モーターを水槽内に入れる…!?メガパワー開発の葛藤
外部式フィルターメガパワー(MEGA POWER)。今から13年前の2008年にジェックスがオリジナルで企画・設計した初めての外部式フィルターです。
現在(2021/7)のマーケットシェアは約40%。発売当初からは想像できなかった高い支持をいただいています。ドイツ生まれの歴史あるフィルターや、価格帯としてはメガパワーを下回るようなメーカーがひしめく外部式フィルター市場で、どうやって独自の地位を築こうと考えたか、そのあたりをお話させていただきたいと思います。
なんでモーターがタンク内にないの…?
メガパワーの最大のポイント且つ、評価の分かれ目になっている『モーターの取り付け位置』の話。
2008年当時、日本で60cm水槽クラス対応の外部フィルターを展開していたのはエーハイムさん、テトラさん、コトブキさん、日動(日本動物薬品)さん。いずれの外部式フィルターも、ろ過槽タンクの上部位置にモーターが内蔵されていました。
それが当たり前の構造ですから、当然、ジェックスでも「当たり前」の構造で開発を進めよう、、、という空気がありました。しかし、当時はエーハイムを除き、外部フィルターは価格競争が激しくなっていた時期。「当たり前」の構造で後発で市場参入しても、結局は「安くないと選ばれない」となることは明らかでした。
そこで、当時普及していた外部式フィルターを徹底的に研究しました。何かプラスの要素を加えて差別化ができないか。水槽枠にサブタンクを引っ掛けて、一次濾過をしてそれをサイフォンで落として…などという奇抜なアイデアも出たりして…
しかし一つの結論は、何か差別化点を加えるとそれが品質上のリスクになりやすいのが外部式フィルター、ということ。水槽の上や水中に設置するフィルターとは違い、水槽の外に置く外部式フィルターは万が一の事故が起きると水漏れの被害は甚大です。
なので、当たり前だったモーターINのタンク構造に、なにかユーザーベネフィットになるようなギミックは止めたほうがいい、ということになりました。
タンク内モーター設置タイプのデメリット
外部式フィルターのろ過槽上部位置にモーターを設置(内蔵)する、最も普及しているタイプの外部式フィルター。
もちろん各社しっかりした品質でつくられている外部式フィルターが選ばれるわけですが、構造上、どうしても避けられないデメリットがあることを当時のユーザーインタビューやお店、問屋さんの声から知ることができました。
まず、「異音」。これは機械的な異音ではなく、モーター内に空気が入り込むことでモーター内のインペラーがカタカタ、と鳴る音が発生する現象。なぜその現象が起きるかというと、ろ過槽にモーターを設置することで、モーターが水槽からろ過槽内水を「吸い込む」という仕組みが影響して、ろ過槽内に「負圧」が発生します。
この負圧は例えば水槽内の吸い込み口が詰まったりすると余計に強くなり、送水ホースのつなぎ目やろ過槽タンクのパッキン部分などから空気を微量に吸い込むことがある、ということがわかりました。
もちろん、正常な商品では発生しない現象ですが、インタビューでは多くの人がこのモーター内(インペラー部)のカラカラ音を経験していました。
そうしてもう一つ良く聞いたことがろ過槽の蓋が「開かない」、「メンテナンスがしにくい」という声。そもそも、外部式フィルターは他のフィルターに比べてメンテナンス頻度は低いのですが、それでも、さあ、メンテナンスするぞ!というときの「あれ?開かない!」という不満はあったようでした。
この「蓋が開かない」というのも、負圧と関係がありそうでした。これはメガパワーでも言えることですが、ろ過槽のパッキン部分はどうしても試用期間が長くなると劣化し、弾力性を失って固定化していきます。
しかしそこに「負圧」が加わると、ピッタリと張り付いて剥がれないような現象が起きやすくなる、ということもわかりました。
モーターを外に出せば解決するのか…
まあ、単純にモーターを外に出せばすべて解決、ということであれば他のメーカーさんもトライしていたわけで、そう簡単に答えにはたどりつけません。
例えば、そもそもモーターを外に出す、ということは、水槽の中に余計なモノが増えることになり、単純に水景から用品の存在を限りなく排除したい、というニーズにはマッチしません。
また、モーターが水槽内にあることで水温が上昇するのでは、という懸念もありました。(これは検証の結果、ほとんど影響はなかったですが、、)
こうしたデメリットを並べると開発に踏み切れない理由はいくらでも出てきます。が、ここで私たちが考えたのは、それでもやはりお客様(飼育者)の声を聞いてみよう、ということでした。
調査結果としてはモーターを外に出すことで得られるメリット、「エア噛みの減少」「ろ過槽の容積を広く取れる」「メンテナンス時にろ過槽タンクだけ移動できる」などの項目で支持いただけることがわかりました。
マーケティングとして考えたこと
どんな商品の開発でもそうですが、すべてのお客様のニーズを一つの商品で満たすことはできません。このメガパワーも「モーターを水槽内に入れるのは絶対イヤだ!」というお客様には受け入れられない商品です。
発売当初はこのメリットをお店さまや問屋さまに伝えるのが本当に難しく、広告やプロモーションを大々的に行いました。
それでも、今日現在で約40%のシェアをいただいているということは、約4割のお客様はメガパワーのメリットに期待をいただいている、と考えることもできます。このような支持をいただいているからこそ、メガパワー独自の特徴をもっと活かして、強化してくような進化が必要、とも考えています。
「メガパワー」のネーミングって
商品の記事を書いた最後は、ネーミングの由来を紹介しようかな…と思ってます!
まず、私の構想の中でジェックスのフィルターブランドには、可能な限り「POWER」という文字を入れたい、ということがありました。やっぱり、ろ過能力に期待されるのがフィルターなので、力強さが欲しい!
(色々な事情でなかなか難しいのですが、、、)
そして、パワーが大きい!ということを謳いたいので、「メガ」という単位語をつけました。社内からは「ギガのほうが単位が大きい!」とか、「もっと上を狙って『テラ・パワー』でいこう!」みたいな提案もありましたが、今思えば、メガにとどめておいてよかった…(笑)
あとは気になっていたのは、フィルターだったら商品名に「***フィルター」とつけたほうがいいのか、、、ということは迷いました。
それでも、ターゲットとなるお客様はアクアリウムに精通している方が多いだろう、ということで「フィルター」という名称は使わないことにしました。
これから
さて、マーケットにはまだ6割のメガパワーを使っていない方がいます。メガパワーの魅力をもっと伝えて、次はぜひメガパワーを選んでもらえるようにしつつ、やっぱり、メガパワーとは違う構造の外部式フィルターにも、ジェックスとしてトライしないと、、とも思ったりします。
発売から13年、もっともっとがんばらないと、です。