企画だったんですか?
「最初の着想は今のトレンドでもあるサレ妻リベンジみたいなものだったんです。でも、私自身が温かいところと冷たいところの落差の激しい人間だと思うところがあって、もし自分のパートナーがそういうことをしたら、たぶん面倒くさいことはほったらかして家出するだろうな、それでなるべく早く離婚するだろうなって思ったんです。そうするとドラマにもなんにもなりゃしない、ってなってしまって。ドラマにするためには別れられない状況を作るしかない、別れられない状況ってなんだろう? といろいろ考えているうちに、麻美という複雑な人物のイメージが出てきて、それを中心に登場人物表を作り始めて」
―いつも、キャラクターから考え始めるんですか?
「そうですね。主要登場人物がだいたい6人いれば長編1冊分くらいはいけるので、5~6人をどう配置するか、彼らの背景を考えていくのが結構大事だったりします」
―物語のプロットは後回しなんですか?
「登場人物のイメージができてから、それらがどのように絡むと面白いかを考えてプロットをつくります。ある程度の頂点みたいなところから始めた方が面白くなるという意識があって、今作では、『もう死んでます』っていきなり言われたら『え?』ってなるかなと思ってそこから始めました。最初のブログを全文書いて、『私の死体を探してください。』って3回書いたときに、これがタイトルでいいやって思いました」
―まず、タイトルありきじゃなかったんですね。
「どっちが先かは厳密には覚えてないんですが、あのフレーズを3回書いた瞬間に迷いがなくなったというか、これだなと確信したというか」
―今作では麻美の夫・正隆のクズっぷりが面白くて魅力的だと感じましたが、モデルにしたような人はいるんですか?
「WEB小説を書いていると、昔からどうしても一定の批判を見かける機会が多いんです。昔だと『携帯小説(笑)』とか『スイーツ』とか、文学かぶれの男性がやってきて、あーだこーだと人気のある作品にコメントを残していくんですよね。今だって定期的に、なろう系のテンプレがどうのって言う人がいるじゃないですか。だったらあなたはなろう系のテンプレを必要としないところでご活躍なさればいいんじゃないですか? 私はなろうの小説も大好きですよ、って言いたいのをずっと我慢してる感じ。人の作品にああだこうだ言う暇があるなら一行でもいいから自分の作品を書けばいいのにといつも思っていました。それに人が楽しんでいることとか集まっているところに水をかけていく人が許せなくって、ずっと観察していた部分はありましたね。観察していた人たちのイメージを入れ込んだ人物になったと思います」
―おかげで魂が入ったキャラクターになりましたね。そういう人物を書いている時、腹が立ってこないんですか?
「逆に楽しいんですよ。見てろよ、お前、こうしてやるからなって楽しんで書いています。読んだ人がイライラするだろうなっていう極限まで書くぞって」
人間に対する好奇心が強いんです
―小説を書く上でいちばん大切にしていることはなんですか?
「リーダビリティがいちばん大事だと思っています。私たちは昔から本が好きで読んでいるので、読まない人がいるということに対して想像力が足りてないんじゃないかって思うことがあって。紙の小説は読まないけど、WEB小説だけは読むという方もいらっしゃるので、つっかえないで読める、読みやすさには気をつけたいと思っています」
―最近の星月さんの作品は人間の醜い部分にスポットを当てたような作品が多い印象ですが。
「たぶん、人間に対する好奇心が強くて、人間に対する怖れが強いんだと思います。自分の中にもけっこう残酷なところとか冷たいところってあるんじゃないかなとも思いますし、だから単に残酷な人を書きたいんじゃなくて、そこに行きつくまでの道のりを書きたいんです。私にとってはいい話を書くのも、えぐい話を書くのも、人間に対する好奇心の距離感は同じくらいなんです。酷いことが起きたとき、じゃあなんでそうなってしまったんだろう? ってことが気になってしまって、事件のノンフィクションなども読むのは好きですね」
―今後の目標などはありますか?
「できたらご依頼をいただいて原稿を書くというスタイルが理想ではありますが、とにかくどんな形であれ書くということを続けていきたいです。待ってくれる人がいる限りは、商業でもそうでなくても1年に1冊くらいは作品を発表したいですね。読者さんってすごいなって思うのが、家族や親兄弟でも私の作品をここまで追いかけてくれません。それがいつもありがたくて、ほんとうにうれしいんです」
『私の死体を探してください。』 税込み1,760円
ベストセラー作家・森林麻美がブログで自死をほのめかし「私の死体を探してください。」という文章を残して消息を絶つ。担当編集者の池上は新作原稿と人気シリーズのプロットを手に入れるため麻美を探すが、その後も麻美のブログの更新は続き、さまざまな秘密が次々に暴露されていく。ブログの内容に翻弄されていく関係者たち。果たして麻美の目的は? そして麻美は本当に死んでいるのか?
星月 渉(ほしづき・わたる)
岡山県津山市出身。兵庫県姫路市在住。
2017年、『三毛猫カフェ トリコロール』で作家デビュー。2019年、『ヴンダーカンマー』で第1回エブリスタ×竹書房最恐小説大賞を受賞。2023年、『私の死体を探してください。』でnote主催の創作大賞2023光文社文芸編集部賞とテレビ東京映像化賞をW受賞した。
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