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生きていることの奇跡。必然の死

病棟の色と匂いは、独特である。灰色がかった白。誰かが横切ったときにふわりと漂う消毒の匂い。学校と同じくらいの大きな病棟。廊下以外は人で溢れかえっている。いまはもうない市場の隣にそびえ立つ、巨大な病院。国立がんセンターに僕はいた。 2階の患者待合室は、呼吸器内外科、乳腺腫瘍外科、整形外科の診察室に囲まれて、番号で管理された患者たちが100名近くいる。こじんまりとした椅子に僕は座り身体の中心からくるとめどない恐怖に震えながら、診察を待つ。50代、60代、70代の人が8割を占める

    • 歴男と神戸の女

       会社の事務所のそばにあるいろは寿司は手頃な値段でそこそこのネタがたべられる。当時六本木ヒルズにあったWeb系企業にいた頃からの通いになるから、かれこれもう15年位たつのだろうか。あの頃はまさか自分が会社を立ち上げ、中目黒に事務所を設け、いろは寿司で生ビールを飲みながら刺し身をつまむようになるとは夢にも思ってなかった。  いつもほぼ満席なのに、かならずカウンターの1席だけは僕を待つかのように空いている。左から二番目の、大将が担当するネタケースの前だ。左隣は妙齢の女性ひとり客