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来し方

うちの猫は基本的にドライフードしか口にしない。高級ウエットフードを人肌に温めようが、ササミを茹でて解して茹で汁と共に差し出そうが、猫用かつお節を鼻先に差し出そうが見向きもしない。最終奥義ちゅーるも不発だった。唯一興味を示すのが乳製品で、人がバターたっぷりのホットケーキや、生クリームたっぷりのショートケーキや、バニラアイスを食べていると寄ってきて匂いを嗅ごうとする。もちろん人間用の食品は与えないように鉄壁のディフェンスを発揮しているが、それでもやはり興味があるなら食べさせてやりたい。そこで猫用ミルクや猫用チーズなど買ってきては顔の前にちらつかせてみるのだが、ミルクは小さじ1杯分、チーズは2欠片も食べると満足したように離れて行く。
このような食事の仕方からして、うちの猫は絶対元々どこかの飼い猫だったろうと確信している。

野良猫立ち寄り所だった実家に遊びに来ていた猫たちは、皆ドライフード以外の食べ物に目の色を変えた。それが食べ物だときちんと認識していた。だが、うちの猫のウエットフードやササミへの無関心さは、それらを食べ物だと認識していない可能性すら考えられる。若干嗅覚が弱いという特性を差し引いても、かつお節に興味も示さないという猫は私にとってだんごが始めてだった。
ドライフードと乳製品だけで生きていける環境というのは、すなわち人間から与えられた食事だけで生きていける環境だ。家飼いだったか外飼いだったかまではわからないが、少なくとも誰かがだんごに食事を与えていたのだろう。去勢だってしてくれたのだ。妖怪すねこすりのように誰彼構わず足元に絡みついて撫で撫でを強要する甘ったれた性格だって、人が優しくしてくれたという経験があればこそだと思う。
その誰かはどこにいるのか。
そして何故だんごは、その誰かの元を離れてうちの猫になったのか。
考えてもあまり喜ばしい事態は想像できないけれど、それでもだんごがうちの猫になるまで元気に生きてこられたのはその誰かのおかげである。
その事にだけは、深く感謝している。


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