消せないアラーム

電車で、60くらいのおっさんのスマホから急に

「早よ起きやぁ、遅刻遅刻ぅ!」

というアラームが爆音で流れ出し、おじさんが慌てて消そうとするも消えない

「早よ起きやぁ、遅刻遅刻ぅ!」

という軽快な声が車内に響き渡る
おじさんは小さい声で恥ずかしそうに

「すみません、すみません」

と口ずさみながら慌てて消そうとしているが、消えない
車内の冷たさと焦るおじさんの温度差は大きくなるばかりだった

「早よ起きやぁ、遅刻遅刻ぅ!」

もう何度目かわからないその軽快なアラームは、もはや車内に馴染んでいた
おじさんは、

「あっ、そうかっ、」

と何かに気づいた
そう、音量である
消せないのであれば音量を最小にすればよい

「早よ起きやぁ、遅刻遅刻ぅ!」

どんどん小さくなっていくアラーム。しかし、静かすぎる車内においては、最小に設定されたアラームは未だ存在感を放っていた
おじさんは体にスピーカー部を押し当て、必死に音を消そうとしている。しかし、押し当てていた部分がずれ、スピーカーが露わになる。

ぷはぁっ。

スピーカーがそう言ったように聞こえた。

「早よ起きやぁ、遅刻遅刻ぅ!」

おじさんが安眠できる日は、当分来ないだろう

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