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アジアとヨーロッパが混ざる街 香港 (イギリス縦断の旅-23)
こんにちは。ゲンキです。
イギリス旅行記第23回は、イギリスのついでに日帰り香港観光してきた編をお届けします。
~旅の概要~
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普段から鉄道に乗って旅をしている僕は、鉄道が生まれた国であるイギリスを巡ることにした。本土最北端の駅「サーソー(Thurso)」から本土最南端の駅「ペンザンス(Penzance)」を目指す、イギリス縦断の鉄道旅。ここまでたくさんの人や風景に出会ってきたが、旅はまだまだ終わらない。今日も何かが僕を待っている。
(2023年3月実施)
13:30 Cathay Pacific Airlines
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ロンドン・ヒースロー空港を現地時間の夕方に飛び立ってから約12時間、一気に8時間分の時差を稼いで昼過ぎのアジアに戻ってきた。眼下には独特な緑色をした海と、貿易を象徴するようなコンテナ船が行き交う様子が見える。もうすぐ世界トップクラスの経済都市・香港に到着だ。
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14:30 香港国際空港
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乗り換え経由地、中国の香港に着いた。
イギリスから日本へ帰るのになぜ香港を経由するのかというと、乗り継ぎを挟んだ方が所要時間が伸びる代わりに運賃が安くなるからである(基本的に同一航空会社の乗り継ぎの場合)。今回利用したキャセイパシフィック航空は香港を拠点にしている航空会社のため、ここで一度上陸を挟むことになった。
さて、今回僕は「イギリス縦断の旅」と称してこれまで各地を巡ってきたが、この香港もかつて150年ほどイギリスの植民地として統治されていた歴史を持つ。そういう意味では、香港もかなりイギリス要素のある街だと言える。アジアとイギリスが混ざり合った大都市、一体どんなものなのか見物してみたい。
実はそれを見越して、あえて約12時間もの乗り継ぎ時間を確保してある。次に乗る飛行機は、日付が変わって午前1時半の出発。この間に入国審査を受ければ、飛行機の待ち時間を利用して「ついで」の香港観光をすることができるというわけだ。もうすぐ日本に帰国すると見せかけて、最後までイギリス旅を引き延ばしていく。
というわけで、今日は日帰りで香港観光をしていきたいと思う。
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まずは空港から市街地へ出たい。その手段として最も早くて便利なのが機場快線(エアポート・エクスプレス)だ。これに乗ればわずか30分足らずで都心へ直行できる。
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券売機を使おうとしたら、現金払いにしか対応していなかった。今回は短時間の観光なので、両替はせずにクレジットカードだけを使っていきたい。すぐ近くの有人カウンターではカードが使えたので、そちらで機場快線の往復券と地下鉄のフリー切符を購入した。
ちなみに機場快線と地下鉄は別料金であり、途中の青衣(ツェンイー)駅からは地下鉄でも都心部に向かうことができる。そのため、地下鉄のフリー切符を使う場合は機場快線に乗る区間を空港〜青衣の一駅間のみに抑えた方がお得になる。
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駅は空港直結でとても便利。数分すると市街地行きの電車がやってきたので、さっそくこれに乗り込んでいく。
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地下トンネルを抜けて地上に出ると、いきなり香港らしい景色が目に飛び込んできた。海と山とタワーマンション。いかにも人口密度が高そうな感じだ。
香港の人口は約740万人。埼玉県とほぼ同じ人口ながら、面積は東京都の半分ほどしかない。しかも土地は傾斜が多く、未開発の山林面積が大半を占める。そのため香港は「人の数に対して圧倒的に土地が足りてない」状態である。その結果どうなるかというと、ものすごい数のタワマンがまるで壁のように林立するのである。
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16:15 宋皇臺駅
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青衣駅から地下鉄を2本ほど乗り継ぎ、九龍半島東部のスンウォントイ駅までやってきた。なんか地下鉄の駅なのに中華料理の匂いが充満している。
この駅から少し歩いたところに、何年も前からぜひ一度訪れたいと思っていた場所がある。まずはそこから香港観光を開始しよう。
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地上に上がると、3月とは思えない蒸し暑い空気がむわっと体を包み込んだ。香港は一年中温暖な気候であり、体感温度は20度ぐらいある。数日前までイギリスで極寒に震えていたのに、今はジャンパーどころか上着も脱いで、長袖を捲ってもまだヒートテックが汗をかかせるぐらいの暑さだ。
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駅から少し歩くと、すぐに「これぞ香港!!!」という感じの街並みが現れた。言葉で説明するならば、「高密度」「高層」「室外機」。ごちゃごちゃ感と言ってもいい。一棟ずつ個性のある建物のデザインや、年季の入ったシミ、歩道沿いに主張するカラフルな漢字の看板も非常に良い味を出している。
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こういう風景の画像をよくネットで集めていたけれど、本物の空間に立つと情報の量が段違いだ。香港の湿度も喧騒も匂いも、スマホの画面からは伝わらなかった。
もう建物同士の切れ目すらわからないほどに一体化した集合住宅。今ここから見えている全ての窓にそれぞれの住人の物語があると思うと、生命の数とパワーが全方位から押し寄せてくるばかりか、建物自体が息をする巨大な怪獣であるかのような迫力にひたすら圧倒される。
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道の突き当たりまで来ると、少し視界が開けて目の前に公園が見えた。この公園こそ、僕が香港で真っ先に来たかった場所だ。
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16:50 九龍寨城公園
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ここは九龍寨城公園(ガオロン・ウォールドシティーパーク)。どこもかしこもギッチギチに詰め込まれがちな香港において、まさに癒しの場と呼べるような緑あふれる都市公園だ。木々の向こうには何千人という人々が暮らす高層マンション、それに比べてここはなんと開放的な場所だろうか。とても静かで居心地が良い。
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……しかしながら、ここにはかつて世界で最も人口密度の高い、「東洋の魔窟」とまで言われた超巨大スラム街が存在していた。
その名前は、九龍城砦。
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香港はその複雑な歴史の中で、何度も政権交代や領地の奪い合いが起こった。そんな状況に揉まれているうち、どの政府の主権も及ばない地域、すなわち無法地帯ができてしまった。そこに難民が流れ込み、スラムが形成され始めた。
1960年代からスラムは無秩序に高層化していく。もちろん全て違法建築。一部屋分の穴さえ埋め尽くすように細長いビルを建てまくり、密着した建物同士の壁をぶち抜いて通路や部屋を作り、スラム全体が絡み合って巨大なコンクリートの迷宮に変貌していった。その結果、世界に類を見ない「カオス」の象徴がここに顕現したのである。
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陸上トラック2.5個分しかない土地に、最盛期には推定約5万人もの人々が住んでいたという。内部には工場や精肉店、病院、理容室、飲食店、学校まで存在し、もはや一つの街と呼べる状態だった。売春や麻薬取引、海賊版販売、賭博などが横行して荒れた時代もあったが、警備が強化されるにつれ治安も改善されていった。
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香港が中国に返還される直前の1994年、九龍城砦は再開発のため取り壊された。それから30年経ち、この場所が世界一の人口密度であった頃の面影はもうどこにも残されていない。鉄の模型と壁画だけが、その存在を静かに語り継いでいる。
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九龍城砦は無くなってしまったが、その人気はいまだに衰えを知らない。
独特の空気感と見た目のインパクトが写真を通して世界中の人々の心を掴み、多くの映画やゲーム、漫画などの元ネタとなっている。最近の例では2022年から連載開始した人気漫画「チェンソーマン(第二部)」においても、舞台となる架空の東京が「治安の不安定さ」の象徴として九龍城砦のような街並みで描かれている。
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あちこち歩き回ってみても、やっぱりここはただの公園。まさかあんなバケモノ建築が存在していたとは思えないほど穏やかで、整然としている。
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公園の周囲の建物からは、今でも往時と似た雰囲気を感じ取ることができる。
もし九龍城砦が目の前にあったらこんな感じなのかな……と想像できるほど、今の香港も日本人からすれば十分カオス。
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九龍城砦や香港の街並みが持つ魅力とは、一体何だろう。
おそらくその一つは「エネルギー」なのではないかと思う。香港の道は隅々まで人に溢れ、様々な店とサービスがその生活を支え、その上階ではまた何百人という人々が暮らしている。日本ではそれぞれの機能が住宅街、商店街、オフィス街などに分担されているが、香港では土地が無さすぎて全てが同じ場所で行われている。いうなれば一つ一つの街角が「凝縮された都市」のような重みのあるエネルギーを放っているのだ。その極みが九龍城砦という形だったのだと思う。
帰宅ラッシュが始まり、夕闇に電飾看板がきらめき、香港の街はますます活気付いている。ここで暮らすのってどんな感じなんだろう……と想像しながら、僕は次の目的地に向かった。
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18:40 尖東駅
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再び地下鉄に乗り、九龍半島先端付近のツィムトン駅に来た。
ここからは世界都市香港、その夜景を見に行きたいと思う。
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そういえば、香港の道路は日本と同じ左側通行である。一方で中国本土は右側通行。これこそ、かつての宗主国であったイギリスの名残り。2階建てバスが走っているのもどことなくイギリスっぽさがある。
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香港都心は大まかに、北側の大陸から突き出す九龍半島と南側の香港島に分かれている。「!」のような配置だとイメージするとわかりやすい。今いるのは九龍半島先端部、ちょうど海を挟んで香港島が眺められるスポットだ。
とりあえず海の方へ歩いてきたが……なんか景色がヤバそう。
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ここ、地球ですよね???
香港と間違えてどっかの宇宙都市に来たのかと思った。香港だった。
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ここが地球で、今はイギリスからの帰りで、ここが香港だということを再認識するのにおよそ1分かかった。何じゃこりゃ!!!???!?!?
僕はいつも割と下調べせずに現地突撃しがち。今回も勘で夜景スポットを探し当てたので事前情報は0。それを抜きにしても、香港がここまでのネオンギラギラ巨大都市だとは想像していなかった。もはや産業革命を起こしたイギリスよりも発展して見える。香港の経済規模恐るべし。
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こちらの九龍半島も負けずに大都会だ。その代表格とも言える建築物が、イギリス統治時代の1928年から営業している高級ホテル「ザ・ペニンシュラ香港」。手前の本館は開業当時からのもので、奥のタワーは1990年代に完成。宿泊料金は大人2人約10万円〜で、ロールスロイスやヘリコプターでの有料送迎サービスもあるらしい。(ヘリコプターでの送迎?????)
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20:50 香港島
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地下鉄で海底トンネルをくぐり、ビジネスの中心地・香港島にやってきた。
さっき展望スポットから見えていた宇宙的ビル群のど真ん中だ。見上げるのが大変なほどの高層ビルがそこら中にバンバン建っている。スケール感狂いそう。
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香港島には「動く名物」がある。香港トラム(路面電車)だ。
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香港トラムの「2階建て路面電車」は世界でもここでしか見られないものであり、単なる市内交通だけでなく観光資源としても大いに活躍している。僕も乗ってみようと思ったが、乗車には現金か交通系ICカード「オクトパスカード」が必要。オクトパスカードを購入するのにも現金が必要。というわけで今回は乗れない。
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ちなみにさっきから何をうろうろしているのかというと、夕食を食べられるお店を探しているのである。もう21時過ぎだし、ご飯を食べたら空港に戻りたい。とはいえここはオフィス街なので、なかなか良い感じの香港っぽい店が見つからない。
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こういう時は表通りではなく細い道を探してみるのが効果的だ。というわけでいくつかの交差点から横道を見ながら歩いてみる。
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すると、一軒の麺料理屋を見つけた。道に出ているメニュー表を見た感じけっこう美味しそうだし、ここで食べることにしよう。
一応クレジットカードが使えることを店員さんに確認してから着席。漢字の読み方がわからないので、良さそうなメニューの写真を指差して注文した。
しばらくしてやってきたのは肉が盛り盛りの麺料理。名称不明。だがとても美味かった。麺はかまぼこのような魚のすり身で、スープはスパイスの香りがする。それが肉にも染み込んでとてもジューシーだった。
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勘定をしようとレジに行ったところ、「カード使えないよ!」と言われた。
さっきは使えるって言ったやん!?と確認しても「カードは使えません」と返される。店員さんが言うには「現金なら大丈夫」とのこと。しかし今は現金すら持ってないことを説明して、一か八か近くのATMにキャッシングしに行った。
が、キャッシングができない。あとで調べたらカードのキャッシング枠が0だった。何度もカードをATMに挿し込むが、その度に吐き出される。ということは、今の僕は実質一文無しだ。
え、もしかしてこれ、無銭飲食??犯罪???
全身に鳥肌が立ち、脳から血液が流れ出ていくような気がした。カードが使えない、現金も持ってない。異国の地で、払う義務だけ抱えて、払う術なし。これ払えなかったら逮捕されるやつやん。香港で。しかしもうどうすることもできない。ここで終わりだ……と観念して、震えながらお店に戻った。
すると、普通にVISAで払えた。
何やねん!!!!!!!!!!!!
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結局、店側の曖昧な対応に振り回されただけだった。何だよあの店!と文句を言う前に、そもそもここが外国だということを忘れてはならない。これは事前に防げたトラブルだ。
この記事を読んでいる皆さんへのアドバイス。外国で飲食・買い物をする時は、
・先に支払い方法を確認しておくこと(念入りに)
・現金を持っておくこと
を強くおすすめする。
僕みたいに食後の絶望を味わうことのないようご注意ください。
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今のお会計騒動で、今日の活動エネルギーを完全に使い果たした。早く安心できる場所へ戻ってゆっくりしたい。
もうめんどくさいことはせず、真っ直ぐに空港へ帰ることにした。
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23:00 香港国際空港
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無事に、というか大事にならずに空港へ帰還することができた。
一旦休もうとベンチに腰掛けたところ、なぜか急に鼻炎を発症。そういえば風邪気味だった。行きでも香港空港で強烈な鼻炎になったが、その時は寝不足だった。鼻炎は免疫力低下のサインのようだ。
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早めに出国審査を済ませて搭乗ゲートの前へ。流石にここまで来るとトラブルの起こりようがなく、久々に安心してのんびりできた。
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1:05 Cathay Pacific Airlines
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1時25分発、CX524便成田行き。
いよいよ日本に帰る時が来た。色々大変な思いもしたけれど、ようやく帰れるのかという安心よりももうすぐ旅が終わってしまう切なさの方が大きい。
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深夜便にもかかわらず、機内はほぼ満席状態。午前2時、飛行機は大勢の乗客を抱えて滑走路を飛び出し、最後のフライトが始まった。
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雲の下から船か何かの光が透けて見える。あのものすごい夜景を思い出すと、本当に宇宙を飛んでいるような感じだ。
香港は不思議な街だった。ところどころにイギリスらしい要素は散らばっているものの、それが中国やアジアの文化と融合して完全に独自の進化を遂げている。香港単体で訪れれば当然日本と比較しただろうが、今回は「イギリスからの帰り」に寄ったからこそ見えたものが沢山あった。しかしまだまだ見られなかったものが大量に残っている。ぜひもう一度訪れて、もっとじっくり回ってみたいと思う。
そして、次に訪れるのは母国・日本の街。2週間の海外一人旅を終えて、一体どんな風に見え方が変化するだろうか。
つづく
【次回予告】
いよいよ次で最終回です。第24回は、日本帰国&旅全体の振り返り編をお届けします。
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それでは今回も最後まで読んでいただきありがとうございました!
最終回もよろしくお願いします!!