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読書ノート「月と六ペンス」
2023年、明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします。
新年一発目はサマセット・モームの『月と六ペンス』。
建築基準法もまっ青なほどに高く積み上がった積読の塔を、一番上から消化して行く正月となりました。
作品が発表されたのは1919年ですが、金原瑞人さんの翻訳のおかげか登場人物の会話の掛け合いがとても面白かった。
ロンドンの株式仲介人チャールズ・ストリックランドは、40歳にしてある日突然妻子を捨ててパリへ旅立ち、絵描きになってしまう。
主人公の「わたし」は、そんなストリックランドに会いに行って、その理由を探りに行く。
「奥様のところへはもどらないんですね?」ようやく、わたしはたずねた。
「絶対に」
「奥様は、すべてを水に流して一からやり直したいとお考えです。あなたをとがめだてするつもりはまったくないとおっしゃっていました」
「くだらん」
「ろくでなしの人非人と思われてもいいんですね? 奥様とお子さんが物乞いをするはめになってもいいんですね?」
「知ったことか」
わたしは次にいう言葉に重みを持たせようと、少し黙った。そして、一語一語ゆっくりと言った。
「あなたは、最低の男だ」
「これで、言いたいことはみんな言ってしまっただろう。夕食を食いに行こう」
クズ過ぎて笑う。
「わたし」とストリックランドの距離感は、終始こんな感じ。なのだが、なんだかそれが心地よかった。
腹の内まですっきり話せて批判し合える仲っていいなと、最近の忘年会フィーバーで作り笑いに疲れた私は思いました。
絵を描くことに完全に取り憑かれていて他のことに一切関心がないストリックランドは、修行僧のようではあるし、しかし好きなことに没頭しているという点では幸福な人間に映るのかもしれない。
少なくとも僕にはこの暮らしはできない。
ずぼらなので。
また、ストリックランドのような人と付き合いたいとも思わない。こんなのに振り回されるとか絶対嫌だし、他人にお金を貸したくない。
なぜストリックランドが順風満帆なロンドンの生活を捨てて、極貧の絵描き暮らしを始めたのか、その理由は後半に明かされます。