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【書評】黙っていれば叩かれない。「埋もれていたい」がZ世代の本音

「先生、どうか皆の前でほめないで下さい」

お久しぶりです!あおぎりです。

今回は金間大介さんの『先生、どうか皆の前でほめないで下さい』を紹介します。

この本はひとことで言えば
「若者の心理と世代的特徴を、研究者の立場から面白おかしく紹介した本」
「若者が乗り越えるべき人生の課題を、説教臭くなくファクトフルネス的に暴き出した本」

といえるでしょう。

語り口が面白くてスラスラ読めてしまうのですが、若者の価値観に関する調査結果や鋭い分析には衝撃を受けました。(かくいう自分も若者の一人ですが)

※目次

先生、どうか皆の前でほめないで下さい―いい子症候群の若者たち | amazon

「いい子症候群」とは

「いい子症候群」とは、著者の金間先生が今どきの大学生を形容するのに使った造語です。最近の若い人たちには、こんな特徴があるというのです。

  • 協調性がある

  • 人当たりがいい

  • 平等・横並びを好む

  • 中間の立ち位置を好む

  • 言われたことはやるが、それ以上はやらない

  • 人の意見をよく聞くが、自分の意見は言わない

  • 悪い報告はギリギリまでしない

  • 質問しない

  • ルールには従う

  • 先輩や後輩などのタテのつながりを恐れる

  • 目立つことを怖れる

  • グループ全体への問いかけには反応しない。匿名なら言える

  • リーダーになるのを避ける

  • 競争を避ける

  • やりたいことがない

そしてこれらの根本には、以下の原因があるそうです。

  • 自信がない

  • 自己肯定感が低い

  • 自己評価が低い

いったい、なぜなのでしょうか?
書籍の内容をまとめると、以下の3つの経験が足りていないことが原因なのではないかという気がしました。

「いい子」に不足している経験

若者世代が育った環境に不足しがちだった経験が、大きく3つあると僕は思います。どの世代にも傾向があるので、差異そのものを批難するわけではありませんが、若者が持続可能な社会に参加するためには、乗り越えるべき精神的障害があると思うのです。

リスクを取る経験

まず一つ目に、若者には自分の責任でリスクを取ってきた経験が不足しています。つまり、失敗の責任を受け入れる前提で何かに挑戦することです。

この理由としては、世の中が便利になり、失敗を経験しなくても生きられるようになったことが大きいと思います。

例えば、買い物。何を買うときでも、今はスマホ一つで他者の評価やレビューをチェックし、失敗のないように選べます。
レストランを探すときも同じです。SNSで複数の選択肢を検討し、入念に調べれば、入店してから予想を裏切られるようなことはまずありません。

一昔前であれば、選べる商品の種類もその情報も限られていました。ある程度下調べをしたら、あとは「エイヤ!」で決めて、自分の目で確かめてみるしかなかったのです。

当然、最新型のテレビが近くの家電屋さんでは売っていなかったり、苦労して選んだホテルが期待外れのサービスであったり、といったことも当たり前にあったでしょう。

20年前の人々は、そういった「選択の失敗」と折り合いをつけて、楽しむ方法を見つけて生きていたと思います。それに対して、2000年代以降の便利な世の中で生きる人々は、ほとんどの場面で失敗する必要がありません。

だから、失敗を受け入れることに慣れていない。
例えそれが愚策であると分かっていても、「損するのが怖い」ためにリスクのある判断ができない若者が多いのです。

孤独を過ごす経験

若い世代には、孤独な状況を我慢することにも慣れていないといえるでしょう。孤独といってもいわゆる「引きこもり」のような深刻な問題について語るわけではありません。一人で何かをするだけで、周りの目が気になってしまうのです。

若者世代にとって周りの目が気になる原因は、SNSが大きいでしょう。日常的に、リアルタイムで情報を交換しあっている若者にとって、目立つことはそれ自体リスクのある行動です。

「あの人は失敗した」「あの人とあの人は仲がいい」「あの人は人気者だ」目立つ行動をとると、有象無象のやりとりが一瞬にして、それも見えないところで広がります。それは容易に想像がつきます。
というか、Z世代にとってはそれが当たり前なので意識すらしていないことが多い。

だから、「先生、どうか皆の前でほめないで下さい」ということになる。例えそれが社会的に良い評価であったとしても、自分だけが注目を浴びる状態は不安でしかないのです。

SNSでつながるようになってから、私たちの多くは、常に社会の目を気にする必要が出てきました。たった一言の失言で炎上が起こったり、成功を妬まれ誹謗中傷されたり…そんな出来事を生まれた時から目の当たりにしている若者が、現実世界でも「集団に埋もれるほうが安全」と考えるのは自然な流れです。

かくして、集団から離れて一人で何かの行動を起こしたり、打ち込んだりすることが苦手な若者が多くなってきています

自分から提案ができない、皆の前で質問に答えられない、自己紹介が苦手、といった若者によくいわれる特徴は、これで説明できます。

有能感を抱く経験

3つ目に、若者には有能感を抱く体験が不足しています。「自分は能力のある人物だ」と実感する経験が足りていないのです。これは前述の「リスクの経験」「孤独の経験」の原因であると同時に、結果ともいえます。

この原因としては、「少子化」や「学校教育」が深くかかわっているでしょう。

本書で紹介されていたことですが、少子化により世代の人口が少なくなったため、受験にしても就職にしても、競争意識が弱くなったようです。また、ゆとり教育をきっかけとして、「競争心よりも協調性を重んじる教育」が重視されるようになってきました。

協調性よりも競争心を煽ることがよいという意味ではありません。「誰かに命令やお願いをされたことではなく、純粋に自分の欲求のために何かを頑張り、それを達成した」経験が不足することが問題なのです。

「誰かにお願いされてから、それに応じる」といった消極的な取り組み方だと有能感は得にくい。精神的に自立するには、自分の「やりたいこと」で行動を起こす必要があるのです。
著者の言葉にもこうあります。

頼まれたらやる自分を知っているから「自分は人より優しい」という自己評価になる。本当の優しさとはそういうことではないのだが。

先生、どうか皆の前でほめないで下さい―いい子症候群の若者たち

「いい子」ではダメなのか?

「いい子症候群」の何が問題なのか。

それは充実感が得にくくなることです。学生に多いと著者がいう「安定志向」「やりたいことがない」「自信がない」生き方を突き詰めてみると、最後には人生全体が暇つぶしのような時間になってしまうのではないでしょうか?

もちろん、協調性を重視した穏やかな人生を選ぶのも自分の自由です。ですが、自分の信念や目標があり、リスクへの恐怖や周囲の目からの不安よりも努力を優先でき、そして自分の能力への自信を育てて大きくしていくような生き方のほうが豊かだと僕は思います

現在24歳の私にとっては、この本を読んだとき、自分自身の心の中身と未熟さをズバリと言い当てられた気持ちになりました。
そして、この本では各種の調査結果をもとに「それはあなただけでなく近い世代の皆が抱えている適応の問題だから向き合って改善しなさい」と、言ってもらえたような気がするのです。

「いい子症候群」脱出のために取れる具体的な行動を、本の中に挙げられていたものから2つ紹介します。

1つ目に、質問に挑戦すること

「人前で質問する」行為は、小さなリスクから始められる挑戦です。

「いい子症候群」の若者にとって、質疑応答で手を上げるのはハードルが高いと思います。
だからこそ「他人から逸脱し」「自分の能力を感じ」「リスクをとる」よい経験になります。そして自信につながります。
簡単な内容の確認など、小さな質問で十分なのです。挑戦してみましょう。

2つ目に、目的を決めて何かを学んでみる

著者は「目的を持った学習は自分を強くする」と言います。目的を持った学習とは、「報酬のため」や「周りにつられて」といった義務的な理由ではなく「好奇心を満たすため」「頭を鍛えるため」「知識を活かすため」「競争に勝ちたいから」といった理由で勉強すること。
自ら学ぶことを決める。誰かに与えられた学びには「本当の意味で自分のものではない」という感覚が残ってしまいます
それに対し、自分自身の選択で学び、知識を積み上げることで、自己肯定感が高まりやすいのです。

多数派の弱点を克服すれば逸材になれる

「人の話を聞くのが得意です」
「共感力があります」
「よく友人にアドバイスをします」
僕と同じ若者の皆さん、聞き覚えがありませんか?というか、僕も言っていたことがあります・・・。

今まで自分は、行動力のなさや、消極的な性格を「個性」や「特性」として正当化していただけではなかっただろうか?存在しない居場所を求めながら、自分から変わろうとはしない、そんな「多くの若者」になっていたかもしれない。

正直なところ、そんな自戒の念がこみ上げてきました笑

ですが、逆にいえば、自分が24歳の段階でこの本に出会えたことはラッキーだったかもしれません。

その人の能力の価値を決めるのはあくまで「社会」であり「環境」です。

自分の能力がどんな方法で社会に活かせるのか?それを知るためには、自分から社会にアクセスしなければならない。自分の努力で自分の自信を育てて、必要なリスクを取らなければならない。

この本に書かれた若者の群像を反面教師にして、自分にできることから挑戦を始めよう。
そんな、まるで若者らしくない希望を抱いた読後でございました。

それでは、また🔥

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