観といた方がいいですよ 音声ガイド版『トラペジウム』は……!
※これはアニメ映画『トラペジウム』を周回している人向けの記事です。まだ『トラペジウム』を観ていない(、かつ、特に音声ガイドの必要がない)方は、まずは普通に観といた方がいいですよ 『トラペジウム』は……!
あと普通に隅々までくまなくネタバレだらけなので、その点ご承知おきください。
記事要約
・スマホアプリ「HELLO! MOVIE」を使った『トラペジウム』の音声ガイド付鑑賞は、通常の鑑賞より情報量が大幅に増える
・見落としていた演出を見つけられたり、シーンの解釈が定まったりするので、複数回劇場に足を運んでいる方、運ぶ予定のある方にはとてもオススメ
・音声ガイドは現在、『トラペジウム』の「全映画館・全ての上映」で利用できる
・「HELLO!MOVIE」の使い方と注意点も紹介する
・「HELLO!MOVIE」に最適なイヤホンについても考える
【追記】2024/7/4(木)で多くの映画館が終映になってしまったので、いま『トラペジウム』が観られる映画館のリストはこちら。
復活上映をリクエストできるサービスなんかもある。
音声ガイドで得られる情報
これは大きく分けて3つに分かれる。「改めて声で聴くことで味わいが増す情報」と「音声にされることで描写・演出の意図がはっきりする情報」、そして「音声でしか辿り着けない情報」だ。それぞれ紹介する。
なおナレーションは大意としては合っているはずだが、細かいところは覚え間違いがあり、完全に正確なものではないとお断りしておく。
味わいが増す情報
音声で解説されるだけで味わい深くなる場面は多々ある。
例えば序盤の、いわゆるテネリタスキックの場面。
(ナレーション)足を止める。テネリタス、と書かれたプレートを眺める。
ゆう「なにがテネリタスだよ!!(ガッ」
(ナレーション)蹴りをお見舞いする。
生徒「♪テネリタス~それはやさしさ~ 慈しむ者たちの御園~♪」
もうだいぶ面白い。
次の標的(ターゲット)のところでも
(ナレーション)西テクノ高等専門学校の表(おもて)。制服を着たゆうがやってくる。
見たまんまの情報だが、このナレーションでずいぶん味が変わる。
他にも序盤は事あるごとに「ゆうがニヤリとする」「ゆうがほくそ笑む」「ゆうが悪そうにニヤリとする」が入ってだいぶ面白さが増す。
中盤の工友祭のコスプレ写真館で「撮影は任せてよ」直後に「超ミニワンピースの真司」をすかさず被せてくるところなどは、絵面では(ハイハイ、男子校みてぇな高専のノリね)としか思わないが、改めて声に出されると(しかもナレーションの真面目な声色で「超ミニワンピースの真司」と言われると)面白すぎる。
面白方面だけでなく、エピローグの最後などは、もはや特殊演出のレベルで熱いナレーションが入るので必聴だ。
(ナレーション)最後の作品の前、ゆうを3人が迎える。
美嘉「ねえ、見てよ……!」
ゆう「これ…って……」
(ナレーション)「10年後のあなた」の文字。
ブーケを手に持つ花嫁姿のサチ。くるみと蘭子がふざけあう。前髪を整える美嘉。ゆうの手にはおもちゃのマイク。カメラを向ける真司。
鮮やかに蘇るあの時の空気。天井に届きそうな大きな写真に見入る4人。
無邪気に笑う自分に、蘭子が穏やかな目線を送る。
にまーっとする自分を、パンツスーツのくるみが見上げる。
はしゃぐ自分に、髪を束ねた美嘉が見入る。
最高の笑顔の高校生、ゆう―――
本編ゆう・語り「ただひたすら、アイドルになりたかった。あの時の私は、今より幼稚で、バカで、カッコ悪くて、格好良かった。夢を叶えることの喜びは、叶えた人だけにしかわからない。だから私ははっきり言える。」
(ナレーション)写真に添えられたタイトルは―――
本編ゆう・語り「あの時の私、ありがとう。」
(ナレーション)―――トラペジウム。
「♪通り過ぎる日々を~」
いや、完璧じゃない??
ちなみにオープニングとエンディングについてだけは、曲中にスタッフやキャストらの読み上げが入るため、音声ガイドは良し悪しだと感じる。
それでも「♪東西南北を~」等、イイ歌詞のところはいい感じにうまく被せないようにしていて、それもまた良いのだが。
描写・演出の意図がはっきりする情報
音声ガイドは"見逃してほしくない"情報を音声にしているため、描写や演出の意図がよりはっきりする。
例えば信号機関連。ゆうの野望が順調に行っているときは青信号・危うくなってきたら赤信号というのは当然知られた話だが、ナレーションでも
「高専正門前交差点。信号が青に変わる。」(工友祭の前)
「くるみが薄く笑う。信号が青に変わる。」(AD古賀のテレビ出演依頼後、くるみと蘭子の「どう思った?」~「とりあえず、やってみましょうよ」の問答後)
「青から黄、赤に変わる信号機。」(美嘉彼氏発覚後のゆうが制服でベッドに寝転んでいる直後)
「赤く点灯する信号機。」(くるみ暴れる・「こんな素敵な職業無いよ!」の直前)
と、きちんと拾われている。
オープニングでも「ひとりぼっちでテレビを見る女の子。アイドルに釘付けになる。」と、東ゆうエピソード・ゼロを回収するし、美嘉と再会した後「ノートにペンを走らせるゆう。亀井美嘉。16歳。整形←全然いい」は(他の書き込みもあったが優先して)案内される。
個人的に唸ったのは、東西南北(仮)崩壊後に浜辺でマルサクト遠藤からの電話を受ける前後。「打ち寄せる波が、砂浜についた足跡を消していく。」というナレーションが入るが、言われてみればどう見てもそういう絵だ。これは。
あと、ゆうがCDを買ってスマホの「東西南北」フォルダを順番に眺めるシーン。ステージ衣装の4人の写真を見るところでハッとするが、何を見てハッとしたのかわかっていなかった。が、音声ガイドは「初ライブ直後の自分の表情に目を瞠(みは)る」だった。そうか、自分の表情だったか……
また、音声ガイドは「(それが)"ある"情報」より「"ない"情報」の方が更に強い。その筆頭は、東西南北(仮)の(おそらく)最後の仕事になった冬フェス出演前シーンだろう。3人はダミーマイクだと告げられたゆうが「南さんさあ、歌が苦手って思うなら、練習すりゃいいじゃん」と言い放ち、蘭子たちがこわばった表情になった後のナレーション。
「ゆうが笑顔を忘れ、ステージへの階段を上っていく。」
これ。「怒った顔」でも「憮然とした表情」でもなくて、「笑顔を忘れ」なのだ。画面で十回見ても「笑顔を忘れ」の単語は出なかったので、ここは正直鳥肌が立った。
音声でしか辿り着けない情報
ごくわずかだが、音声ガイドでないと絶対に分からない情報もある。気付いた範囲では3つ。
・AD古賀さんがロケバスを出て「来週スタジオ?」の電話を受けているのは、"サービスエリアの駐車場"
・「東ちゃん、ファンレター届いてるよ」の直前、ゆうが出てくるのはマルサクトの"社長室"
・母親に促されて久しぶりに登校した日は、マルサクト遠藤から「3人の退所手続きが済んだけど、どうする?」と電話がかかってきた"翌日"
いずれもそこまで重大な情報ではないが、隅々まで観る助けには間違いなくなるだろう。
音声ガイドの完成度の高さ
分類の話ではないが、音声ガイドの完成度がとても高いことは特筆すべきだろう。
本編の音声を極力邪魔しないよう、シーンによってはごくわずかな合間を見つけ、適切な情報を適切な音量と声調で叩き込んでくるのはナレーターの宇田川 紫衣那(うだがわ しいな)さんの職人技だと思うし、情報を過不足なく編集し、適切な長さと表現にした台本を作った方もまた職人芸だ。
ナレーション技術の話では、本当にあたかも映画に最初から備わっていたかのように収まりがいいタイミングとテンポだし、それをどうしても崩さざるを得ないシーンで音声ガイドの存在と凄さを感じた。例えば冬フェスの帰り、電車内でSNSの反応を見たゆうの「目を尖らせるゆう。猛スピードで文字を打つも手を止める。『私だけ口パクじゃないからいつも必死なのに私ばっかり損してずるい』と書き、1文字ずつ消していく」という部分。『』内だけは高速で読み上げられる。これは、ここで音声ガイドが「目立つ」からよくないという話ではなく、他で馴染みまくっているのが凄いという話だし、このシーンについてもごく僅かな2秒もないくらいの間隙に、早口だが走らずに収めてきているというのが本当に凄い。
台本の凄さでは、映画開始から8分以上、音声ガイドのナレーション上ではゆうは「少女」としか呼ばれていないという点を挙げたい。オープニングからテネリタスカウトの最後まで「思いつめた顔の少女」「少女が首筋に手を当て深呼吸する」「下校する生徒の波に逆らって立つ少女」「少女が礼拝堂を覗く」「ラケットを持たされ、コートの真ん中に立つ少女」「ボロ負けした少女が追い出される」など、とにかくずっと「少女」と呼ばれ、蘭子への自己紹介、「私は、東ゆうっていいます!」の後からようやく「ゆう」と呼ばれる。そう、もうとっくに忘れていたが、初回鑑賞の冒頭から8分ほどは、名前も知らない少女の奇行を見せられていたのだ。この情報量のコントロールよ。
なお、エピローグでも、ゆうの顔がはっきり映るまでは「インタビューを受ける水色のドレス姿の女性。」のナレーションで、確かにそこは一瞬誰なのか不安になったシーンだなと思い出すなどした。
(顔が映ると同時に「大人のゆうが、笑顔を向ける。」とガイドされる。)
「HELLO!MOVIE」の使い方と注意点
さて、「HELLO!MOVIE」の使い方だが、かなり簡単だ。
①事前にアプリをスマホにダウンロード (iOS) (Android)
②アプリを起動し、「音声ガイド」→検索「トラペジウム」をタップ→「音声ガイドデータのダウンロード」をOK、で、データダウンロード
③劇場でスマホをサイレントモードにし、イヤホンを挿し、待機
あとは映画音声を勝手に拾って勝手に同期して音声ガイドが流れる。
注意点としては、「必ずイヤホンを準備すること」「必ずサイレントモードにすること」だけだろうか。
念のため、劇場で予告編などが流れているタイミングで、スマホ本体から音が出ていないことをチェックしておくといいだろう。機内モードにしておけば、余計な通知なども来なくて安心だ。
自分のスマホとイヤホンさえ用意すれば使える、この「HELLO!MOVIE」は本当に素晴らしい。たとえばこれが「映画館で専用の機器を借りる必要アリ」という形だと、もし他の来場者が目が不自由であった場合に(その意味では本当に必要という訳ではない)自分が使って、目の不自由な人の視聴機会を奪ってしまう心配があるし、なんかどこの誰かもわからない他人が使ったイヤホンを使うのはちょっと・・・という気持ちを抱くことにもなろう。その点、自前のスマホとイヤホンで完結するという仕組みは、それらを一切気にせず(音漏れと光漏れにだけ注意すれば)堂々と使える。画期的だ。
そして、重要なことであるが、このアプリを使った音声ガイドは『トラペジウム』の全国・全館・全上映で利用可能だ。
HELLO!MOVIE利用可能と書いている映画館、書いていない映画館、HELLO!MOVIEのCMを流している映画館、流していない映画館、色々あるが、そんなことは無関係に、全国・全館・全上映で利用可能なので、ぜひ試してみてもらいたい。本当にガイドの出来がいいし、鑑賞体験の味が激変するので。
「HELLO!MOVIE」に最適なイヤホン
これはちょっと考えものだ。適した要素をMUST(必須)とWANT(望ましい)に分けて考えると、
MUST「スマホで利用できる」「音漏れが周囲の鑑賞の妨げにならない」「オリジナルの(映画本来の)音声が聞こえる」
WANT「高価ではない」「他でも使いまわせる」「取り回しが気にならない」「オリジナルの音声がはっきりと聞こえ邪魔にならない」
あたりになるか。
【追記】「光らない」も重要だとのご指摘をいただいた。
イヤホンが光るという発想がなく、光る機種もあるということに考えが至ってなかったので触れていなかったが、確かにそれは重要だ。
色々考えたが、自分はコレを使っている。
まず安い。そして「イヤーピースを外した状態で使えば」映画本来の音声の邪魔をしない。イヤホンジャックのないスマホであれば、この手のアダプタをかませばいい。
その代わり音漏れには注意が必要で、片耳を外して聞くとかはやめておいたほうがいいだろう。
では、よき『トラペジウム』鑑賞を。
ちなみに、本編冒頭映像や「〇〇編」みたいな奴でも部分的に起動できるので、本編の画像と映像を暗記しておけばエア鑑賞もできるゾ。
映画本編音声がなければ30分くらいで切れるけど、『トラペジウム』は本編映像がYouTubeに部分的に多々UPされているので、うまくやればたぶん全編分聴けるような気がする。
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