ベトナムからの技能実習生の入国者数減少の分析
1 ベトナムからの技能実習生の入国者数の減少
2024年10月18日に、2024年6月末の在留外国人数及び2024年上半期の外国人入国者数が公表されました。
2024年6月末の在留外国人数
https://www.moj.go.jp/isa/publications/press/13_00047.html
2024年上半期の外国人入国者数
https://www.moj.go.jp/isa/publications/press/13_00049.html
この公表資料を見ると、2024年上半期の在留資格「技能実習」(※1)での入国者数が、2023年上半期と比較して、約1万人減少しています。そして、その内訳を見ると、約9,000人がベトナムからの技能実習での入国者の減少です。
今回は、この統計から見えてくる「ベトナムからの技能実習生の入国者数の減少」について考えてみたいと思います。
最近、制度関係者から「ベトナムでの採用が非常に難しくなった」、「以前より優秀者層の割合が減少しているように感じる」といったお話しを聞くことが増えたように感じます。
この原因はどこにあるのでしょうか。
そして、これからもベトナムは日本にとっての最大の送出国でありつづけてくれるのでしょうか。
2 在留資格「技能実習」での入国者数の減少
2024年上半期の在留資格「技能実習」での入国者数は「76,779人」となりました。この人数は、2023年上半期の同在留資格での入国者数である「88,008人」と比較すると11,229人の減少です。
技能実習1号から3号について、2023年上半期と2024年上半期を比較すると次の表となります。
減少の原因は、技能実習1号ロ及び3号ロの減少であり、新規の団体監理型の技能実習及び過去に2号実習まで行った方の再度の技能実習が減少していることが窺えます。
続いて出身国別についても見てみます。
減少者数の11,209人のうち、9,007人がベトナムを出身とする方であり、ベトナムからの技能実習での入国者の減少が、在留資格「技能実習」の入国者数減の主要な要因であることは間違いありません。
では、ベトナムからの入国について、他の在留資格でも同様の傾向なのかについても見てみたいと思います。
技能実習以外の「留学」、「技術・人文知識・国際業務」、「特定技能」及び「家族滞在」は増加しており、「ベトナムの日本離れ」というより「ベトナムにおける技能実習離れ」または「日本の技能実習におけるベトナム離れ」のどちらかが原因にあるのではと思えます。ただ、このことをもって「権利侵害がある技能実習を避けている」と結論付けるのは早計です。
原因は別の市場メカニズムにあると思われます。
3 ベトナムからの技能実習生減少のメカニズム
では、どういったメカニズムでベトナムからの技能実習生の減少が生じているのでしょうか。
まず前提として、日本に向けた国際労働市場においては、日本における技能労働者の年間の採用数が約22~23万人である一方で、主要な送出国において自国以外で働く人の人数は約370万人であり、「働きたい人」>「働くことができる仕事」という関係にあります(※2)。
だからこそ、「仕事」を得るためにお金を払う「手数料」という現象が生じます。
2023年の日本への入国者数が多い出身国のうち、いわゆる送出国であるベトナム、インドネシア、ネパール、フィリピン、ミャンマー、タイ、スリランカ及びインドについて、2017年から2019年における、これらの国が日本以外を含めて送り出した労働者の数は、次のとおとなります。
概ね300万人から370万人の「働きたい人」がいることがわかります。
他方で、技能労働者を積極的に受け入れている日本、韓国、台湾、オーストラリアの受入れの規模は、当然、この「働きたい人」の全員を受け入れられる規模ではありません。
そのため、全体的な国際労働市場としては「働きたい人」>「仕事」なのですが、この構造が局地的に現在のベトナムでは「仕事」>「働きたい人」となっていると思われます。
上記は、各統計から弊社(GHRS)でまとめたベトナムの労働者としての送出数です。コロナ前も含めてベトナムにおける送出数の上限は約15万人であることが理解できます。
そして、そのうち日本に向けて移動する方は最大で8万人です。
他方で、現在の日本における技能実習及び特定技能での年間の受入れは約22~23万人であり、半数がベトナムであることを考えると、求人についても半分である約11~11.5万人がベトナムに向けた求人となっていると思われます。
すると、ベトナムから日本に送り出すことができるのが8万人に対して、ベトナムに向かっている求人数が11~11.5万人であるという局地的な求人過多が生じているというのが、現時点でのベトナムにおける状況だと思います。
この状態ですと、候補者は仕事が厳しい農業や建設分野の面接を見送り、飲食料品製造分野における面接を待つ、特定技能1号の試験合格を目指すといった現象が生じます。
これが、本来、「働きたい人」>「働くことができる仕事」というマーケット特性がある国際労働市場にもかかわらず、「ベトナムでの採用困難」という現象が生じている原因だと思います。
そして、この状態では面接不調や、これまで事前面接等で不合格とされていた方が、受入企業が行う本番の面接や内定に進むといった現象が生じますし、面接を受けるだけでお金をもらえるといった「見せ面接」用のリクルートが行われたりして辞退率が高くなる等、歪みが生じます。
これが「ベトナムでの採用が非常に難しくなった」、「以前より優秀者層の割合が減少しているように感じる」という意見が出てきている原因だと思います。
4 今後の技能実習と国際労働市場について
ベトナムについては現時点で日本に向けて送り出すことができる人数の上限に達したと考えるべきだと思います。そのため、ベトナムでの送出機関のリクルート力の向上か、就業希望者全体のうちベトナム国外で働くことを希望する人の割合が増加しない限り、ベトナムでの採用を続けるのは、既に優良かつ有力な送出機関とのコリドーを形成している監理団体以外、難しい状態が続くと思います。
他方で、送り出すことができる上限数に達している状態であり、日本離れという減少が生じているわけではないと思われるため、年間6万人~7万人は安定的に採用ができる状態は継続すると思います。
問題は、年間約22~23万人ある日本側の求人ニーズをどうするかです。今後もベトナムは6万人前後を送り出してくれると仮定しても、16~17万人については別の国から来て頂く必要があります。
一国に求人が集中した場合、ベトナムと同じ当該国において「仕事」>「働きたい人」という現象が生じてしまう可能性があるため、複数国からの受入れを行うべきなのだと思います。
その際の候補国としては、インドネシア、フィリピン、ネパール、ミャンマー、インドが挙がるでしょう。
これらの国からの受け入れコリドーを構築することが、今後、監理団体や職業紹介事業者兼登録支援機関としては重要です。
他方で、通訳の確保も可能な規模の大きな監理団体等であれば受入国を増やすことは可能ですが、そうではない場合、どうしてもベトナムに“拘る”必要が出てきます。
その場合は、ベトナムでもリクルート力があり、健全に事業を行っている送出機関といかに関係を強化できるかが重要になります。そして、この関係強化は、候補者にとって魅力的な求人、すなわち「良い求人」をいかに確保することができるかが重要です。
さて、今回検討することができていない、「どの国が有望なのか」ですが、これはそれぞれの送出国の出国者数や高校進学率を含めて検討する必要があり、別の機会に研究ノートとして綴ることができればと思います。
それでは、次回の研究ノートでお目にかかれますと幸いです。
※1 技能実習1号イ・ロ、技能実習2号イ・ロ、技能実習3号イ・ロを含みます。
※2 動画で解説しているので、もしよろしければ動画もご覧ください。
URL:https://youtu.be/fVsXzfvKOvI?si=cSKxfE0rqoHQFefR