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「時の囁き」について語る

からくりの森に参加したということは、以下の記事ですこし書きましたが、その続きを作品ごとに個別に書いていこうと思います。

ちょっと書きすぎてしまってるので、作品を見たあとに読んでもらうのがベストではあります。

機械式時計の魅力

「からくりの森」に参加するのは二回目で、機械式腕時計について考えるのも2回目。2年目という言い方でも間違ってないと思います。とにかくいろいろ考えてきました。

機械式腕時計のムーブメント

「機械式腕時計のムーブメントを活用して機械式腕時計の魅力を伝えてほしい」というお題なんですが、機械が好きな自分にとってはこのままで十分素敵なんですよね。

この魅力を伝えようと思うと、実際はとても小さいのでそれを「拡大して見る」というのがとてもシンプルな方法です。静止画でも魅力がありますが、やはり動いてるととてもいいです。小さな歯車やガンギ車、テンプなどの動きがとても素晴らしいです。

ビデオカメラでとらえてモニターに投影するということでも「拡大してみる」ということは達成できます。実際当初はその方法で見せることも考えていました。

今の時代における機械式腕時計の意味

今、時計というものは精度だけを考えるならば、クォーツ時計のほうが精度が高いですし、スマホなんかは通信を活用して常に正確な時間を伝えてくれます。つまり「精度を追求する」ということだけで言えば他の方式が勝っているわけです。

大航海時代なんかは正確に現在位置の経度を知るための方法として「正確な時計」というものが求められたわけですが、現在はGPSなどの技術があります。

そんな今でもなお「機械式時計」というゼンマイに蓄えられた動力をゆっくりほどき、テンプやガンギ車によって正確に時間を得ようとすることは一体何のか。

実際にセイコーさんの工房に伺ってどのように製造されているのかを見学してきましたが、様々なプロセスで「精度」を検査し調整されていました。ものすごい手間と時間が費やされていました。

自分なんかは、この取り組みについては「ロマン」をビシビシと感じました。「機械式でどこまでいけるか」という精度の高い製品の安定供給ということもありますが「機械の美しさを追求する」というのもとても共感することです。つまり、自分が感じたのはセイコーさんは「ロマンを身に纏う製品を販売してる」ということです。

ロマンの意義

私はsiroという会社の仕事の中で、様々なものづくりをしていますが、ロマンを感じて仕事をすることはあります。特に作品のようなものを作るときはある種、ロマンを追い求めるようなことをしています。

今、現代、ロマンというものはどういう存在なんでしょうか。現代はタイパなどの言葉に代表されるように「効率」を追い求めているようです。無駄を極力排除し実用主義的な思想の人が多いかもしれません。

私は持論としては「無駄こそが素晴らしい」と思っています。美の追求だって、実用主義の視点で見ると無駄になってしまうかもしれません。面白さの追求だって同様に無駄と認定されることもあるかもしれません。

でも、我々は素晴らしい人生を過ごしたくて生きているわけで、その素晴らしい人生の構成要素はほとんどが無駄と判定されるようなことにあると思っています。

つまり、何が言いたいかというと「ロマンを追い求める」ということが現代の社会において軽視されていく傾向があるのだとしたら、それに抗っていきたいと思うわけです。

あ、なんかすいません、熱くなってこの記事にとって蛇足となるような方向に。いや、それこそが大事で….。

光学の魅力

時計にまつわる、クオーツと機械式の対立のようなものは、カメラでもあるんじゃないかと思います。フィルムカメラとデジタルカメラの対立ですね。時代としてはデジタルカメラが多くのケースで使われており、アナログは一部の特殊なケースにおいて使われるという感じになっています。

この「カメラ」というジャンルはとても魅力的です。機械というのに加えてレンズという「光学の技術」が入ってきます。

実は機械の世界では小さなパーツなどを確認するのに投影機というのが使われています。

知人が使ってる投影機。しかもガンギ車を見ている。

小さなものを大きく見ると言う時に光学は古くから使われているやりかたなんですね。

ロマンをロマンで伝えるというロマン

我々としては、「機械式腕時計から伝わってくるロマン」を展覧会に訪れる人に伝えたいと思いました。その伝える方法として、機械式腕時計の小さいパーツが動いてる姿を味わいやすいサイズで投影すること。その投影にもまた同種のロマンを感じる光学的な手法で実現しようと、そういうアイデアです。

投影機を自作し作品とする

このミッションはちょっと自分だけでは難しいです。なので助っ人としていつも一緒に仕事してる中で一番光学に詳しい高田 徹(鉄塔)を呼びました。

高田くんに「レンズを使って機械式腕時計の姿を大きく投影したい」という相談をしました。

送られてきた実験の写真

なんと、機械式腕時計のムーブメントが金属で出来ていて銀色であることがとても良く、反射光をレンズに通すことで拡大投影できたとのことです。

上記は高田くんから送られてきたスタディの結果です。正直このスタディ結果をもらった時に「きた!!!!」と大声だしたと思います。心の声が声帯を震わせていました。

一緒にプランをしていた渡辺 浩彰(VODALES)も同様の反応です。これは完全に勝ち筋が見えたと言うか、プランが実る瞬間でした。

作品にするために

とはいえ、このままでは、謎の投影機の作品があって時計が美しく投影されているだけです。魅力を伝える装置としてはそれでいいと思うわけですが、なにか足りません。

そこで渡辺とプランをしたところ、文字を組み合わせるアイデアがでました。

というのも、ロマンを伝えるというのは難しいことだと思っています。もともと時計や光学にロマンを感じてる人たちはものがあるだけでいいんですが、そこに関心が薄い人にも伝えたいと思うわけです。

であれば、我々のようにロマンを感じてる人の気持を詩にこめて、それを読んでもらえたらいいんじゃないかと思ったわけです。気持ちの共感のためにとてもいい。かつ、作品としての物足りなさも補えます。「詩」という手法がよさそうです。

体験の構造。これは機能の話。

展示の準備をしていて、プロジェクターで時計を投影してると思っている人がいることがわかりました。

仕組みが分かる人にはこれだけで「え!」ってなる

なので、展示台側に説明をいれることにしました。キャプションのようにヒントを求めてそれを見たら仕組みの意味が理解できる。それさえも詩にすることにしました。この展示台のグラフィックは松下 裕子さんにデザインしてもらいました。

展示台にいれた説明を担う詩

本編の詩は以下のような感じです。

時計の動きを眺めていると、精密な機械の動きに見とれてしまう。正確に時間を刻んでいる淀みない動きに徐々に引き込まれる。一定のリズムなはずなのに、早く見えたり遅く見えたりする。

たまに、自分が時計の中に入ってしまったかのような錯覚に陥ることがある。時刻を知らせるはずの時計にみとれて、時間を忘れてしまうとは。

松山が書くのはエッセイ的なノリ

その灯に浮かぶ画は

幻影と呼ぶには生々しく
実像と呼ぶには儚げで

映し出される力強い鼓動に
幻の生を見るワタシ

ワタシもまた
脈動する機械という影像

渡辺が書くのはより詩らしい表現

さらに英語しかわからないお客さんがくるかもとの話があったので、松下 裕子さんにお願いして英語の詩を書いてもらいました。

Moment to moment, movement to movement—
An endless chain, the pulse of life.

I open its heart, make sure it’s there,
Then close it gently, trusting the beat.

It ticks on,
Even as I dream, even when I’m gone.

松下さんに書いてもらった英語の詩

機能性のある作品

からくりの森という展覧会がそもそもですが、純然たるアートの展覧会とは違います。セイコーさんのオーダーにより機械式腕時計の魅力を伝えるというミッションのなか、それぞれが新作を作ります。

そういう点では「時の囁き」の作り方は真っ当ではありますが、作家としてはちょっと違う気持ちで取り組んでいます。

昨年の「時のしずく」も今年SPLINE DESIGN HUBと作った「時の足音」も自分たちが作ったんだぞ!という意思を強く出します。つまりどういうことかというと、クリエイターの領域に引きずり込んで、最も得意とする領域で表現するということです。

「時のしずく」では、松山が最も得意とする水の表現にしました。「時の足音」では、神山が最も得意とするロボ的なメカ表現にしました。

「時の囁き」では、高田や渡辺などそれぞれのスキルは活かしていますし、松山がプログラミングなどで組み立てたわけですが、なんというか日頃siroでやってる仕事のやり方にとても近いです。

目的を達成するためにベストな方法を考え、それに必要な人を集め、見る人にうまく伝えられるようにあの手この手で調整していきます。

仕上がったものをみて、その差を感じることはないかもしれませんが、少なくとも松山としては違う側面で勝負したと思っています。

完成した作品の姿

まとめ

展覧会全体をみわたして、このピースがハマるともっと良くなるというものを作るということで取り組みました。仕事でやってる「展示を作る」という内容にとても近く、なんというか軽やかに取り組めて楽しかったです。

ただ、レンズを使った作品を作れた!というのはとても大きいです。圧倒的な表現力で、圧倒的に魅力的です。この発見は今後の作品づくりにも生かされそうな予感です。

無限の解像度、無限の時間解像度を味わっていただくには実物をみるしかないです。ぜひ会場に行ける方は会場でみてください。詩も全部で20篇ありますので、ご堪能ください。

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