生きていることの奇跡。必然の死
病棟の色と匂いは、独特である。灰色がかった白。誰かが横切ったときにふわりと漂う消毒の匂い。学校と同じくらいの大きな病棟。廊下以外は人で溢れかえっている。いまはもうない市場の隣にそびえ立つ、巨大な病院。国立がんセンターに僕はいた。
2階の患者待合室は、呼吸器内外科、乳腺腫瘍外科、整形外科の診察室に囲まれて、番号で管理された患者たちが100名近くいる。こじんまりとした椅子に僕は座り身体の中心からくるとめどない恐怖に震えながら、診察を待つ。50代、60代、70代の人が8割を占める