夜行列車に乗って最南端の駅へ (イギリス縦断の旅-19)
こんにちは。ゲンキです。
イギリス旅行記第19回は、夜行列車「ナイト・リビエラ・スリーパー」編をお届けします。
~旅の概要~
普段から鉄道に乗って旅をしている僕は、鉄道が生まれた国であるイギリスを巡ることにした。本土最北端の駅「サーソー(Thurso)」から本土最南端の駅「ペンザンス(Penzance)」を目指す、イギリス縦断の鉄道旅。ここまでたくさんの人や風景に出会ってきたが、旅はまだまだ終わらない。今日も何かが僕を待っている。
(2023年3月実施)
19:00 LNER (London North Eastern Railway)
ヨークからノンストップでロンドンへ向かう高速列車に乗車中。車内は満員で、だんだん暗さが深くなる夕闇の中をひたすら走り抜けていく。
車窓も楽しめなかったので車内をスケッチしていたが、斜め向かいのおじさんが僕の方の虚空をずっと見つめていたので気づかれないように描くのが大変だった。
20:00 London King's Cross Station
終点のキングスクロス駅に到着。やっぱり人が多い。5日前にロンドンを出発して以来、久しぶりにこの大都会へ戻ってきた。
しかし今夜は首都ロンドンも素通りするだけの途中駅に過ぎない。僕はこれから夜行列車に乗り込み、イギリス最南端の終点駅「ペンザンス」を目指す。最北端の始発駅「サーソー」からの長い鉄道旅もいよいよ終盤だ。
そういえば、キングスクロス駅にはぜひ見ておきたいものがあった。
小説・映画「ハリーポッター」シリーズにおいて、主人公ハリーたちがホグワーツ行きの特別列車に乗り込んだのはこのキングスクロス駅であるとされている。一見何の変哲もないホームの柱に突っ込み、魔法で隠された「9と3/4番線」に移動するシーンはあまりにも有名だ。ここには、その9と3/4番線を模した撮影スポットがあるという。
さっそく人だかりを発見。ここがその撮影スポットだ!!
…………………え?
無いやん。
ホームの看板はあるし、確かにここだ。本来ならここに「壁に半分埋まった荷物カート」のモニュメントがあるはずなんだけど。無い。何も無い。
たぶん今日は修理か何かであいにく取り外されているのだろう。それでも続々と集まってくる観光客は、仕方なく(楽しそうに)壁に向かってダッシュしては跳ね返されて床にひっくり返っている。その様子を連れが写真に収める。何だこれ。
20:40 London Paddington Station
地下鉄に乗ってロンドン西部に位置する大ターミナル、パディントン駅にやってきた。観光客にとってはヒースロー空港へ15分で行ける「ヒースローエクスプレス」や、ウェールズの首都カーディフへ向かう際の出発駅として馴染み深い。
21時過ぎ。先行列車が出発して数分後、新型電車ばかりの駅に古めかしい機関車と客車の編成がゆっくりと入線してきた。この列車が、イギリス縦断鉄道旅の最終ランナーとなる夜行列車「ナイト・リビエラ・スリーパー」である。
ナイト・リビエラ・スリーパー(Night Riviera Sleeper)は1983年に運行を開始した、ロンドン・パディントン駅とイングランド南西部コーンウォール地方を約8時間かけて結ぶ列車。土曜日以外の毎日1往復ずつ運転されている。運行会社はイギリス南西部に路線を展開する由緒あるブランド「グレートウェスタン鉄道(GWR)」。
ちなみに今回の旅ではイギリスの鉄道が乗り放題になる「ブリットレイルパス」を使用しているが、このナイト・リビエラだけはチケットを単体で購入している。というのも海外からナイト・リビエラの個室料金のみを購入することはできないらしく、運賃と個室料金が一体となった形で予約せざるをえなかった(約2万円)。まあせっかくの機会だからこのぐらいの出費は受け入れよう。
出発時刻は23時50分。今は21時過ぎなので、列車に乗れるようになるまでしばらく待つ必要がある。その代わり、寝台個室の利用者は駅のホームにある待ち合いラウンジを無料で利用することができるらしい。というわけで行ってみよう。
中は清潔感のある寛ぎスペース。コーヒーマシンやお菓子、フルーツなども置かれており、これらは全て無料で頂けるらしい。2万円の個室利用とだけあってサービスが手厚く素晴らしい。
しかもこのラウンジにはシャワーが設置されており、これももちろん無料。夜通しの移動だと風呂に入れないことも多いので、ありがたく使わせてもらった。
夕食がまだだったので売店でサンドイッチを買ってきた。オレンジジュースを傍らに、ラウンジでちょっと贅沢気分の軽食を摂る。
22時半。ホームに出ると列車のドアが開けられており、いよいよ乗車可能となったようだ。それでは早速乗り込もう。
車両の片側に個室が並び、通路は限界までスペースが削られてかなり幅が狭い。壁にバックパックをこすりながら、切符と個室番号を照らし合わせていく。
そして自分の個室を見つけ、ドアを開けた。
足を一歩踏み込めば、そこは僕だけのプライベートスペース。落ち着いた雰囲気の内装を暖色のライトが柔らかく照らし出す。カーペットの床には塵一つなく、布団もピッシリとセットされている。
大物芸能人や大企業の社長たち御用達のグリーン車よりも、僕が今夜お世話になるこの部屋の方が遥かに高級だと思う。なんせ誰のことも気にせず横になって寝られるのだから。
少しするとクルーの陽気なおじさんがやってきて、予約情報の確認と部屋の説明、そして明日の朝食の注文を受け付けてくれた。朝食代は個室料金に含まれているため、特に追加で支払う必要はないそうだ。
部屋に荷物を置いたあと、編成の中間あたりに連結されているラウンジカーを見に行ってみた。
革張りのシートが向かい合う形で配置され、各スペースにはピザパーティーができそうなほどの大きなテーブルが付いている。また4人ほどが並んで掛けられるソファ席もある。さらに車両の端には売店もあり、ここで軽食やドリンクやお酒が売られている。他の乗客たちはそのまわりで談笑しながら晩酌を楽しんでいた。個室という独り占めの贅沢に加えて、こういった開放的な共有空間の快適さも味合うことができる。これも夜行列車の醍醐味の一つだ。
僕はとりあえずコーラを一缶買って、それを飲みながら未完成のスケッチを仕上げることにした。しばらく絵を描いていると、通りかかったクルーのお兄さんが「うわっ、君めちゃくちゃ絵上手いな!!インスタ交換しようぜ!」と話しかけてくれた。カレドニアン・スリーパーの時もそうだったが、イギリスの鉄道クルーたちは良い意味でフレンドリー。一人旅でも話し相手ができて楽しい。
23:50 Night Riviera Sleeper
日付が変わる直前、列車は静かに動き出した。客車は機関車に引っ張られるだけなので不快な振動も騒音もなく、実に穏やかに加速していく。ロンドンの街は既におやすみモードに入っていて、窓ガラスに見えるのはいくつかの街明かりと自分が今乗っている車内の様子だけだった。
ようやく列車が走り始めて鉄道の旅っぽくなってきたところだが、揺れにつられてだんだんと眠くなってきた。このラウンジカーも人は少なく、遠くの方で数人の喋る声だけが聞こえる。できればここでまたスケッチを一枚描きたかったが、今回は眠気の方が勝ってしまった。素直に立ち上がって部屋へ戻る。
もともとダーク調の内装なので、照明を落とし気味にすると非常に眠気を誘われる。ここまで良い感じに睡眠を演出されると、もう眠らざるをえない。
いくつかの駅で乗客を拾いつつ、列車は西へ向かって淡々と走る。あとは列車のスピードに任せて、揺られながら布団を被って目を閉じた。
翌朝7時。目が覚めると、もう既にロンドンから250km以上離れた場所を走っていた。終点ペンザンスにはあと1時間ほどで到着する。寝ているうちに運ばれるから、そこそこの長距離を移動した実感がない。夜行列車にはいつも距離感を狂わされる。
「トントトトントントン」と、なんか雪だるま作りたそうなリズムでドアをノックされた。扉を開けると、昨晩のおじさんが「Good Morning〜」と朝食のプレートを持ってきてくれた。
今回選んだのはベーコンロールとコーヒー。他にも色々あったが、カレドニアン・スリーパーでは見知らぬ料理名を頼んだ結果微妙なヤツが出てきたので今回は無難なのにした。ベーコンロールはふっくらしていて美味しかった。
朝食を食べた後は荷物を片付けつつのんびりしていた。窓の向こうに海が見えてきて「お、もうすぐ着くのかな」と思っていたら、その1分後ぐらいにゆっくりと駅に停まった。その駅が終点のペンザンス駅だった。
時計を見てなかったのでもう少し時間があると勘違いしていた。ある程度片付けたが、まだ列車を降りられる状態ではない。「え!?もう着いたんかい!?」とドタバタしながら荷物を詰め込んで、到着数分後になんとか列車から飛び降りた。
7:54 Penzance Station
最後は慌ただしくなってしまったが、ナイト・リビエラの終点かつイギリス最南端の鉄道駅「ペンザンス」に到着。これにて、イギリス最北端の鉄道駅「サーソー(Thurso)」からのイギリス縦断鉄道旅を無事達成することができた。ほんの数日とはいえ長かったような、短かったような道のりだった。
「もっと乗っていたかった」というのが正直なところだが、ナイト・リビエラのおかげでちゃんと7時間睡眠できた上に美味しい朝ごはんも食べられた。昼間でも最短5時間半かかる距離を寝ながら進めるのだから、夜行列車としてはこれ以上ないほどの便利さ・快適さであると思う。日本では衰退している夜行列車も、やはりまだまだ活用の価値はあるのではないだろうか。
さて、鉄道での縦断はここで終わりとなるが、まだ道は陸地の端まで続いている。僕はサーソーを最寄駅とする北東の果てにある村「ジョン・オ・グローツ」からやってきた。それと対になる南西の果ての岬「ランズエンド」は、このペンザンスが最寄駅である。
僕はこれからそのランズエンドへ向かう。「地の果て」たるその場所には、一体どんな風景が広がっているのだろうか。
つづく
あとがき
あけましておめでとうございます!2024年一本目の記事になります。
今年も旅の記録やその他いろいろな記事を投稿していく予定です。が、2024年からはより自分らしい表現を極めるため、そして皆さんにより楽しんでもらうため、作風のパワーアップを図っていこうと考えております。現在のイギリス旅行記完結後、新シリーズの旅行記からは新たなスタイルで制作していきます。一体どんな風に変化するのか、それは見てのお楽しみ(まだ書いてない)。
また今年はコミティアなどのイベントにも参加し、より発表の機会を増やしていきたいと思います。従来のnote記事に加えて「本」としての旅行記制作も計画しているので、重ねてお楽しみに。
それでは、今年もよろしくお願いいたします!
【次回予告】
第20回はイギリス本土の南西の果て「ランズエンド(Land's End)」編をお届けします。
それでは今回も最後まで読んでいただきありがとうございました!