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なにげに文士劇2024旗揚げ記念連載〈最終回〉【澤田瞳子】

旗揚げ公演を終えて

文:澤田瞳子

「なにげに文士劇」公演は11月16日に大盛況にて終了!
澤田瞳子さんに最終回のエッセイをいただきました。
是非お楽しみください!

 終わってしまった。

 ひと月前になにげに文士劇旗揚げ公演を終え、そう噛み締めている。程度こそあれ、似た感情は出演者十六人全員に共通ではなかろうか。

 十一月十六日土曜、大阪・サンケイホールブリーゼ。たった一回の公演の幕が降りた瞬間の出演者のテンションはすごかった。誰もが隣の仲間と握手を交わし、抱きあう。舞台の間じゅう、黒子姿で出演者に寄り添い、セリフを間違えると台本片手にダッシュしてくれた脚本・演出の村角太洋むらすみたいようさんが、そんな我々にあっけに取られていらした。

 彼ら演劇のプロからすれば、舞台は日常だ。だが我々には、人生でたった一回の文士劇旗揚げ公演。日々孤独に執筆する作家が、毎日、ただ一度の舞台のために集まり、「また明日」と言い合って別れる。そんな濃密な日々の果てに公演をやり遂げたとの事実は、異質かつ強烈な体験だった。
 
 あれから一か月を経てもなお、「再演はないんですか」「次はいつですか」とお尋ねいただく。九州在住の出演者たちは「なにげ会」なる集まりを結成したそうだ。実行委員としては多くのお客様と出演者にお楽しみいただけただけで大成功だ。

 ただ、実はもう一つ。公演の際は同志社女子中学・高等学校アーチェリー部にアーチェリー指導を受け、御礼に生徒さんをゲネプロにお招きした。後日、そのお礼に村角さん・演出補佐の入江拓郎いりえたくろうさんとうかがうと、コーチが「舞台を拝見した生徒たちが、皆さんの小説を読み始めています。もちろん『放課後』も」とお教えくださった。

 読者とリアルな空間を共有し、読書に親しんでもらう。そんな文士劇の目標が確かに結実したと知らされ、胸が熱くなった。

「出演者はこれにて、文士に戻れー!」

 公演後の打ち上げで、朝井まかてさんはそう号令した。我々は作家であればこそ文士劇ができる。だから一抹の寂しさを抱えつつ、舞台の思い出を胸にそれぞれの作品に淡々と向き合う。その日々はいつかまた、次の文士劇につながるかもしれない。


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出演者やあらすじなど、公演の詳細は下記HPから!


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光文社 文芸編集部|kobunsha
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