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猫に名前をつけるのは

♪猫に名前をつけるのは とても難しい事なのです

ミュージカル『CATS』のこのナンバーが大好きだ。
ナンバーは、猫には3つの名前があると歌う。
1つ目は、日常的に家族が気楽に呼ぶありきたりな名前。
2つ目は、その猫の個性に合わせた名前。
3つ目は、人間には知る事の出来ない、『唯一の名前』。

我が家の猫の名前は『だんご』である。
名前の由来は、お団子のような極短かぎ尻尾である。

お分かりいただけるだろうか
お分かりいただけただろうか

だんごは、9月末に我が家に強奪される1か月ほど前から我が家の周辺に姿を現していたらしい。らしい、というのは、私はお目にかかった事がなかったからである。だが、にーさんは私に先んじて目撃していて、ものすごい短いかぎ尻尾の子がいるよ、と教えてくれたのだ。
私は近所の猫に勝手に仮名をつける癖がある。
全身真っ黒だから黒井さん。
長毛の立派な姿で窓辺にいるから事務長さん。
事務長さんの側にいつも並んでいるから事務方さん。
キジトラだけどお腹が白いからハラジロさん。
私のネーミングは脳直フラッシュアイディアの極致である。
なので、その短いかぎ尻尾、という情報を得た時点で私は宣告したのだ。
「じゃあ、だんごさんだな」
それはあくまでも身内だけの呼び名だったのだ。

だんごが我が家に保護された日、猫好き住人たちが使っていないケージや猫トイレや当座のフードを運んできてくれた時に、どんな名前で病院にカルテを作ってもらおうかという話になった。その時ににーさんが口を滑らせた。
「うちでは外をうろついてたときから『だんごさん』って呼んでました」
「あらかわいい、じゃあそれでいいわね、だんごちゃん」
しまった、と思ったが時すでに遅し、覆水盆に返らず、零れたミルクを嘆いても無駄だ、言質は取られてしまった。
それからあっという間にマンション中に猫の名前が広まり、他の候補を考える余地もなく皆が聞くのだ。

「だんごちゃんの具合どうですか?」
「だんごちゃんは元気にしてますか?」

かくして、この極短かぎ尻尾を持つ猫の名前は『だんご』と決まった。
元はと言えば私の脳直フラッシュアイディアが原因なので、自業自得と言われればご尤もと恥じ入るしかない。
けれど、私だってもう少し楽しみたかった。
ジェリーロラムとかラムタムタガーとかジェニエニドッツとかボンパルリーナとかコリコパッドとか、なんかそういう個性的な名前を必死に考えて考えて考えて考え尽くした結果として、『だんご』という日常的且つ猫の特徴を生かした名前にたどり着きたかった。
名前の羅列でお気づきかと思うが、私は筋金入りのミュージカル馬鹿である。だからこそ、ルミエールとかコグスワースとかマリウスとかエリックとかクリスとかアレクサンダーとかチャーリーとかエンジェルとかフランクン・フルターとか、なんかそういう名前だって視野に入れたかった……入れたかった!!
しかし既に名前は決まり、猫も己の名前が『だんご』であることを受け入れ、呼べば「なごーん」と応えもするのである。病院のカルテとて『だんごちゃん』で作られてしまった、今更変えるわけにはいかない。

だから今の私に残された楽しみは、猫がぼんやりとあらぬ方を見ている時に、
「ああ、今だんごが考えている『唯一の名』はどういう物なんだろう」
と勝手な妄想を繰り広げる事だけである。


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