新しい市場を創る、ということ
とある販売店さまに商談でお邪魔した際、建物に書いてあった言葉で『創るをつくる』とありました。マーケティングに関わる者として、「あぁ、いい言葉だなぁ」と思いました。
商売の世界では、「売れないものを売るのが営業」なんて言われることがあります。それと一緒で、マーケターは『顧客が欲しいと思うものではなく、欲しい、と気づいていないものを考えるのが仕事』などと言われることがあります。
ニーズやウォンツ、市場調査に消費者調査、定性調査に定量調査などマーケティングに関わる手法はたくさんありますが、おそらくAIがどんなに発達しても、コンピュータには今、目に見えていないニーズに応える回答は出せないのでは、と思います。
新しい市場を創る、という視点で考えると、やはり想像できる商品には市場を創るほどのパワーがないことがほとんどです。
しかし、想像できる商品の場合でも、異なる視点からのニーズを組み合わせた場合、小さな市場が劇的に大きく成長する場合があります。
今回はそんなお話をしてみたいと思います。
小さな市場を大きな市場に創りかえる
成長市場の中にはときに大きなヒントをくれるユーザーがいたりします。私たちは「リードユーザー」と呼んだりしていますが、わかりやすく言うと、『問題解決を手づくりのモノでしている人』です。
その問題解決が、より多くの人の問題解決に応用できそうだったりすると、新しい市場に発展する可能性が高くなります。もちろん、メーカーが手掛けるのであれば、それは何らかの技術革新を持って更なる問題解決を伴うものにするのが理想です。
ここでお話するメダカの産卵床、そのヒントをくれたのは社内のメダカ飼育者でした。メダカマニアさんがたまたま、産卵床を手づくりして使っていたのです。
今でこそ、100円均一などのスポンジと浮くための発泡素材を組み合わせた産卵床は手づくりから販売されるものまでたくさん普及していますが、ジェックスが開発着手したころはネット上でもほとんど出回っていませんでした。
なぜ、ジェックスがその産卵床をつくることになったのか。それは、その後開発を一緒に行うことになった、技術と素材を提供いただいたパートナー企業さまとの出会いでした。
抗菌作用を『卵を守る』に応用
そのパートナー企業さまとは「東洋紡」さん。銀世界、という衣類ではお馴染みの抗菌作用のある繊維を開発している超大手企業。銀世界を観賞魚飼育に応用できませんか、という売り込みをいただいていました。
当初は濾過材に応用できないか、ということを考えていましたが、銀世界という繊維は、繊維に触れたものにだけ抗菌作用があるため、水自体に良い意味で影響がない、悪くいえば作用しない、というものでした。
世の中にある技術は何かと組み合わせて初めて意味のあるモノに生まれ変わります。小さな業界でありますが、その組み合わせに「メダカの産卵床」が合致したことは本当にラッキーだったといえます。
メダカの産卵や繁殖の周辺には飼育者の悩みが存在していることは、過去の調査からもわかっていました。その悩みの中に「卵に生えるカビ」ということがあり、東洋紡さんの技術資料と照らし合わせたときに、『これは、もしかして、、、』となりました。
たしかに、メダカの卵には一定数の無精卵が存在し、その無精卵は成長しないのでカビが生えやすくなります。そしてそのカビは有精卵にも広がることがあり、孵化までに水温25℃で約10日間かかるメダカの卵の場合、命取りになることもあります。
もし、繊維でその卵のカビが防げたら…
ジェックスラボの検証は「効果あり!」
早速、ジェックスラボ研究所でカビ発生度合いの試験を実施しました。結果は見事に繊維に触れた卵からのカビの発生抑制に有意性あり、となりました。しかも、この繊維のいいところは、繊維に触れたものだけに作用するので、水中に抗菌作用が広がらないこと、つまり微生物などに影響がないこと。
濾過材だとすると適さない素材の素質が、産卵床だと逆に大きくプラスになる、という結果になりました。
個人が手づくりでつくっていた産卵床。そこに『卵のカビをなんとかしたい』というユーザーのニーズを取り込み、一般的に使えるものに仕上げたのがこの「メダカ元気 卵のお守り産卵床」です。
実はこの繊維の硬さ、色合いはオリジナルに調整してあって、メダカのプロブリーダーさんに長さから太さ、やわらかさまでアドバイスいただいたものだったりします。
最近ではライバルメーカーさんからも似たような産卵床が発売され始めています。市場がより大きくなって、便利な産卵床をつかう人が増えるのはマーケットにとってはとても良いことです。
でも、「繊維の力でカビから卵を守れるのはメダカ元気の産卵床だけ!!」と大きな声で言わせてください(笑)
ネーミングの由来は…
さて、恒例の商品名の由来について。。
商品名を決めるときは、ほとんどの場合関係者で集まってブレスト(意見の出し合い)をします。この商品の場合、覚えやすい商品名にしたかったこと、後に徳用やシリーズ商品が出ることを想定して、短い名前に、という前提で決めました。
で、「卵」と「守る」は欲しいよね、、となり「卵のお守り」となりました。メダカ元気シリーズの商品フォントはほとんどが太明朝なんですが、もとはこの産卵床の「お守り感」を出すために、太明朝を採用したことに始まった、と記憶しています。
おかげさまで発売以来、累計で160万個、という大きな販売数を記録。それまでなかった新しい市場の創造にも微力ながら貢献しています。
せっかくできた市場を、ユーザーニーズに正しく応えながらより満足いただける産卵床へと、これからも進化しなければなりません。
『創るをつくる』
これからも組み合わせの妙、で未充足のニーズに応えていきます。